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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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塔の構造

新しい年度が始まりましたね。

 ――翌日。


 僕はファエルを伴って、再び朝から現場を訪れていた。

 整地工程が終わったため、僕が直接支援する場面は無くなったので、ファエルを現場に送ったら今日は一日フリーになる予定だ。


 現場向かう途中にある大通りは、早朝にも関わらず人の通りも多く非常に活気にあふれていた。


 肉串の露店も出ていたのでちょっとだけ食べたくなったが、今日は朝食を済ませているので渋々諦めることにした。


 街並みを眺めながらこれから向かう現場の事を考える。


 昨日は予定外に整地の工程が相当早く終わってしまった。

 その為、現場の作業者が急な手配に対応できるか心配だったりする。

 ヴァルトロさんは多分大丈夫とは言っていたが、そう急に人が集まるものなのだろうか?


 ――そう思って現場に到着してみると、そんな心配はするだけ無駄だったことがわかる。

 既に現場の作業は始まっており、見たところ十分な人員を確保できているようだ。


 と、視線の先にヴァルトロさんの姿が見えた。


「ヴァルトロさんおはようございます。まさか昨日の今日でこれだけ人が間に合うとは思っていませんでした」


「はは、元々人員の確保は済んでいて、皆が待機状態だっただけですから、それほど特別なことでは無いんです」


 ヴァルトロさんは現場を眺めながら嬉しそうに話す。


 ……そう言われてみればそうか。

 って、でも昨日は多分大丈夫とか微妙に自信なさげに言ってなかったか?


 まあ、しかしそういうことならやはり工期を短縮することが出来たのは良かったのだろう。


「それに皆、領主様より賜った新たな工事用魔道具を試したくてうずうずしていたのです」


「工事用魔道具、ですか?」


「はい、元々この異界都市では領主様の命で率先して新しい技術を取り入れていますので、様々な道具を魔道具に置き換えています。それが近代錬金術の復活により加速的に進化をしているんですよ」


 ああ、確かに以前立ち寄った魔道具屋では多くの古典魔道具が売られていたが、その中にハンマーとか釘打ちの魔道具も数多く売られていた。


 ……これからも研究が進めば、その成果で百年前を越える近代魔道具が作られていくんだろう。

 そんな未来を見ることが出来るようになった、そう思うと亜神化したこの身体も十分に意味があったということだろう。

 僕も完全なるホムンクルスの錬成を成した後は、新しい研究題目を探さないといけないな。


「あら、バーナード君もいたのね。ってまた何か変なこと考えてないでしょうね」


 ……失敬な。


 ヴァルトロさんとの会話で少しだけ考え事をしていると、不意に後ろから声をかけられた。


 声のする方に振り向くと、シェリルさんがこちらに軽く手を振っていた。

 普段のギルド職員の格好とは身なりも異なり護衛を伴っている、ということは今日はギルド職員ではなく領主として動いているようだ。


「こ、これは領主様!」


「ヴァルトロ、堅苦しいのはいいわ。普段通りにしてちょうだい」


「申し訳ございません。来訪がわかっていればおもてなしの準備をさせていただいたのですが――」


「だから普段通りで良いわ」


 ヴァルトロさんはまさか突然領主がアポ無しで現場を訪問するとは夢にも思っていなかったようで、シェリルさんを見るなり大慌てで跪いていた。

 ただ、当のシェリルさん本人は領主モードでも普段と余り変わらないようだ。


「それで、新型の魔道具の使い勝手はどうかしら?」


「は、はい! どの魔道具も以前と比べて小型軽量化されており、作業者達の負担も大幅に軽減されております。詳細は後日報告を上げさせていただきます」


「そう、よろしく頼むわ」


「は!」


 おお、なんだかいつもよりもオーラが出ている。流石は領主様だ。


 それからいくつかの質疑を行った後は、シェリルさんは少し現場の見学をしたいとのことで、ヴァルトロさんには作業に戻るよう指示が出された。


 ファエルも現場作業に意気揚々と出かけていったので、この場所にはシェリルさんとその護衛、そしてこれから暇な僕だ。


 自然とシェリルさんの相手をすることになった為、少し話に付き合うことにした。


 シェリルさんは僕がいるからだろうか、護衛に距離を置くよう指示を出すと僕の隣に立ち現場を眺め始めた。




「そういえば、天獄塔みたいに異常に丈夫な建物は作れたりしないの?」


 シェリルさんはしばらく現場の様子を見ていたのだが、ふと一つの疑問を漏らした。

 ああ、そのうち聞かれるんじゃないかとは思っていたが、ここできたか。


 目の前でこれだけ活気のある風景を見れば思いつきもするか。

 いや、以前から気にはなっていたが聞くタイミングがなかっただけかな。


 というより異常ってなんだ。

 まあ、良いけど。


「やって出来ないことは……ないんですけどね」


「あれ? なんだか、あまり答えたくは無さそうね」


 シェリルさんは意外そうな様子で僕の方に向き直った。

 ……やっぱりわかりやすいのかな。

 別に答えたくないわけではなく、乗り気にならないのは別の理由がある。


「……あれは、結構面倒なんですよ」


「まあ、あれだけの大きな塔ですからね。どうやって建造したのか想像もつかないけど、面倒で済むようなものでも無いと思うのだけどね。面倒だけで済むのならまったく問題はないわよ?」


 確かに普通の面倒事であればシェリルさんなら物量で解決してしまうだけの力を持ってはいる。

 ただし、この面倒事はシェリルさんの権力をもってしても解決はしない。


「建造自体はそれほど面倒でも無いですよ。塔自体は僕が造ったわけでもないですしね」


「え!? あれってバーナード君が造ったんじゃなかったの?」


「広義的な視点で見れば僕が造った事になるんですけどね。直接塔を建造したのは塔を構成している一つ一つの建材なんですよ」


 シェリルさんの動きが止まった。

 それとともに遠巻きにこちらを見ていた護衛達がざわつきはじめる。


「……ごめんなさい。言っている意味がちょっとわからないのだけど、何かの謎かけかしら?」


「意味も何もそのままの意味ですよ。塔を構成している建材の一つ一つがビルダーっていうゴーレムなんですよ」


 少し間を開けた後、ぎこちない動きで首をひねるとその視線は自然と街の中心にある塔に向かう。


「……あれが全部?」


「はい、全部です」


 また止まった。


「はぁ!? ちょ、ちょっと待って。天獄塔が近代魔道具でできてる?」


「はい、そうなりますね」


「あんな大量の建材が全部?」


「はい、流石に一人で全て錬成するのは骨が折れるので、ビルダーを錬成する魔道具を造って大量錬成しました。まあ、それでもやはり面倒だったんですけどね」


 シェリルさんは口をパクパクさせながらこちらを見ている。

 思わず苦笑が漏れてしまったのは仕方が無いことだろう。

 僕の苦笑を聞いたシェリルさんは何とか我に戻り、こちらに駆け寄ってくる護衛に向かい手を上げて制止する。


「ぜ、全然気が付かなかった。毎日見ているのに……一生の不覚だわ」


「魔力は隠蔽されていますからね。仕方がないかと」


 そういえば、シェリルさんは僕に会う前は独自に近代魔道具の研究をしていたんだったな。

 まさか絶賛稼働中だったとは夢にも思わなかったようだ。

 地面に両の手をついて落ち込むのは威厳がなくなるからやめたほうが良いと思うのだが。


 ほら、護衛の人たちも困っているし。


「流石に人の力では、あんな馬鹿デカイ塔なんて作れませんからね」


「……そういえば聞いたことなかったわね。バーナード君、天獄塔はいったい何層あるの?」


「あれ、言ったこと無かったですか? 全部で六十層ありますよ」


「……ごめんなさい。なんだか頭が痛くなってきたわ」


「それはいけませんね、重要な立場なんですから体調管理には重々注意し――」


「比喩だから」


「……そうですか。念の為にこの疲労回復のポーションを飲んでおいてくださいね。先日少しだけ改良したので効果は良くなっていると思います」


 アイテムポーチから疲労回復用のポーションを取り出してシェリルさんに手渡す。

 なんだかんだ言ってもこういうものは率先して受け取るあたり良い性格をしている。



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