ランディスと武器
ランディスはドヤ顔で胸を張り、模擬剣のバスタードソードを目の前に掲げている。
……ランディスさんや、何故そんなに自信ありげなんだい?
「まあ良いか。打ち合ってみればわかることだしね。さあ、どこからでもかかって来て良いよ」
「おう! それじゃあ行くぜ!」
僕が構えるやいなや、待ちきれなくなったランディスが正面から突撃してくる。……ふむ、駆け引きは無し、か。
裏庭の広さにも限度があるのでそれほど広くは使えない。しかし考えなしに突っ込んで来るランディスをいなすだけのスペースであれば十分に取れている。
力に任せて次々と攻撃を放ってくるのは良いが、先ほどからほとんど鈍器としてしか利用していないのではないだろうか?
このままではランディスにとっても余り訓練にならないであろうという事に気づくまでそれほど時間は掛からなかった。
……が、ランディスはその事に気がついているのだろうか?
「攻めてこねぇならどんどん行くぜ!」
そう言いながらバスタードソードを大きく振りかぶり上段から振り下ろしてくる。
ランディスの渾身の一撃を受け流しながら、一度大きくランディスを弾き飛ばす。
後方に弾き飛ばされたランディスは、その身をひらりとひねり音もなく着地する。
そして身体を屈めて溜めを作りこちらに視線を戻したランディスに向かって手を開いて突き出す。
「ちょっとストップ」
「え!?」
恐らくはこちらに飛び込んでくる算段だったのだろう。突然制止した事でバランスを崩したランディスはすんでのところで転びそうになるのをこらえる。
「バーナード兄、そりゃあねぇぜ。って、どうしたんだ?」
眉間に人差し指を当ててどうしたものかと考えて、ふと視線を向けるとそこにはランディスが不安気にこちらを向いている。
「……何だよ、何か困った顔してっけど」
「あー、うん。結構困った問題かな」
探索者を目指すランディスの目の前に、探索者として活躍しているジークが身近な存在として現れてしまったために、これまで経験してきた武器を捨ててしまったということか。ん、いや――
「ちょっと教えてほしいんだけど、ランディスがこれまで使った中で一番扱いやすかった武器って何?」
「そりゃあ、このバスタードソードに決まってんだろ!」
「……ちなみに他にどんな武器を使ったことがあるかな?」
僕はある一つの答えに到達しつつも直接確認することをやめられなかった。
ランディスは少し斜め上を見ながら記憶を辿っている。そんな姿を見つつ回答を待つ間、無意識に喉を鳴らす。
「何って、石だろ? 木の棒だろ? ゴミ拾いで手に入れた包丁とか使いやすかったな。他には――」
「アー、ウン。ワカッタ」
「……何か気持ちが入ってねぇ気がするけど」
嫌な予感が的中した。
そりゃそうか、ランディスは孤児だったんだ。孤児になってしまったのがいつ頃なのかは聞いたことがないが、この孤児院に引き取られる前は日々生きていくことに精一杯だったはずだ。
普通に会話が出来るから気にしていなかったが、教養も足りていないのは火を見るより明らかである。
孤児の中には仲間同士のつながりで武器を調達出来る者もいるかもしれないが、ランディスにはそのような伝手は持ち合わせていなかったということだろう。
……さて、そうなると俄然困ってしまうな。
とはいえ全く手がないわけでもない。それは、ランディスが黒豹獣人のハーフであるということだ。
例え武器を使用した経験は少なかったとしても、その身体は十分に力を持っている。
一見、多少はほっそりとして見えるが、その筋力や骨格はしっかりとしており、十分なしなやかさを持っている。
ハーフとはいえ、その身体能力は人間のレベルから見れば目を見張るものを持っている。
これはランディスが自らの力に自信を持っていることにも現れている。
「よし、まずはそのバスタードソードをやめようか」
「え!? な、なんでだよ」
僕の突然の提案に慌てるランディスを尻目に話を続ける。
「うん、非常に言いにくいんだけど、その武器はランディスには全然合ってない。その剣は鈍器じゃあないんだ」
「そ、それは使ってる内に慣れるってジーク兄も言ってたぜ?」
「長い時間を掛けるのなら、ね。でも今のランディスには目をつぶっていても勝てそうだ。ランディスは成人したらすぐにでも探索者になるつもりだよね? でもこの状態では多分ジーク達も反対すると思う」
ランディスは先ほどの攻防を思い出したのだろう。僕は明らかに手を抜いている、にも関わらずランディスの放った攻撃は僕に一度も届くことはなかった。
僕相手では流石に実力差がありすぎるから何の参考にもならないとは思うが、恐らく一般的な探索者基準でも足りていないだろう。明らかに武器が足を引っ張っている。
「……この剣をやめればすぐに探索者になれるのか?」
「それはランディス次第だから分からない。でも今よりは断然違うと思う」
「俺はどうすりゃあ良いんだ?」
ランディスが素直に問いかけてくるのを微笑みながら見る。
それに気付いたランディスは咄嗟に目を逸らした。
「もし良かったら、これを使ってみると良い」
僕はアイテムポーチから一組の武器を取り出してランディスに向かって放り投げる。
一瞬目を離したせいで反応が遅れたランディスはバランスを崩しながらも何とかキャッチする。
「こ、これは!? ……って、防具じゃねえか」
一瞬だけ期待した表情を見せたが、実際に目にした物は期待にそぐわなかったのか、明らかに落胆の色を見せる。がっかりするのはもう少し待ってほしいんだけどな。
「確かに防具だね、手甲と足甲だよ。ただとびっきり固く作ってある。それを武器にして戦うんだ」
「これを、武器に?」
「うん、先ほど弾き飛ばした時にも思ったんだけど、ランディスの身のこなしはしなやかさで力強い。それを活かすには大振りの武器は必要ない。その防具は先ほど説明したように非常に固く作ってある。その分重いとは思うけどランディスの身体能力ならお釣りが来ると思う」
落ち込みの色を見せていたランディスの表情は僕が話が進む内に明るいものになっていた。
「少しはやる気は復活したかい?」
「わかった! 俺、これを試してみるぜ!」
「よし、良い返事だ。それじゃあ、それを身につけたら再開しよう」
「おう!」
裏庭にランディスの元気な返事が響き渡る。
――打ち合いの訓練を終えて、僕は近くに置いてあった椅子に腰掛けた。
それを待ち構えていたように一人の女性が自然に近づいてくる。もちろんアリスだ。
「バーナード様、お疲れ様でした。お飲み物をどうぞ」
「ありがとう。んー運動した後の冷たい飲み物は美味しいね。ランディスの分もあるから飲んだら良いよ」
そう声を掛けてはいるものの、ランディスからの反応は無い。いや、無いと言うのは少しばかり語弊があるだろうか。
視線の先で地面に仰向けに倒れているランディスに目を向ける。
武器を変えてからのランディスの動きは中々見事な物だった。
余計な得物がなくなったためだろう、技術や駆け引きよりも本能で戦っているといえば良いのだろうか、感が鋭くなった分だけこちらが繰り出すフェイントに引っかかることは少なくなったと思われる。
また手甲や足甲による一撃一撃は僕が思っている以上に強力なものに変わった。
……のは良いのだが、少々重めに作ってある手甲と足甲を扱いに慣れていないランディスが本能に近い動きで振り回すには、想像以上に気力と体力を消費するようだった。
身体能力に秀でていたはずのランディスでも瞬く間に消耗してしまったのだ。
これはジークの言葉を借りるなら扱いに慣れれば大丈夫だろう。
継戦能力が足りていない状態では当然ながら探索者となることに許可をするわけにもいかず、僕としても強さの証拠を見せるといった手前、あまり手を抜く訳にもいかず、その結果見事なまでにメッタメタにしてしまったわけで――
「う、うごけねえ……」
うん、ごめんね。
「取り敢えずその手甲と足甲の改善点はいくつか見つかったから、折を見て作りなおしておくよ」
「……おう」




