9. 生徒になった意味ないじゃん
「俺は……Aクラス。まあ妥当だな。」
ルカスがまじまじと掲示板を眺めていると思ったら、自分の名前を探していたらしい。
「生徒になる話、本当だったのね………。」
半分冗談だと思っていた私は少しだけ驚いている。
「従者として付いて来たはずなのに………今までにもそんな事が?」
「いや……こんな事今回が初めてだ。お前の父親はどうやら今のリディアを相当気に入ってるらしい。」
ルカスは顎に片手を当てて考えるような仕草をしている。
「どういう事?」
「学園にいる間、ずっと俺が側に付いていれるように手を回したんだろう。従者だとどうしても限界があるからな。」
従者は基本的に校舎の中には入れないらしい。寮で生徒を送り出し寮の中で待機しているか、校舎までの送り迎えまでは許可されているという。王族や高位貴族の場合、従者が護衛を兼ねている場合もあるからだ。しかしながら、お父様はそれだけでは不十分だと判断したのだろう。ちなみに今は校舎外のため、人目につかないところで従者の姿に戻っている。寮の中で一緒にいるためにはこちらの方が都合がいいのだ。
「クラス別れちゃったけど……。」
私は半眼で掲示板を指差す。
「まあ何とかなる……と思う。」
「何それ。生徒になった意味ないじゃん。」
ちょっとだけ言葉に詰まったルカスに、私は苦笑いを浮かべる。
「お前、俺を誰だと思ってるんだ。そんな事が問題になると思うか。」
ルカスは大きくため息を吐く。まあ確かに、先ほどは寮から校舎前の前庭まで一瞬で駆けつけてくれたのだった。これまで従者として学園に来たルカスがお助けキャラの役割をこなしていたのだとすると、クラスの違いくらいどうって事ないのかもしれない。
「それにクラスが違っても行事の日は関係ない。全クラス合同で行われるからな。」
「それって……私の命の危機は行事の日にやって来るって事?」
私は目を瞬いてルカスを見つめる。
「あ……。」
ルカスは片手で口を塞いで顔を青ざめた。
「どうしたの?」
「3つのお願い以外で、先の事を知ろうとしたリディアは………。」
「リディアは?」
「翌朝もれなく変死体となって部屋で発見された……。」
「ひっ!」
私は目を見開いて叫び声を上げる。
「ねえ、もうアウトなんじゃない? 私明日死んでる?!」
ルカスの腕をぐいぐいと引っ張りながらそう尋ねる。死の淵に慣れているとは言ったが、ルカスが口を滑らせたせいで死ぬとかそんなしょうもない死に方はごめんだ。せめてちょっとくら学園生活を楽しんで、何かしらの行事で頑張ったけどダメだった……くらいのシナリオには仕上げたい。
「……まあこれくらいだったら多分大丈夫だろ。まだ物語は始まったばかりなんだ。」
「そう……だといいけど。」
私はホッと息を吐き出す。
「だが、この世界の創造主はずっとお前を見てる。イカサマをしようとした者には容赦しなかった。絶対にルールは破るな。」
ルカスはいつになく真面目なトーンで言い聞かせるように、ゆっくりと丁寧に確認する。
「ねえ。一個だけ確認なんだけど……。」
「まだ何かあるのか。」
ルカスは眉を顰めて、私を腕から引き剥がそうとしている。
「ヴェルディ邸での願い事を二つとカウントするのもまずいんじゃない?」
ルカスの腕を掴んだまま、ルカスの顔を覗き込む。
「あー、あれもまあ大丈夫だろ。」
「何でそう言い切れるの?」
私は眉を寄せて首を傾げる。
「あれは物語の始まる前の話だからな。それにあんな簡単な魔法、本来は願い事のうちに入らないはずだ。お前の奇行には創造主もさぞ驚いている事だろう。」
「………何かよく分からないけど馬鹿にされているのだけは分かった。」
私は頬を膨らませてルカスを睨みつける。
「俺も繰り返しの回帰にイラついていて、最初の説明も適当だったからな。まさかこのタイミングで、この世界を全く知らないリディアが出てくるとは思わなかった。」
ルカスは少しだけ視線を落としてそう言った。見方によれば反省しているように見えなくもない。私以外のリディアは別に説明されなくても、この世界の事はすでに知っていたのだろう。きちんとルカスの説明を聞いていたのかも怪しい。説明を端折ってしまったルカスの気持ちも分からなくはない。複雑な感情が胸を渦巻く。
「そんな顔してないで今日は早く寝ろ。明日から本格的な学園生活が始まるんだからな。」
ルカスは私の額をぽんっと指でつつく。
「痛っ。」
私は両手でおでこを押さえる。いったいどんな顔をしていたのだろうか。
「お望みでしたら湯浴みのお手伝いでもいたしましょうか?」
そう言って従者の如く礼をとるルカス。その所作はやはりとても綺麗でうっかり見惚れてしまった。
「は?本当に手伝ってほしいのか?」
ぼーっと見つめていた私に怪訝な顔を向けてくるルカス。二面生が凄すぎる。
「そ、そんな訳ないでしょ!」
私は慌てて顔を背ける。
「くっ……そうか。」
完全に揶揄われている。
しかし、何か言い返したくても私には上手く言葉が出てこない。
「ーーーーーーっ。おやすみ、また明日!」
それだけ言って自分の部屋に走り込んだ。
真っ赤な顔で走り去るリディアを見送るルカス。
「はあ………本当にそろそろ解放してほしいな。アレの死を繰り返し見るのは流石にもう疲れた。」
リディアに声が届かない距離になったところでボソリと呟く。
「今回のリディアでもう許してくれないか…………創造主、さま。」
リディアが部屋に入った事を確認すると、ルカスも自分の部屋に戻って行った。




