58. 誰にもやらない
「卒業してもリディアと一緒に仕事ができるなんて嬉しいな。」
「仕事のパートナーは譲るが、人生のパートナーは譲らないからな。」
「何か、いつの間にか面白い事になっているねー。」
「セオ! 他人事だと思って適当な事言わないで!」
翌朝、王城から挨拶に来た外務省の人事の人に「よろしくお願いします。」と握手を求めなれたので、思わず握り返してしまったら、何と入職確定となってしまったのだ。詐欺じゃないの?と思ったが、この世界ではそういうものらしい。じゃあ、断る時は握手を拒否するって事? かなり勇気がいるけど。
ヴェルディ商会に戻るつもりであった私はよく分かっていなかったが、収穫祭が終わって、聖夜祭の前までに卒業後の進路が確定するのが一般的らしい。本当にこの世界のスケジュール感はぶっ飛んでいると思う。
「何の覚悟もないまま就職先が決まってしまった………。」
「リディアなら絶対に大丈夫だよ。」
ぽんと私の肩に手を置いて微笑むエリオット。
「馴れ馴れしく触れるな。」
その手をベリッと剥がしとるルカス。
「プロポーズしただけで、旦那顔するのやめたほうがいいよ。リディア、やっぱり私にしておいた方がいいんじゃないかな。」
「へ?」
推しから突然プロポーズを受ける。
「はあ? 今更そんなの許すわけないだろ。」
そう言えば、従者からもプロポーズされていたのだった。
「エリオット様、気持ちは分かりますがお二人の邪魔は良くありませんわ。」
「そうだねー。僕の今更クロエを奪われたら気が狂うかもー。」
「セオドア様………。」
クロエがぽっと頬を染める。当初は意外すぎる組み合わせであったが、今となっては本当にお似合いの二人だ。
「リディは俺のものだ。誰にもやらない。」
ルカスは私を背中の後ろに隠す。(ただし生徒スタイルのため、うまく隠れていません)
「リディアは物じゃないぜ。」
私たちがピーチクパーチク言っている頭の上から、めちゃくちゃ落ち着いた声で正論を落とされた。
「リディアの気持ちをちゃんと確認してやれよ。」
「レオ!」
一番やばい見た目をしているのだが、誰よりも優しく、誰よりも常識のある男だ。全員の目線がレオを見るために上げられる。
「お前も周りの様子ばかり伺ってないで、自分の気持ちをちゃんと言うんだ。分かったな。」
レオの右手が私の頭にぽんと乗せられる。
「自分の事以外では意見バンバン出してくるのにな。収穫祭とか……収穫祭とか……まあ、収穫祭とか。」
そう言いながら私の頭を掴んだままぐるぐると右手を動かす。痛くはないけれど、目が回る。
「収穫祭だけ、だな。普段のリディは自分の事を蔑ろにしがちだ。俺が側に付いていないと生きていけない。」
レオの話を静かに聴いていたルカスが私に視線を戻してそう言う。エリオットが肩に触れただけで過剰反応したルカスであるが、レオが私の頭をもぎ取ろうとしているのは止めてくれないようだ。仕方がないので、自分の両手でレオの手を掴み持ち上げる。
「それはそう。ルカスがいないと最早生きていけない。」
私はかつて、ルカスの事を『傍若無人の性格最悪、俺様魔法使い』と称したことがあるが、それはエリオットとのダンスを邪魔された怒りをぶつけただけである。言葉遣いに関してはずっと最悪のままだが、やっていることはそれこそ『スパダリ』と言っても過言ではない。この三年間、甲斐甲斐しく私のお世話を焼き続けたのだ。私このままで大丈夫だろうか。
「……………とにかく、自分の事を大切にしろ。それは即ち、自分を大切にしてくれる人を大切にするのと同義だ。」
レオは私の両手の中からするりと抜いた右手をあげて、「じゃあな。」っとその場を立ち去ろうとする。私たちの会話に加わる気はなさそうだ。
レオは本当に優しい。しかしただ甘やかすだけではなく、きちんとこうやって私が道を外しそうになるのを止めてくれる。
「レオみたいな人と結婚した方がいいんだろうな…………。」
その後ろ姿を見ながら、ボソリと本音がこぼれてしまった。ルカスとエリオットはシュッと音がしそうなほど高速でレオの方に首を回す。それとは反対に壊れたロボットのようにギギギギ……っとこちらを振り返ったレオ。眉を顰めてレオを睨みつけるルカス、全く目が笑っていない笑顔のエリオット、盛大に頬を引き攣らせたレオ。
「お前だけは絶対にない。」
「ごめんなさい。」
そんなに嫌がらなくてもいいのに。完全に自業自得なのだが、速攻でフラれた私はしょぼんと肩を落とす。
「………安心しろ。お前とはずっと『お友だち』でいてやるよ。」
大きなため息を吐いてそう言ったレオ。彼は後ろ手に手をひらひらとさせて、今度こそこの場を立ち去ってしまった。
「もはや、好きかも……。」
彼は私の初めての『お友だち』である。それを分かっていて彼はそう言ったのだ。
「友だちとしてな。」「友だちだよね。」
再び私の方を向き直ったルカスとエリオットに挟まれ、しばらく尋問が続けられるのであった。
ちなみに聖夜祭のダンスはルカスだけと踊った。昨年からの約束だったし、私もそうしたいと思ったからだ。エリオットは少しだけ悲しそうな顔をしていたけれど、殺到する女子生徒たちの相手で忙しそうだったのでこれでよかったのだと思う。
ピコンッ。
卒業後の就職先
セオドア:第四王子(in王城)
クロエ:第四王子妃(in王城)
レオ:魔術師団(in王城)
エリオット:外交官(外務省in王城)
リディア:外交官(外務省in王城)
ルカス:?




