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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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アラベスク

 視察が終わった後、シェリルさんは半強制的に護衛達に連れられていった。

 シェリルさんはもう少しだけ話を続けたそうにはしていたが、そういうわけにもいかないようだ。


 なんでも今日一日、様々な場所の視察が予定されているらしい。

 そのため一日の時間配分は中々融通は利きにくいとのことで、シェリルさんもすぐに諦めて公務に戻っていった。


 多分先ほどまで僕と話し込んでしまったせいでスケジュールのマージンを使いきってしまったのだろう。

 ただ貴重な時間を使わせてしまったので申し訳なく思っていたのだが、シェリルさんとしてはやる気を刺激されたようで逆に感謝されてしまった。




 さて、予定外のイベントで多少の時間を使ってしまったが、まだ時間は昼前である。

 とはいえ太陽も真上に近いくらいまで上がっているので、もうじき昼食の時間で多くのお店は混み始めることだろう。


 本来であれば早めにお店を決めて席を確保するべきなのだろうが、今日はアリスが弁当を作ってたので、店の混み具合に左右されることはない。

 別に店に入る必要もなく、それこそ青空のもとで食べるのも趣があって良いだろう。


 とりあえず、せっかく予定がポッカリと空いていることだから、少し町を散歩することにした。


 少し歩いたところで開けた場所に出る。

 何故か既視感があると思ったら、ここはグレゴワールがディアボロスの襲撃を受けた広場だった。

 先日は人がごった返していたが、今日はそれほど多くの人はいなかったので、ここがどこなのか一瞬わからなかった。


 ただ先日と同じ点もあったりする。

 プリッシラさんが演奏を行っていたのだ。


 流石に大量に人がいないので前回とは異なるが、それでも中々の人気を博しているようで、とても近寄れそうな雰囲気ではない。

 特に今回は普段よりも落ち着きのある楽曲を選んで演奏しているようで、広場全体に非常にリラックスした空気が広がっていた。


 広場を通りぬけるついでにプリッシラさんに一言挨拶をしていこうとも思ったが、演奏を聴きに集まっている人たちに悪いので、無粋な真似はやめることにする。

 というより思いの外、雰囲気もよくゆっくりとした時間を過ごすにはこの広場も合っているかもしれない。


 辺りを見渡すと、少し大きな木の木陰で休憩できそうな場所が空いているのを見つけることが出来た。

 折角だからここで昼食を食べることにしようかな。


 場所を確保し終えたあと、アイテムポーチから弁当を取り出し広げていく。

 そういえばどんな弁当なのか聞いていなかったが……これはまた、豪華な昼食になりそうだ。


 全てを取り出す頃には目の前に弁当とは到底思えないくらいの豪華な食事が広がっていた。

 周りの視線がちょっとだけ痛く感じるので、一瞬だけ魔道具で隠蔽しようかとも思ったが、折角アリスが用意してくれた食事なので隠したりするのも申し訳ない気がしてしまう。


 仕方がないのでここは刺さるような視線の中、強い心を持って食事に挑むことにせざるを得ないだろう。

 ……あれ、ゆっくりとした時間はどこに行ったんだ?




 ――食事を終える頃には、不思議と周りの視線は気にならなくなっていた。

 僕も知らなかったが、人はこんな短時間にも一段強くなることが出来るということなのだろう。


 食後のハーブティーを嗜みながら少し考え事をしていた。


 その考え事とはディアボロスとの戦いに関してである。

 こんな時に考えることでは無いのだろうが、どうしてもこの場所がそれを連想させてしまうのはしかだがないだろう。


 ディアボロスの襲撃の際、たまたまマキナさんと遭遇しなかったら、いったいどうなっていたのだろうか?


 再生を繰り返す度に悪魔憑きの症状が進んでしまった事を考えると、完全に覚醒してしまっていた可能性もあった。

 準悪魔化でもあれだけの力を持っていたのだ。完全に覚醒してしまった力というのは、僕の想像を更に超えてくる可能性が高かっただろう。


 そうなってしまえば異界都市に与える被害は相当に大きくなってしまっていたかもしれない。


 今回は幸い神気の操作に成功して事なきを得たわけで、……わりとギリギリだったのかもしれない。


 ……気の操作、か。


 また、先日のようなことが起きないとも限らない。

 僕自身は事後処理の空いた時間を利用して気の操作を練習したおかげで、多少失敗はするが気も神気も操作することが出来るようにはなった。


 気の操作は今後の探索に対して、間違いなく優位に働くことだろう。

 しかし探索での用途を視野に入れるとなると、僕だけが使えるようになっても余り意味は無い。

 もちろんパーティメンバー全員に習得してもらう必要がある。


 アリスは直にセントラルのサポートが受けられるので、僕のように苦労すること無く数回の練習ですぐに使用することが出来るようになったので問題はない。


 問題となるのはジーク達、つまり僕とアリス以外のメンバーだ。

 彼らは僕達と違いセントラルのサポートを受けることは出来ない。


 ……何か良い習得方法は無いだろうか?


 考えに浸っていると、ふいに広場に流れる曲が聞き慣れない不思議なものに変わる。


 何事かと思いプリッシラさんが演奏していた場所を見ると、プリッシラさんの周りには楽しそうに踊る一団があった。


 旅の一座だろうか?

 踊り子の衣装はこの地域のものとは異なり、扇情的な雰囲気を醸し出していた。


 踊りのことはよくわからないが、周りの反応は上々であるし見ていて楽しい、これはこれで中々に趣がある。

 踊り子たちにつられるように観客たちも一人、また一人と身体を動かし始めている。


 ――曲が終わる頃には、広場に集まった人たちは先程までよりも一層増えていた。

 大きな拍手に包まれた踊り子たちは一礼すると一歩後ろに下がる。


 そしてその中心で一際目立っていた女性が一歩前に歩み出る。

 周りの踊り子達も決して容姿が悪いというわけでは無いのだが、この女性の前では霞んでしまうだろう。


「この度は、私達アラベスクの初公演を見に来てくれてありがとうございます。私はアラベスク座長のナズリです以後お見知り置きを」


 ナズリと名乗った踊り子は座長だったようだ。

 なんでもこの旅の一座アラベスクは今日この異界都市に着いたばかりで、これから暫くの間ここに滞在し公演を行うらしい。


 今日の初公演はあくまでも売り込み用の簡易的なものだったらしい。

 プリッシラさんが演奏を手伝っていたところを見ると知り合いだったりするのだろうか?


 そう思いプリッシラさんを見るとバッチリ目が合ってしまった。

 申し訳程度に会釈をすると、向こうも軽く手を振ってくれた。


「――アラベスクは観客の方々も参加できる公演を行いますので、皆様も私達と一緒に楽しい時間を過ごしましょう」


 ナズリの口上が終わると先程よりもより大きな歓声と拍手が鳴り響いた。


 観客参加か……でも、どうやって参加するのだろうか?

 まさか本職の踊り子に混ざって踊ることなんて無理だと思うので、簡単な踊りの指導を演目に混ぜていくようにしているのだろうか?


 そう思っていると、やはり同じことを考える観客がいたようで、一人の女性がナズリに質問をしていた。


「……そうですね、丁度良いので次の曲を一緒に踊りましょうか」


「え、私は踊りの経験なんて――」


「何も、心配は要りませんよ」


 ナズリは質問をした女性に歩み寄ると、その手を取り顔を近づけ艶のある笑みを浮かべた。

 手を取られた女性は少し戸惑いつつも顔を赤らめて小さく頷いた。

 流石にあれほどの美貌は一挙手一投足が絵になるな。


 ……しかし、どうするつもりなんだ?

 プリッシラさんの反応を窺おうと目を向けると、それを予想していたのかこちらに顔を向けて笑みを浮かべていた。


 おとなしく見てろってことか。


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