ファエル頑張る
ヴァルトロさんは驚きの表情を浮かべたまま固まって、しかしその視線は僕とファエルの顔を数回行き来を続けている。
特にファエルに向かって「本当に?」的に目で訴えているところを見るに、イマイチ信じきることが出来ていないようだ。
それはファエルがその度に頷いても変わる様子はない。
まあ信用するにしても僕が言っている内容は確かに、いささか度が過ぎているとは思う。
元々の四日間というスケジュール自体でも、先ほどヴァルトロさんが言っていたように無茶がある。あくまで近代魔道具無しの場合では、という条件が付くのだが。
「なんだい、アンタもしかしてアニキの言ってること信用してないのかい!?」
「い、いや決してそんなことは……」
何度頷いても一向に信じる気配がないためか、ファエルがいらつき始めてしまった。前に詰め寄り下から睨み上げて、今にも胸ぐらを掴みそうな勢いだ。
ヴァルトロさんもファエルの勢いにタジタジである。両手を上げて顔を左右に振って落ち着かせようとしている。
このままでは暴力に発展しかねないと思い、二人の間に割り込みながら仲裁を試みることにした。
「まあまあ、ファエルもちょっと落ち着いて。……ヴァルトロさん、確かにここでお話しているだけでは少々信じ難いとは思いますので、ひとまずは現場に戻ってお話しませんか? 実際に見ていただいたほうが早いと思いますし」
「え、ええ。確かに実際にこの目で見れば一目瞭然ですからね。バーナード様のおっしゃることですので信用して差し上げたいところですが、流石に内容が内容なので……」
「お気持ちは多少はわかりますので、お気になさらずに」
ファエルの機嫌が少々悪くなってしまったようなので、ヴァルトロさんも実際に自らの目で見れば流石に納得せざるを得ないだろうと思い提案したところ、やはり快く了承を得ることができた。
結局、現場に戻る道すがらファエルを落ち着かせながら向かうことになってしまったのだが、そこはヴァルトロさんも先ほどの自身の対応に不味さを感じていたようで、率先してファエルが好きな建築に関する会話をしていた。
ファエルもヴァルトロさんが話す内容には興味を惹かれるようで次第に機嫌を直しつつある。
何しろヴァルトロさんの話はこれまでの実績と経験に基づく話が多いため、セントラルのサポートがあるとはいえ本質的には経験不足であるファエルにとっては参考になることが多いようだ。
「……おぉ」
現場に到着し一目見るなり、ヴァルトロさんは思わず驚きの声を上げた。
そして状況を確認するためだろう、まだ現場に残っている作業員達に声をかけ始めた。
暫くの間、数人の作業員に声を掛けて回るヴァルトロさんを待つことにする。
――ヴァルトロさんは数人の作業員を引き連れて、僕達の元に戻ってくるなり少々興奮気味に口を開いた。
「バーナード様、出来ればこのまま確認作業に入りたいのですが構いませんか?」
「はい、構いませんよ。それでは僕たちはあちらで座って待たせてもらいますね」
「……その前に、出来ればどのような手段で行ったのか、それをお聞かせいただけないでしょうか?」
ある程度予想はしていたが、やはりヴァルトロさんも何が起きたのか気になるようで質問をしてきた。
……さて、僕達が一体何をしたのか?
それを応えること自体は簡単なのだが、実際にその作業をヴァルトロさんが行えるかと言われれば無理だろう。
「あたいも初めは驚いたからね。ヴァルトロの旦那が疑っちまう気持ちはわからないでもないよ」
どうしたものかと僕が悩んでいると、今回の功労者であるファエルが隣で腕組みをしながら嬉しそうにしている。
「え、でもさっきは怒っていなかった?」
「わからないでも無いけど、やっぱりアニキの事を信用してもらえないのは気に入らなくてねぇ」
そう言うと、ファエルは右手で頭を掻きながら苦笑いをしていた。
「まあ、僕も一発であんなに上手くいくとは流石に思っていなかったからなぁ」
――現在から時間を遡ること約半日程度。
僕は新たな試みを行う為に、地盤硬質改良機ともう一つの魔道具の調整をしていた。
ちなみにファエルはといえば、僕の調整が終わるまでは作業を始めることが出来ないので、目をつぶりながら先程僕が説明した内容を確認している。
恐らくだが目をつぶることでセントラルの情報に集中することが出来るのだろう。
「ここでグッとフィードバックをトレースする形で――」
「ファエル、もう少しで準備が終わるから、今のうちに練習もしておいてね」
「ああ、あたいならとっくに準備万端だよ」
絶賛独り言を展開中のファエルに声を掛けると、自信のある声で返事が帰ってくる。
「――これで良しっと、お待たせしちゃったね。それじゃあファエルはこっちを使ってね」
「お、待ってたよどれどれ。……って、さっきまでと変わらない気がするけど?」
ファエルが使用する方の地盤硬質改良機を手渡すと、それをまじまじと見た後、首をかしげながら疑問を口にした。
「ファエルが使う方はマークしただけで、さっきまでと同じだからね。そのマークに合わせてこっちの地盤硬質改良機を改良したんだよ」
「ところでまったく同じ魔力波を同じ位置で発生させれば、魔力波が干渉しあって増幅するんだね?」
「そうだね。そのはずだよ」
僕の返答が腑に落ちないのか、少し考えた後ファエルが疑問の声を上げる。
「とは言ってもね……、アニキから聞いた話で同じ魔力波を発生させる方法はわかったんだけど……」
「けど?」
「まったく同じ位置ってのはどうやって解決するのさ?」
「ああ、そのことか。そっちに関してはファエルは意識しなくて良いよ。そのためにこれを改良したんだから」
そう言って、手元の地盤硬質改良機をファエルに見せる。
「この側面に付いているのが改良点?」
「そう、さっきファエルが言ったようにまったく同じ魔力波を同じ位置で発生させれば、魔力波が干渉しあって増幅する。同じ魔力波はファエルに頑張ってもらうとして、まったく同じ場所に発生させるために問題となる点は何か?」
ファエルは少し考えた後、僕の目を見ながら答える。
「……この魔道具は魔力波が魔道具を中心に発生する。だから魔道具自体が邪魔になる」
「正解、この改良はそれを解決するためのものなんだ。この魔道具を連携させてね」
アイテムポーチからとある魔道具を取り出してファエルに見せる。
「確かにこれと見た目は同じだけど。これは何だい?」
「この魔道具はとある吟遊詩人にプレゼントした物と同じ物で、その名称はエフェクターっていうんだ。本来は魔曲の効果範囲を変化させるための魔道具なんだけど、今回は魔力波の発生地点とタイミングを変化させる為に使う。まあ、実際に使ってみればすぐにわかるよ。さ、始めようか」
とにかく早く動作を試したいので早々に話を切り上げて、そのまま最初の地点まで移動を始めると慌ててファエルが後から着いてくる。
「ファエルはそこに立って。それじゃあ準備は良い?」
指定の位置まで移動したファエルは、目をつぶり一つ大きく深呼吸をする。
「……ああ、いつでも来な」
その言葉を合図に、僕は地盤硬質改良機を起動した。
「――というわけで、実験は想定よりも上手くいってくれたので、一気に終わらせることができたんですよ。予定よりも期間は短くなりましたが品質は予定よりも良くなっているはずです。……って、聞いていますか?」
僕の視線の先ではヴァルトロさんが遠い目をして天を仰いでいる。頭から湯気が出るという表現がしっくり来る。
一気に説明をしたのは良いのだが、少々情報量が多かったかも知れない。しかしこれ以上削れないからなぁ……。
「……ヴァルトロさん?」
「あ、はい! 聞いています。素晴らしいです」
さては理解を諦めたな?
錬金術オタクなバーナードが熱く語っても周囲はついていけません。




