59. またお前か!
「なるほど、こうやって贄にするために私を毎度殺していたのね。」
「あー、趣味が悪いな。」
ここはソピアグノーシス学園の屋上。真夜中、しんと静まり返り誰もいるはずのないその場所。私とルカスがそこで目にしたのは想像を絶するほどの光景だった。闇魔法に使用されると思われる魔法陣がそう狭くはない屋上全体にびっしりと書き込まれ、その中央には大きな布のかけられた台座が配置されている。考えたくもないが、おそらく誰かの遺体が寝かされているのだろう。
「リディア・ヴェルディ! またお前か!」
その台座の横に立っているのは私たちのよく知る人物。
「ローガン先生。なぜこんな事を。」
「私の美しい時間を邪魔するのはいつでもお前だ! なぜお前だけが毎回不可解な行動をとるんだ!」
いつもの穏やかな雰囲気は全く感じられず、髪を振り乱しながら叫ぶその姿から感じられるのは狂気と怒り。
「全然会話にならないな。早く片付けよう。」
「でも……。」
ローガン先生はずっといい先生だった。いい先生に見えた。しかし、この悪夢のような回帰を繰り返しているのが彼なのであれば、そんな事をしている理由が知りたかったのだ。
音が止まって演舞のやり直しをさせられた運動会、突如イテンス火山からスティーブ渓谷に変わった収穫祭、そして狙われた3ーAの野営陣。ローガン先生のクラスになった途端、強くなった私自身や3ーAへの敵意。彼の関与を決定付けたのはデスロードの祠の跡に彼の魔力の痕跡が残っていたからだ。しかしそれはうっすらと。私とルカスでなければ気が付かない程度のものだった。ローガン先生は自分が疑われているなどとは夢にも思っていなかっただろう。だから油断してこの学園内で儀式を行なったのだ。昨日まではまだ数%だけ先生を信じる気持ちもあったのだが、この光景を見たならば、彼が全ての根源であることは間違いないだろう。
「ルカス! なぜ君が今になって出てくる! 大人しく本の中に封印されていればいいものを!」
「え?」
突然ビシリとルカスを指差したローガン先生。何故今、そんな話が出てくるのだろうか。
「あー………。なぜだか分からんが俺が本の中に閉じ込められていた事は有名な話らしい。歴史書にも載っている。」
「な、なるほど……?」
ルカスを本の中に閉じ込めた神様。それ事実を広めた誰か。それが神様である可能性もあるが、それによって何がもたらされたのだろうか。そして、それがローガン先生とどのような関係があるのだろうか。
「俺がいない方が皆んな好き勝手出来ただろう。目の上のたんこぶがいなくなったんだからな。こいつもそんな口だろう。」
「ふざけるな! 君がいなくなってどれほど大変な思いをしたか……。どれほど絶望したか…………。」
「……………そういう、事か。…………まあ事情は察するが、お前のした事に情状酌量の余地はない。」
「どういう事?」
「俺はこいつを知っているんだ。ものすごく昔からな。そしてこいつは俺の次席魔法使い。アナベルと肩を並べる………まあまあすごい魔法使いだった。」
「さすがローガン先生とアナベル学長ね。でもまだ話が見えないわ。」
私はルカスとローガン先生を交互に見た後、左右に首を振る。
「俺がいなくなった後、任された仕事はこいつを絶望させるに値する過酷なものだった。そしてその時、その呪いを受けたんだろ?」
「呪い?」
「…………そうだ。あの時、君がいればこんな事にはならなかった。私は道を外す事はなかったし、生徒たちも巻き込まれることもなかったんだ。」
「ふざけているのはお前だ。それは完全に逆恨みだろう。人のせいにするな。」
二人の会話から察するに、ルカスがいなくなったこの国で、ローガン先生はルカスが担うはずの仕事を任され、力が足りずに失敗して呪いを受けた。そう言うことだろう。
「リディア・ヴェルディ! 貴様、よくも私を侮辱したな!」
「え?」
「……リディのその口は本当に呪いレベルだな。俺ですら『力が足りず』とは言わなかったのに。…………まさかわざと挑発しているのか。」
ルカスは呆れた顔で私の事を見ている。
「そんな訳ないわよね………。」
「いや、こんな状況でもこいつを先生と呼ぶあたり、正当防衛くらいの勢いじゃないと手を下せないのかと……。」
ルカスの指摘はあながち間違いではない。私にとってローガン先生は担任の先生以外の何者でもない。特別に目をかけてもらった記憶もないが、蔑ろにされたわけでもない。表面上は生徒としてきちんと接してもらっていたと思う。
「あの時はあれが最善の対処だと思った。百年も経ってこんな事になるとは思わなかった。」
ローガン先生は俯き、ギュッと拳を握りしめる。意外にもまだ話を続けてくれるようだ。もしかすると先生は、誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
「ちょっと考えればわかる事だろう。それだけの魔物を自分の中に取り込むなんて事、自殺行為以外の何者でもない。」
「それでも、私はやるしかなかった。」
「………王家、もしくはキャンベル公爵家の指示か。」
「久しぶりに聞いたな、その忌々しい家名。」
ローガン先生はルカスの言葉に、顔を歪めてそう吐き捨てるように言った。




