気付きと新たな試み
第4回ネット小説大賞の一次選考通過しました!
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アイテムポーチから地盤硬質改良機を二つ取り出す。
この魔道具は元々一つしか持っていなかったのだが、今回の土木作業支援に伴いファエルが使うことになるため、もう一つ同じものを用意した。
「それじゃあ、この地盤硬質改良機を使って作業を始めようか。使い方はわかるよね?」
「もちろん、ばっちり使えるよ」
僕の問いかけに対して、ファエルは胸を張って元気よく返してくれる。
その様子をアリスは微笑みながら見ているが、その手はテキパキと荷物の片付けを終えていた。
「それでは私は家に戻っていますね」
「ああ、予定ではそれほど遅くならないはずだから、皆で夕食をとれると思うよ」
「かしこまりました。ファエルもがんばってくださいね」
「任せときな。アニキの足を引っ張るつもりは無いよ」
元気よく応えるファエルを見て、再び微笑んだあとアリスは家に帰っていった。
アリスを見送った後、僕とファエルは作業の準備を再開する。
ファエルは手にとった地盤硬質改良機を手慣れた手つきで操作を始めている。
本来であればファエルはこの魔道具を手に取るのはもちろん初めてである。それにも関わらずこれだけスムーズに取り扱えるのは、ひとえにセントラルの恩恵が大きいと言えるだろう。
「んじゃあ、あたいは反対側から作業を始めるよ。」
そう言ってファエルは開発区域の反対側に向かって歩き始めた。
「僕が向こうから始めても良いんだよ?」
「良いって、そんなことしたらアネキに怒られちまうしね」
「はは、確かにアリスなら何か言いかねないね」
さて、どうしてファエルがこの場所から僕と一緒に作業を開始しないのか?
これは決して僕が遠巻きに避けられているわけではない。
その理由はこれから使用する近代魔道具、地盤硬質改良機の特性によるものだ。
この地盤硬質改良機は使用者が範囲や形状をイメージとして入力することで、そのイメージに沿った形で地盤に干渉し硬質化する。
その際、魔道具を中心として横方向周辺に影響を及ぼし始めそれが地面に浸透していく。
サンド・ワイバーンで使ったような単純用途であれば問題ないが、きちんと成形し硬質化するためには魔力波の干渉を避けるために離れて使用する必要があるというわけだ。
例え一人の使用者が二台を同時に使用するとしても、都度別々でイメージを入力する都合上、放出される魔力波の波形がまったく同じになることは、まずありえないので、妙な形に硬質化されてしまいかねない。
――いや、待てよ? 本当にそうか?
視界の先で離れていくファエルを見ていて、ふと僕の頭の中に疑問が生まれる。
ファエルは初めて触るはずの魔道具を手慣れた手つきで操作した。
例えばアリスは初めて魔物の肉を処理する際にも手慣れた手つきで、それを行った。
もしかしたら、セントラルのフィードバックを直接受けることが出来るファエル達、ホムンクルスは同一波形の魔力波を生成することが出来るのでは無いだろうか?
そしてその考えの先に、セオドールが昔話していたが実証実験まで及ばなかった、とある理論が僕の頭の中で薄っすらと輪郭を取り戻していく。
「あー、もしかしたらあれが上手く実現出来るかもしれないな。ファエル! ちょっと待ってくれ」
「え、どうしたんだい? あれって何の事だよ、アニキ」
少し離れた所でファエルが足を止めてこちらを振り向く。
首を傾げてこちらを見る仕草は、まるで頭の上にハテナマークでも付いているかのようだ。
普段の雑な言葉遣いとアンマッチしていて中々に可愛らしい。
「うん、ちょっと試してみたいことが出来たから手伝ってもらっても良いかな?」
「……別にそれは構わないけど、こんな時に試さなきゃいけないのかい?」
「こんな時だからこそ、だよ。これだけ広い範囲で整地する機会なんて、そうそうあるもんじゃないしね」
ようやく作業に取り掛かれると喜んだ矢先だったのだろう。
僕が土木作業にかこつけて実験をしようとしているせいか、ファエルは少々機嫌が悪そうに見える。
もしかしたら作業をサボって実験しようとしているように見えてしまったかもしれないな。
とはいえ、ファエルには多少申し訳ないが、出来ればこういう作業はさっさと終わらせてしまいたいのは事実であるため、あながち間違いというわけでもない。
しかしながら、今回の実験は一人では出来ないため、実際のキーパーソンとなるのは僕ではなくファエルだったりする。
そういう意味では、ファエルにはきちんと説明をして了解をとっておきたいところだ。
「まあ、今から説明するから。ひとまずちょっと座って話そうか」
ファエルを促して近くにある壁にもたれて並んで座る。
「今回の実験は手元の――」
始めは、少し不機嫌さがにじみ出てきているような表情で僕の話を聞いていたファエルだったが、話が進むにつれて今度は反応が減っていった。
恐らくだが理解が追い付いていないのだろう。
まあ、僕自身が理論的には理解しているものの、今回の実験が上手くいくか? と言われれば正直なところわからない。
当然ながらファエルが理解出来なくても無理はない。この説明はあくまでサボろうとしているわけでは無い旨の説明を兼ねているのだ。
「というわけで試してみる価値はあると思うんだよ。協力してくれるかい?」
「……うーん、聞いていてもさっぱりわからないから実際にやってみないと。アニキの説明通りのことが実現可能なら、それはそれで結果に興味が湧いてくる」
「はは、まあ百聞は一見に如かずって事で。それじゃあ改めて始めますか」
今日の作業を終えた僕とファエルは、もうじき日も暮れる事もありそろそろ家に帰る事にした。
一応、ヴァルトロさんに今日の進捗を報告しようと探していたのだが現場のどこにも姿が見当たらなかった。
「どこにもいないみたいだよ」
「……そういえば、書類等もヴァルトロさんが処理することもあるって言っていたな。もしかしたら事務所の方に帰っているのかもしれないな」
記憶によれば彼の事務所は、この現場からそれほど離れていない場所にあったはずだ。
そう思いモノクル越しに表示された地図上で事務所の場所を確認し、そこへ訪ねることにした。
――ヴァルトロさんの事務所の前に到着し扉をノックしようとしたところ、丁度扉が開きヴァルトロさんと鉢合わせした。
「おお、バーナード様どうされました?」
「突然訪ねてしまって申し訳ありません。今日の作業が終了しましたので挨拶がてら進捗の報告をと思いまして」
この驚きようからすると、もしかしたら本日分の作業を終えたら、そのまま帰るのだと認識されていたのだろうか?
「これは申し訳ない。ちょっと手が離せなかったので現場に戻るのが遅れてしまいましたね。丁度今から現場に戻ろうと思っていたところでした」
「そうでしたか、僕も時間を忘れて作業に没頭してしまうことが良くありますので気持ちは理解できます」
「はは、お互いのめり込める物があるのは幸いなことですね。……それで、進捗の方は朝に打ち合わせた予定通り進みましたか?」
「ああ、そのことなんですがちょっと予定とズレてしまいまして」
「バーナード様は慣れない作業をお二人だけでされていましたからね。大丈夫です、予定されていた四日間では足りないかもしれないと思い、マージンは十分に取ってありますから。ちなみに何日ぐらい遅れそうですか?」
「いや、今日だけで終わってしまったんですよ」
「え?」
ヴァルトロさんが目を見開き口を開けたまま固まっている。もしかして聞こえなかったかな?
「ですから、今日だけで終わりました」
「……あれだけの範囲をたった一日、いや半日で、ですか?」
「そう、なりますね。新しい方法を試してみたのですが少々、というかかなり短縮できてしまいました」




