10. 仲間は多い方がいいもの
翌朝、ルカスは従者スタイルで部屋に現れると、食事の用意を整え、私を校舎まで見送り、すぐに生徒スタイルになって再び私の側に現れた。
「どこのスパダリですか……。」
「意味のわからない事を言ってないでさっさと行くぞ。」
見た目も立ち居振る舞いも、やっている事もイケメンなのに、その口の悪さだけが本当に残念だ。
「ここが私のクラスね。」
私は1-Eと書かれた教室の前で立ち止まる。そんな私の肩にルカスがポンと右手を置いた。
「じゃあ………気をつけてな。」
不穏なトーンで声をかけるのはやめて欲しい。
「………な、何を?」
私は頬を引き攣らせて斜め後ろにあるルカスの顔を見上げる。
「いろいろ。」
ルカスは意味深な微笑みを浮かべてAクラスの教室に向かって行った。これは忠告でも助言でもない。完全に面白がっている。私はジト目でその後ろ姿を呪った。
「ふう。」
私は一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着けると、目の前の扉をガラガラッと勢いよく開けた。
「おはようございます!」
元気よく挨拶をしながら足を踏み入れる。
…………。
教室中の視線が私に集まったが、誰からも返事はもらえなかった。
え、何……これが噂のイジメ?(違います)
「私、本当に学校に来たんだわ。」
私は目を輝かせて教室を見回す。
「気持ち悪いやつだな。誰からも挨拶されなかったのに、何でそんなに嬉しそうなんだ。」
黒板に張り出されている座席表を確認して自分の席に座ると、後ろの席の誰が声をかけてくれた。
「初めまして。リディア・ヴェルディと申します。お友だちになってください。」
私は声の主を確認する事なく、そう言いながら振り返る。しかし自分が声をかけた相手を見るなり、何事もなかったかのように前に向き直った。
ガシッ。
私は生まれて初めてヘッドロックを喰らわされている。女の子よ、私。まあまあ可愛いし。
「いい根性してるな、おい。断ろうかと思ったが気が変わった。お友だちになってやるよ。喜べ。」
「ひっ。」
私は涙目で声を上げる。
「レオ・ベアリングだ。よろしくな。」
初めてできたお友だちはかなり個性的な髪型をしている。まあ分かりやすく言うと……どう見てもヤンキーなのだ。目つきも鋭すぎる。
「あー可哀想。初日からとんでもないのに気に入られてるね、君。」
ははっと笑い声を上げながら別の男の子が近づいてくる。
「この俺にこんな失礼な態度をぶちかましてきた女は初めてだ。本当におもしれーな。」
ヤンキーのおもしれー女枠に入れられてしまった。
やばい、やばい、これはマズイ。残念ながら私には何のおもしろポテンシャルも持ち合わせていない。インドア、学なし、才能なし、そして今のところ友だちもなし。あるのは死の淵に慣れている図太い神経だけだ。
「レオは見た目はこんなだけど、中身は割といい奴なんだよ。なんか君、女には好かれてないみたいだし、盾くらいに思ってたらいいんじゃない?」
「おいセオ。お前の方が何十倍も失礼だな。」
「ははっ、今更だよ。」
レオとセオと呼ばれた男の子はリディアの事はお構いなしで、仲良さげに会話をしている。
「あの……。」
「あっ、僕はセオドア・フレデリック……セオでいいよ。」
ニッと無邪気に笑う姿に私も頬が緩む。二人とも悪い人ではなさそうだ。レオの事も見た目だけで怖そうと判断して申し訳なかったと思う。チラリと横目でレオの顔を見る。……やっぱり怖い。
「また別の男子生徒に声をかけてますわ。」
「アーサー様にエリオット様。レオ様にセオドア様にまで手を出すなんて。」
「さすがヴェルディ伯爵家のご令嬢は違いますわね。」
これ見よがしに始まった令嬢たちの会話。最後に家名が出てきたためリディアの事であると確定した。
「あら、私の話ですか? 良かったら混ぜてください。」
リディアは満遍の笑みで近づく。
「はあ?」
「何のつもり?」
「何のつもりかと問われれば、普通に女の子の友だちが欲しいなと。」
この学園内の知り合いは、ルカスも含めて男子生徒五名になってしまった。
「何で私たちが……。」
「前庭で話しかけてくださったのも貴方達よね?私に興味があるのかと思って。」
「んな訳ないでしょ!あっち行って!」
令嬢たちにしっしっと手で追い払われてしまった。女の子のお友だちゲット作戦は失敗だ。この学園では女の子よりも男の子の方が優しいらしい。
「失敗した……。」
「は? 本気で友だちになろうとしたのか?」
がくりと肩を落として自分の席に戻ってきた私に、レオが驚きの声を上げる。
「ははっ、単なる嫌味かと思った。」
セオドアは可笑しそうに笑っている。
「何が起こるか分からないなら、仲間は多い方がいいもの……。」
私は急に真剣なトーンでそう呟く。別に仲間を増やすために友だちになりたかったわけではないが、何故だかふと頭の中にその言葉が浮かんだ。
「………何か俺たちヤバい奴と友だちになっちまったな。」
先ほどは嬉々としてリディアを友だちとして承認したレオであったが、既にその判断を後悔し始めている。
「マジでずっと意味わかんないねー。」
困り顔のレオに対して、セオドアはニヤニヤとリディアを見つめていた。




