本来の標的
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
確定申告の準備も大体目処がつきました。
先程までディアボロスの身体があった場所を眺めながら、お互いに一言も話すこと無く呆然と立っていた。
……これはどう説明すれば良いものだろうか。
いや、まてよ?
恐らくグレゴワール達はディアボロスが悪魔憑きだった事に関しては知っているはずだ。
ちらりとグレゴワールの様子を窺ってみるが、努めて冷静を装いつつもほんの少しだが驚いたような顔をしている。
なるべく表情には出さないように気をつけているのだろうか?
現在得られる情報から鑑みるにグレゴワール達は悪魔憑きの件に関して知っている可能性は高い。というよりほぼ確定と考えてもいいくらいだろう。
それはグレゴワールの後ろに控えている者が、神具もしくは祭具らしきものを携帯していることからも明らかだ。
それにも関わらずディアボロスの末路を見て驚きの色を隠しきれていない。
ということは、彼らの得た神託には悪魔憑きに関しては触れられているが、準悪魔化に関する情報には触れられていないということなのだろう。
……そんなにズレて大丈夫なのだろうか?
いや大丈夫じゃないから驚いているのか。
まあ、それでもすぐに追求してこないところをみると、あちらはあちらで何かしら思うところがあるのだろう。
結果として、この何とも言えない微妙な空気が漂ってしまっているのは僕の錯覚ではないと思われる。
「……えっと、無くなってしまいましたね」
「え!? あ、そのようですな」
このまま時間だけが過ぎていってしまうのはさすがに無駄なので、意を決して状況の打開を試みるべく言葉を発する。
グレゴワールも我に返ったのか何と答えたら良いものか測りかねているようだ。
「ディアボロスは悪魔憑きだったようです。それはご存知だったでしょうか?」
「はい、それに関してはこちらでも把握しておりました。ですので神具の容易もしていたのですが……バーナード様はどのような手段を用いてディアボロス討伐を成し得たのでしょうか?」
……やはりその点は気になるか。
まあ、僕がグレゴワールの立場だったとしたら間違いなく追求したい点ではある。
とはいえ当然の事ながら神気に関する話をするつもりは無い。
彼らが亜神に関してどのような反応を示すのかわからないからね。
「ディアボロスは再生を繰り返す中でついには準悪魔化してしまったので、再生が行き過ぎれば力尽きて白い像のようになってしまう事もあるのかも知れません」
「準悪魔化、ですか?」
やはり反応が芳しくない。彼にとっても初めて聞く単語なのだろうか?
「ご存知ありませんか?」
「申し訳ありません。我々が把握している情報の限りではその言葉すら……いや、そんな!?」
「はい、その準悪魔化です。僕も驚きましたよ」
やはり司祭クラスともなればクローツ教内部で詳細を聞き及んでいるということか。
そういうことならば話は早い。
この区画内の状況を見てもらって話をごまかせるかもしれない。
僕はわざとらしくないように辺りを見渡しながら、時折グレゴワールに視線を戻しながら話を続ける。
「ディアボロスと相対している間、奴の再生能力にはそれこそ無限を思わせるほどの脅威を感じさせられました。しかしながらこちらも負けるわけにはいけませんので相応の戦いを強いられました。ただ、周辺への配慮は……」
少々申し訳無さそうな雰囲気を醸し出しつつ言葉を詰まらせてみる。
まあすべてが嘘というわけではない。
「確かに、……この状況を見る限りでは相当な激戦だったことが窺い知れます」
グレゴワールは周りを見渡しながらそう答えてきた。
被害に関してはディアナの忍術による余波が影響したもの……だけではないな。
ディアボロスを吹き飛ばして周辺の建物とか壊してしまったのは僕の仕業だった。
どちらかと言えば僕が破壊した分の被害のほうが多いかもしれないな。
「ま、まあ何にしてもディアボロスを討伐することが出来たのは幸いでした。ただ捕縛が叶わなかった件に関してはシェリルさんに謝らないといけませんね」
僕の言葉に苦笑いを浮かべるグレゴワール。
何か言葉を言いかけて飲み込んだような仕草が気になるな。
「ディアボロス相手に人的被害が出なかった事は素直に喜ぶべきかと、……そういえばバーナード様に従っていた女性はどちらへいかれたのでしょうか? まさか?」
「ああ、少々痛手を負いましたので先に家に帰らせました。命に別状は有りませんのでご心配には及びませんよ」
「おお、それは何よりです。我々の不手際で被害が増大してしまったことに関して申し訳なく思っております」
そう言いながらグレゴワールは、彼から少し後ろに待機していた配下の者達に手招きをした。
呼ばれた配下達はグレゴワールに近寄ると、グレゴワールからの指示で周辺の確認を行い始めた。
確かにグレゴワール達も万全の準備を行っていたはずだ。恐らく神託では想定外のトラブルさえなければグレゴワール達がディアボロスの討伐を成し得ていたはずだろうからね。
……想定外のトラブル、ね。
「……一つ、グレゴワール司祭にお尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「私でお答えできることであればなんなりと」
そういえば今回の一件に関して一点だけどうにも気になるところがある。
「本来、ディアボロスの標的となる人物はどなただったのでしょうか?」
そう、先ほどディアボロスに襲われたグレゴワールは確かに「何故私が?」と口にしていた。
ということはつまり、彼の知る神託では今回ディアボロスの標的になる予定だった人物はグレゴワールとは別に存在していた事になる。
グレゴワールの発言や状況を踏まえつつ考えると大体想像はつくのだが、やはりこれに関してはグレゴワール本人の口から直接聞くべきだろう。
僕は内に静かな怒りを伴いつつ、グレゴワールの目を気持ち睨むように見つめる。
僕の正面で視線を受け止めたグレゴワールは生唾を飲む音を鳴らした。
「神託に関わることですので当事者意外には――」
「僕は正にその当事者ですよ。ただし恐らく神託に予定のなかった、ね。……もちろんお答えいただけますね?」
グレゴワールは少しだけ悩む素振りを見せたが、一つ溜息をつくと意を決したように口を開いた。
「今回のディアボロスの一件において、彼の標的になる予定だった人物は――」
「人物は?」
「……プリッシラ氏です」
グレゴワールは言いづらそうにその事実を口にした。
……やはりそうか。
僕は予想が当たってしまったことに対する怒りを、極力表面に出さないように気をつけながらグレゴワールの表情を覗きこむ。
「プリッシラさんとは先日知り合ったばかりなので、まだそれほど見知った仲になったというわけではありません。しかし知り合いが囮に使われた事実は許しがたく感じます」
「決して囮に使おうとしたわけでは……いえ、言い訳ですね。我々には潜伏したディアボロスを発見することは出来なかったのです。結果として発見の機会があの場になってしまった」
……グレゴワールの言っている事は嘘ではないのだろう。確かにディアボロスの存在感はあまりに希薄だった。
その手段はわからないが、あれをグレゴワール達に探し切ることが出来たかと問われれば、難しいだろうと言わざるをえない。
「そしてプリッシラ氏はディアボロスに襲われますが、幸いなことに命を奪われるということは無いはずでした。しかしこれほどまでに神託から逸れたのは初めてです」
「グレゴワール司祭、出来ることならば今回の件に関して神託の詳細を聞かせていただきたいのですが、よろしいですね?」
「……わかりました。バーナード様がこの件に関わった事もまた縁なのでしょう」
グレゴワールは観念したのだろうか、諦めたような素振りで今回の件に関する神託の内容を話し始めた。
あと数話でこの章が終わる予定です。




