11. そんなに重要な事なのか
登校初日に二人のお友だちをゲットし、ご機嫌で寮に戻ってきた私。従者スタイルのルカスを部屋に引き留め、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、ルカス。私以外のリディアは皆んな、何の物語に転生してきたか分かっていたんでしょ?」
「ああ、多分な。」
ルカスはまた私が変な事を言い出したと思っているのか、面倒くさそうな顔をしている。
「じゃあ、ココが何の世界かくらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「ココが何の世界か? どう言う意味だ。」
ルカスは思いっきり眉を顰めて私に質問を返す。話が長くなりそうだと思ったのか、魔法でテーブルの上に紅茶と焼き菓子が出てきた。
「そんな説明を求められた事もないし、お前が何を言ってるかすら分からない。」
「……そう。」
私はがっくりと肩を落として焼き菓子を摘んだ。美味しい。
「お前がいた元の世界はこことは違う別の世界だと言うことは分かってる。しかし俺はこの世界しか知らない。だからここが何の世界かと問われても……まあ、強いて言うなら『お前の死により回帰を繰り返す奇妙な世界』と言ったところか。」
「そうなのよねー。」
まあ当然の答えが返ってきたなと思う。あ、紅茶も美味しい。今日
はアールグレイね。
「どうして急にそんな事を?」
「ん? 今日、朝からずっと考えていたのよね。」
授業中もずーっと考えていた。だってめちゃくちゃ暇だったから。今日の授業内容聞きたいですか。Eクラスの初日の授業……文字の読み書き、足し算、挨拶の仕方、以上。さすがに知っている。
「私の死でこの世界が回帰を繰り返すのであれば、私が主役だと思ったんだけど……。主役が途中で死ぬ世界観のゲームって何? 学園ものの、女の子が主役で。そんなの……。」
「そんなの?」
「………あまりないのよ………多分ね。」
私は小説とかゲームとかそういうコンテンツに詳しいわけではないが、異世界学園もの、女主人公のゲーム枠で、主人公が途中で死んでしまうような展開は少ないのではないだろうか。
ちなみに始まりのクラスがリディアによって毎回違うとことから、小説の可能性は一旦消している。リディアが死んで小説の展開と違うからやり直す……と言うのであれば、もうクラスが違う時点で巻き戻しになってしまうと思ったからだ。
「悪役令嬢なのかしら……?」
「また訳の分からないことを。」
「私の他にそんな事を言っていたリディアはいない?」
「いない。」
「そう……。まさかモブが死んで世界を繰り返すなんて大掛かりな事しないわよね。」
「俺はお前が何を言ってるのかずっと分からない。」
ルカスは目を瞑り、ゆっくりと首を横に振る。
「今日できた友だちにも同じこと言われたわ。」
私はふふっと笑いながら肩を竦める。
「多分そいつはまともな奴だ。大切にしておけ。」
多少冗談のつもりで言ったのだが、大真面目に返されてしまった。
「そうね。せっかくできた最初の友だちだし大切にするわ。」
そんなに意味のわからない事を言っているだろうかと少なからずショックを受けながらも、その通りだと大きく頷く。
「しかしそんなに重要な事なのか? この世界が何の世界かなんて 。」
「楽しみ方が変わるじゃない?」
「何の?」
「この学園の?」
私はコテリと首を傾げる。
「何故お前が首を傾けるんだ。」
呆れたような口調のルカス。
「何となく……。」
優雅に口元にカップを運ぶ仕草とその口調のギャップに苦笑いを浮かべる私。
「………学園生活を楽しもうとしたリディアも初めてだな。」
「そ、そうなの?」
カップに落としていた視線を急に自分に向けられ、一瞬だけたじろぐ。黙っていればかなりのイケメンなのだ。そして従者スタイルのため、とてつもない迫力がある。
「そうだろ、普通。」
ルカスは盛大にため息を吐いた。しかし、私には普通という概念はない。普通って何だ。普通に生きた事もないのに普通なんて分かるはずもない。私は何だか急に可笑しくなってきて、思わず笑いがこぼれは。
「ふふっ。どんなに心配したって死ぬ時は死ぬし、助かる時は助かるのよ。そんな事をずっとうだうだ考えてるくらいなら、私は目の前のことを楽しみたいの。楽しまないともったいないじゃない。せっかくの学園生活。しかも変な人ばかりで面白そうだし。」
「………お前が一番変だと思うが。まあ、楽しそうで良かったな。」
「ふふっ、そうね。」
カチャリ。
「あ、そういえば……。」
カップを机に置いたルカスは、突然さっと顔を上げた。
「何っ? どうしたの、急に。」
そろそろお開きかなと思っていた所だったので、私は少しだけ驚いた。
「死の恐怖だけに囚われていないリディアも数人いたな、と思い出だした。」
「私と同じように楽しんでいたの?」
「いいや全く。『絶対に生き残って〇〇と結婚する!』と意気込んでいた。」
「ちなみにそのリディアたちは?」
「……皆三年で命を落とした。」
「そう。」
ルカス情報により、新たな事実が発覚した。意気込みだけではこの学園生活を生き残れないこと。そして、ここが恋愛系のゲームの世界である可能性が急浮上した。正気か、クリエイター。
「ホラーかサスペンス、ミステリー系のゲームかと……。謎を解く気満々だった。」
「何を突っ込めがいいのかすら、もう分からん。」
「おかしいと思ったのよね。前世のプレイヤーなら謎の答えを知っているはずだし、何で間違うのかなって。そうじゃなかったのね。」
「………。」
「……ルカス?」
ふと気がつくと、目の前のルカスの目は完全に死んでいた。




