56. ふざけてんのか
「お、おわった…………。」
『収穫祭』終了の合図である花火とともに、私はその場で座り込み天を仰ぐ。地獄の二日間が終わったのだ。
「やったな。」
「死ぬかと思った…………。」
「疲れたー。」
「やりましたね、リディア!」
「お疲れ様、リディア。」
いつもの仲間たちが声をかけてくれる。ルカスに支えられながら何と立ち上がり、3-A全員で集合場所への移動を始める。私だけでなく、クラスメイト全員の足取りが重い。
超絶グロテスク醜悪軍団を日の出までに殲滅した私たちは、すぐに野営陣を撤収し、間髪入れずにポイント稼ぎを再開した。控えめに言っても満身創痍だ。普通に精も魂尽き果てているし、気を抜けば魂が抜けそうなほど疲れた。もしかしたら何回か死んで何回か生まれ変わったかもしれない。というか、ルカスに何回か回復してもらわなければ死んでいた生徒は私だけではないはずだ。
そして数時間、学園に戻ったところで私たちの学年の『収穫祭』の順位が発表された。
第一位 レオ・ベアリング
第二位 クロエ・スコット
第三位 セオドア・フデレリック・グランカース
第四位 エリオット・ダグラス
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第八位 リディア・ヴェルディ
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第十一位 ルカス・キャンベル
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「どういう事でしょうか。」
「ふざけてんのか。」
上位二人がめちゃくちゃ怒っている。収穫祭の解散後、寮への帰り道はかなり混沌とした雰囲気に包まれている。
「おかしいなー。」
「そんな訳ないよね。」
セオドアとエリオットは困惑の表情を浮かべている。
「まあ私はいいとして、ルカスがこの順位は……。」
私は隣を歩くルカスの顔色をこっそり伺う。
「ふん。ああ誰の仕業なのかも、どういう意図でやったのかも分かっている。怒る気にもならない。」
え? てっきりブチギレ案件かと思ったけれど。
「声に出てるぞ。」
「ごめんなさい。」
「リディアも怒るべきだよ。」
「大元を絶ったのはリディアだろうが。こんな順位もらっても嬉しくも何ともねえ。」
「ちょっと先生方に抗議してきますわ。」
レオとクロエの怒りは未だに鎮まらない様子だ。
「ちょちょちょ、二人とも落ち着いて。先に説明はされているわ。」
くるりと方向転換をした二人の腕を掴み、慌てて引き止める。
「何の説明なのー?」
「デスロードは『収穫祭』で討伐するランクを超えているからポイントが当てられていないんですって。そもそも、スティーブ渓谷の外に出ちゃってたっていう理由もあるのよ。だから、カウントには入れられないそうよ。」
「俺の魔法も特殊すぎて討伐したかどうか確認が取れないらしい。遠距離で使った、まあ普通の魔法で倒した分だけカウントされたらしい。」
確かにあの跡形もなく魔物を消し去るあの魔法は、特殊すぎて魔道具が上手く作動していなかった可能性は大いにある。そして、冷静に考えてみたら、アレを遠距離で使われたら怖すぎる。生徒が数人消えていたら、おそらくルカスの仕業で間違いない。
「そう…………なんですか。」
「……………そんなのは無理矢理なこじつけだろう。」
私とルカスの説明を聞いて、ようやく二人のボルテージが少し下がる。
「まあ、俺のはこじつけもいい所だ。俺の事をあまり目立たせないようにしたいらしいな。」
「どういう意味かな?」
エリオットが首を傾げて聞き返す。
「俺を取り込みたい奴が、他の奴らに奪われないように俺の順位を下げたんだろう。」
「あー。」
ルカスの言わんとすることが理解できた。そういうことか。
「ルカスは何か厄介な奴に目をつけられてんだな。」
レオが同情の眼差しを送っている。
「そういうレオはどうなのー?やっぱり魔術師団に入るのかなー?」
セオドアが上手く話題を変えてくれた。ナイス、セオドア。
「ああ。まあそうだな。」
「では卒業後もよろしくお願いいたします!」
クロエはくるりとレオに向き直って微笑む。
「あら、クロエも魔術師団に?」
「いえ、わたくしはその……。」
「クロエは僕の妃になるんだよー。僕は魔術師団を率いる事になるから、クロエもその補佐だねー。」
「なるほど!」
皆んな卒業後の事をきちんと考えていて感心する。
「エリオットは卒業後は何を?」
こうなってくると、推しの進路ももちろん気になってくる。
「私は外交官志望だよ。跡取りじゃないから国内にとどまる必要もないしね。いろいろな国を見て回りたいんだ。」
「まあ、素敵ですね。」
社交的で明るくて優秀なエリオットにピッタリの仕事だ。ちなみに自分を守るための強さも必須な職業だという。
「リディアも一緒にどう? 運動会で披露した魔法演舞で、きっと即採用だと思うよ。」
「演舞で即採用?」
そういえば運動会の後にもそんなような事を言われた気がする。
「私はヴェルディ商会の手伝いする予定で……」
「あんなに優秀な跡取りがいるのに、本当に手伝いが必要なのか?」
「ルカス?」
ルカスがそんな事に口を挟むのは珍しい。私は思わず目を見開いて首を傾げる。
「なぜリディはそこまでヴェルディ商会に固執するんだ。」
「そ、それは……。」
それはもちろん、愛しのお兄様の近くにいるためだ。卒業したら一目散にヴェルディ邸に帰るんだ、とずっと思っていた。
「リディはもっと広い世界を見たほうがいい。」
「意外と世間知らずだもんねー。」
「魔法と勉強のこと以外、何にも知らないんじゃねえのか。」
「そこがまた可愛いんだけどね。」
皆んな、ひどいな。
「皆さん失礼ですよ! 本当の事言われると、人は傷つくんですから!」
「…………クロエのひと言が一番刺さったわ。」
一パーセントも悪気のないクロエの言葉に私は眉を下げて笑う。
「も、申し訳ございません!」
「ちょっと待った!」
頭を下げようとするクロエの腕を掴み、間一髪で王子妃を跪かせるのを阻止した。危なすぎるよ、この人。
「すぐに願書の締め切りがあるから考えておいて。」
エリオットはあはは、と笑いながら片手を上げる。
「じゃあまたな。」
「また明日ー。」
私たちはいつの間にか寮に到着していた。ロビーで皆んなと別れ、一日ぶりに自分の部屋向かう。
「収穫祭が終わった瞬間、今度は卒業後の進路に悩まされるのね。本当にどうなっているのかしら、この世界の時間の流れ。」
私はため息を吐きながら部屋へと続く廊下を一人、とぼとぼと歩きはじめるだった。(ルカスは生徒スタイルのため、自分の部屋に戻りました)




