暗殺者の最期
ついに35万文字を突破しました!
次の一撃はこれまでの勢いのままぶつけて吹き飛ばすような一撃とは異なり、ディアボロスの芯を捉えて当てることを念頭に入れなければいけない。
神気を爆発させる都合上、物理的なダメージはそれほど必要はないからだ。
僕はディアボロスの攻撃を避けながら次の一撃に備えて両手の拳に神気を集中させる。
ここで気になるのは奴の様子だ。
どうも見えているわけでは無さそうなのだが、本能的に回避行動をとっている節がある。
先程から練習を行う中で幾度と無く神気の集中を行っているのだが、成功の有無に関わらず集中をし始めたタイミングで何かしらの違和感を感じるようだ。
攻撃の最中でも警戒を強めている様子が見て取れる。
そして、初めて神気の集中に成功した時に至っては、より顕著な反応をみせた。
なんと僕から距離を取って逃げ道を探し始めたのだ。
とはいえ、僕とディアボロスの速度には大きな差がある。
断言できるが、僕が奴を見失わないかぎりは逃亡のチャンスは一切やってこないだろう。
逃亡に失敗した以降は次第に焦りが増してきたのか、今度は盛んに多方面から攻撃を繰り返し始めた。
しかしながら僕自身が流星錘の動きにも慣れてきてしまった為、これまで警戒していた攻撃も避けることが容易に行えるようになってきた。
やはり暗器はあくまで暗器、あまり主戦力として披露するべきものでは無いのだろう。
ディアボロスが暗殺者として成功してきたのは、気配の希薄さと類まれなる再生能力あっての賜物だったということか。
奴に逃げられなかったのはもちろんディアナのおかげだろう。
残念な事に彼の攻撃は結果が実ること無く現在に至ることになる。
そして程なくして神気の集中が再び成功した。
僕が両手に神気を集中させたことで、先程までの片手ずつ行っていた練習時とは様子が異なることには、やはり既に気がついているようだ。
先程まで続けていた攻撃がぱったりと止まり、慌てて僕から距離を取り始める。
表情を見る限りは先程までよりも強い焦りを伴いながら逃走の機会を模索しているようだ。
「――随分待たせてしまったみたいだね。これで終わらせよう」
僕の問いかけに対してディアボロスからの反応は無い。
しかしその必死具合はこちらにも十二分に伝わってきている。
片目で僕の動きを警戒しつつも、もう片方の目はめまぐるしく動き、現在進行形で逃げ道を探しているようだ。
散眼といえば良いのだろうか、実に器用なことである。
そして僕が攻勢に移るべく体勢を低く構えた瞬間、ディアボロスもまた一歩後ずさり、ダメ元で逃亡を試みるつもりなのだろう、僕に背中を見せ路地に向かって低空で飛行を始めた。
まさか背中を見せて逃亡を始めるとは思ってもいなかったので、少々面を喰らってしまう形になってしまった。
先程から少しずつ立ち位置をずらしながら攻撃していたのはこれが目的だったからなのだろう。
僕達が飛んできた方角とは反対に当たる路地。
この先の路地まで駆け再開発区間を抜けることが出来れば、ディアボロスの隠密性なら僕からでも十分に逃げ切ることが可能だろう。
……そう、逃げ切る事が出来れば。
ディアボロスは気がついていないようだが、僕もただ無策に誘導されていたわけではない。
こちらに誘導されることを許容したことに関してはきちんと理由がある。
僕はモノクル越しに表示されているマーカーを確認しながら、あえて一息遅らせて一撃を叩き込むべく一歩を踏み出す。
そして、ディアボロスの耳にも声が届くかどうかはわからないが、僕はこの場にいないディアナが言うつもりだったであろう言葉を口にする。
「忍法、百雷銃退き」
マーカーの地点にディアボロスが到達した直後、奴が向かった先で次々と爆発が発生する。
「グ、グアァァァ!?」
速度を上げるためなのか低空飛行をしていたことが災いして、その予期せぬ爆風に煽られて体勢を崩したディアボロスは、勢いあまり地面に激突し転げながら大きな悲鳴をあげる。
転げながらも体勢を整えようと必死にもがくが、しかし体勢を整え片膝を立てながら顔を上げた時、すでに追いついた僕の右の拳がディアボロスの目前に到達する。
身体のなるべく広い面、胸の辺りに拳を叩きつけ、このタイミングで右手に集中させた神気を――
「って、どうやって爆発させるんだ!?」
速度を重視した一撃はディアボロスの身体を吹き飛ばすこと無く、しかし大きく仰け反らせた。
と、一拍遅れて右手に集中した神気がモノクル越しに爆発する様子が確認できた。
「グゥゥゥゥ! ナ、ナンノコトダァ!?」
爆発した神気はディアボロスの身体が仰け反り離れてしまったことで届くこと無く霧散する。
そして、右手の拳によって引き起こされた衝撃に苦しみながらも、僕の盛大な独り言に反応をしてくれた。
……これで終わらせようとか言っていた手前、正直なところちょっとだけ恥ずかしい。
とはいえこのまま終わりというわけにもいかないので、気を取り直してもう一歩踏み込み、今度こそ先ほどの爆発の感触を忘れないように左の拳をディアボロスの胸をめがけてしっかりと叩き込む。
そして今度は失敗すること無くインパクトの瞬間に神気が爆発し、モノクル越しに見えるその衝撃がディアボロスの身体を飲み込む。
ディアボロスは初めは断末魔の叫びのような声をあげていたが、ついには神気の爆発に飲み込まれ完全に動きを止めて微動だにしなくなった。
「今度こそ上手く行ったか?」
僕は見慣れないその光景にに目を奪われながらも、動きを止めたディアボロスの反応を窺う。
今度は先程とは異なりディアボロスからは何の反応もない。
一瞬後、少しの間僕も無防備になってしまっていたことに気付くが特に反撃を受けるようなことは無かった。
そして少しずつ身体から色が失われていく……。
――神気の一撃を叩き込んでから数分後。
僕は全ての色が抜けすっかり装備品ごと真っ白な石像のようになってしまったディアボロスの前に立ち、周りを見渡している。
周辺には激突した後がいくつも散見される。改めて繰り出してきた攻撃の威力を実感する。
今回は準悪魔化の段階だった事もあり、力の使い方に慣れていなかったのが幸いしたと考えるべきだろう。
あくまで人間として武器を使った攻撃にこだわっていたが、身体能力自体が向上していたはずなので、本来であれば多彩な攻撃を繰り出すことも可能だったはずだ。
少しだけ考えにふけっていると、ふと視界の先に数人の人影を見つけた。
モノクル越しに表示されているマーカーを見る限りでは、グレゴワールと広場にいた配下の者たちだろう。
恐らくは百雷銃の爆発音のおかげでようやく発見することが出来たというところだろうか。
遠目に見えるグレゴワールの表情を見る限りは、命を狙われていたショックからはぬけ出すことが出来たようだ。
「バーナード様、ご無事ですか!?」
「僕の事ならこの通り大丈夫ですよ」
そう言いながら自身の無事をアピールすると、グレゴワールは一応安心は出来たようで、ほっと息を吐くと周りを見渡し始めた。
「どうかされましたか?」
「あ、いえディアボロスには逃げられてしまいましたか」
「いえ、ディアボロスならここに――」
僕が指を差した方向には真っ白になったディアボロスが先程と寸分たがわぬ様相で立ち尽くしていた。
「……この悪魔像のような物が、ディアボロス?」
「はい、僕も驚いたのですが戦いの結果このような状態に――」
そう言いながらディアボロスの肩を軽く叩くと、脆くも崩れ始める。
「なってしまいまし、た?」
そして最終的には装備品ごと跡形もなくなってしまった。
もっと上手に文章を書きたい。>_<




