罪の精算
相変わらずの章名未定な新章始めました。
青空の下、まだ朝も早い時間から忙しなく動きまわる人足たちの掛け合う声が、あちらこちらで響いている。
そこいらによくある建設現場、と言いたいところだが、一般的な建設現場とは少々異なっている点がちらほらと存在する。
その理由はシェリルさんに怒られ、もとい深みのある笑顔でオネガイされて提供した各種近代魔道具が現場の所々で利用されているからだ。
僕自身、現在の一般的な建設現場を見たことがないので、どれほど違っているのかはよくわからないが、少なくとも巨大な資材を一人で運んだりするような現場はそうそうないだろう。
「バーナード様、随分とお早いおつきでございますね」
「ああ、ヴァルトロさん、お早うございます。皆さんはもっと早い時間からお仕事されていますから、申し訳ないくらいです」
「そんなことはありませんよ。元々我々が仕事を始める時間が早いだけですから。それにバーナード様は予定時刻よりも早くお着きでしたので」
随分と丁寧な口調で話しかけてきた人物、ヴァルトロさんはこの建設現場の責任者だったりする。
基本的に力仕事がほとんどであるため、皆一様に筋骨隆々な職人集団である。
それをまとめているにしては想像以上に落ち着きのあるヴァルトロさんが責任者であるというのは、意外を通り越して異常にも見える。
実際、先日シェリルさんにヴァルトロさんを紹介された時は間違えて事務員でも連れて来てしまったのでは無いかと疑ったほどだ。
とはいえ、実際に関わってみるとなるほど、その仕事ぶりは見事なもので、現場の職人たちから絶大な信頼を得ていることがすぐにわかった。
まるで建設の神から加護でも得ているかのようである。
「作業前になるべく詳細な打ち合わせをしたかったので、ついつい早めに家を出てしまいましてね。予定と異なってしまうのでご迷惑でしたか?」
「いいえ、そのようなことはありませんよ。様々な魔道具を提供いただいた上に、荒れてしまった地盤の補修までしていただけるのですから」
そう、なぜ僕が朝も早くから青空のもとで活気のある健康的な場所にいるかといえば、もちろんディアボロスの一件が関係している。
つい先日前には所々で地面をえぐられ、見るも無残に荒れ果ててしまった地盤は、このままでは使い物にならないので改めて整地し直すことになってしまった……僕が。
不本意ではあるが、僕が壊してしまった部分も多くあるので仕方がないと諦めることにした。
「いくら悪魔の使徒を討伐するためとはいえ、あそこまでやる必要は無かったはずです。クローツ教の司祭様にはもっときちんと説明していただきたいくらいです」
ヴァルトロさんは、その憤りを隠そうともせずにグレゴワール達を批判している。
彼らからしてみれば、長い時間を掛けて丹念に整備した地盤や建築中の建物を無残にも破壊されてしまったのだ、怒らない理由がない。
もちろんヴァルトロさんはこれをやらかしてしまったのが僕だということは知らないので、目の前でその言葉の刃が僕に突き刺さっていることは露ほども知らないだろう。
「ま、まあ、折角早く到着したので早く打ち合わせをしてしまいましょう」
「ああ、これは失礼しました。そうですね、より良い物を作るためにも頑張りましょう。……ところで、そちらのお嬢さんはどちら様でしょうか?」
そう言いながらヴァルトロさんは、僕の後ろに控える女性に目をやる。
「ああ、こちらの女性は――」
「あたいはファエルだ。今日からこの現場で世話になることになったからよろしくな」
「……え?」
僕の言葉に被せるように簡単な自己紹介をすませたこの女性、ファエルは都市内の建築土木の現場を支援する為、新たに造ったホムンクルスだ。
身長はアリスより少し高いくらいで一般的にはやや低め。ナチュラルブラウンの長い髪の毛は腰に届くほどで、大きめの瞳と相まってとても可愛らしく見える。
しかしながら言葉遣いに関しては先の名乗りからわかるように、見た目とは少々方向性が異なり粗雑である。
「えっと、バーナード様? これはいったい?」
「彼女が今紹介したように、今日からこの現場で手伝いをさせて頂く事になりました。こう見えても建築に関する知識や技術に関しては、非常に高度なものを持っていますからご心配は無用です」
僕が研究塔を建造した際に利用した建築技術や土木技術への閲覧権限を持たせたので、現在の建築レベルからすれば大きな差があるだろう。
「……てっきりバーナード様にお手伝いしていただけるものと思っていたのですが」
「ああ、もちろん土台に関しては僕がきちんと整えますよ。ファエルにはそれの補佐と、それ以降の作業を担当します」
「それ以降、ですか?」
「はい、工期を大幅に短縮できると思いますよ。それでは打ち合わせを始めましょうか」
見た目とのギャップが大きいので、ファエルの実力に関しては僕が頑張って説明するよりも、実際に一緒に仕事をしてもらったほうが伝わりやすいだろう。
ヴァルトロさんとの打ち合わせが終わる頃には、昼の鐘が鳴り響いていた。
そのヴァルトロさんはというと、現場の職人達を引き連れて昼の休憩の為に出て行った。
一応僕達も誘われたのだが、今のうちに話しておきたいことがいくつかあったので、遠慮させていただいた。
そんなわけで、現在この場には僕とファエルの二人だけである。
「ん~~、さすがに椅子に座り続けていると身体が痛くなってしまうな」
「アニキは見た目よりも随分とジジ臭い事を言うんだね」
椅子から立ち上がり身体の節々を伸ばしていると、ファエルから手厳しい指摘をされてしまった。
錬金術の研究をしているときはまったく気にならないのだが、こういう時は不思議と疲れが出てしまう。
精神的な影響が大きいのだろうか?
「バーナード様、お疲れ様です。お昼をお持ちしました。ファエルも一緒に食べましょう」
「ありがとう、アリス」
「お、アネキ、最高のタイミングだね。もうお腹と背中がくっついちまうかと思ったよ」
少し考え事をしていると、アリスがお弁当を持ってやってきた。
ファエルは瞳を輝かせ謎のジェスチャーをしながらアリスに駆け寄る。
「さすがにちょっとだけ疲れたよ。慣れないことをするといつもより疲れてしまうね。彼らも同じことをしているはずなのに、まったく疲れを見せないところは流石だよ」
「それだけ都市の建物を作る事に対して本気で取り組んでいるということでしょう」
「そうだね。僕も錬金術なら何も苦には思わないんだけどね」
「くす。それではお弁当を食べて元気を出してください」
「――さて、と。建設土台は一番の基礎になる場所だからさっさと片付けてしまいますか」
食事を終えてお腹の方も一段落したところで現場に立ち、改めて周りを見渡す。
打ち合わせにあった図面は一通り頭とセントラルに詰め込んだので、完成イメージをモノクル越しに投影することで、これからの作業をシミュレーションする。
折角僕が担当することとなったので、出来ればより強固な建造物を建設したいところだ。
そんなわけで例の近代魔道具には久しぶりに本来の役割を発揮してもらうこととなる。
例の近代魔道具とはもちろん、天獄塔第十五層でサンド・ワイバーンを血祭りにあげた魔道具、名前は地盤硬質改良機という。
地盤硬質改良機で固めてしまえば、そう簡単には掘り返すことができなくなるほどの強度を得ることが出来る。
それがどれほどの物かといえば、僕の研究塔――百年たってもなお健在な天獄塔の地盤にも使われている程の、安定した建設土台を確保することが出来るというわけだ。
ヴァルトロさんからは硬質化に伴って水捌けが悪くなってしまうのではないか? という疑問を投げかけられたが、そこは本来の使用目的が建築や土木とあるように用途に合わせて、わりと自由に設定をすることが出来る。
まあ、その辺りは出来てからのお楽しみってことで――
「それじゃあ、始めますか!」
建築系魔道具で楽しくいきましょう。




