55.恋は多少の障害がある方が上手くいく
キューちゃんとエリオットという目の保養の手段を手に入れた私は、グロテスクな見た目の敵への不快感が薄れ、怒涛の勢いで野営陣まで魔物たちを追い込んで行く。薄らと日が差し込んでして、魔法の灯りで視界を維持する必要も無くなってきた。
ドッカーーーン。
ズドーーーン。
バコーーーン。
野営陣付近でものすごい音がしているが、皆無事だろうか。
「レオかな……いや、クロエ。うーーーん、セオドアの線もあるな。」
エリオットが首を傾げながら、両側のデスナイトを氷漬けにする。
「誰が誰の心配をしていたんだか。」
「………ごもっとも。」
自分の魔物の探知能力に関しては、今はかなりの自信がある。(ルカスを除く)3-Aの中では群を抜いているだろう。しかし、戦闘能力に関しては私などお話にならないレベルのようだ。
「クロエのお父様は騎士団長で、お母様が上級魔法使いだからね。身体能力も高いし、めちゃくちゃ強いよ。セオドアもまあ王族だからね。それ相応の訓練は受けているはず。」
「流石エリオット。よくご存知で。」
本日二度目の衝撃の真実を聞かされている。私は仲間たちの事を何も知らなかったようだ。
「いや、知らないのはリディぐらいだろう。」
ルカスは私たちの周りを取り囲むアンデッドの群れを一瞬で消し去る。
「えっ?」
ルカスの言葉(と魔法)に私は目を丸くする。
「そうだね。多分みんな知っていると思うよ。」
「そ、そうなの?」
まさか、ルカスまで知っている情報だったとは…………。私の情報網は全く機能していないようだ。
「リディアはみんなに優しいけど、誰の事も興味がないからね。」
エリオットは困ったように笑う。
「そんな事は………あるのかしら。」
確かに、クラスメイトの名前も覚えられない。仲の良い友達の家のことも知らない。これは興味がないからなのか。
「まあ、よく言えば当人の人柄しか見ていない。悪く言えば、全く興味がない。」
「ルカスが言うと、どっちも悪口にしか聞こえないわね。」
私は苦笑いで目の前のスペンサーに炎魔法を打ち込む。
「私はどんなリディアだって大好きだよ。」
「ふふっ、ありがとうございます。私もどんなエリオットも大好きですわ。」
ルカスの辛辣な言葉の後のエリオットの優しさ。心に沁みわたる。
「………………ねえルカス。私の口説き文句を物凄く綺麗に流されるんだけど、これ以上どうしたらいいのかな。」
「二年前なら上手くいっていたかもな。だが、もう遅い。」
キュウウウウーーーー。
その時、キューちゃんが一際大きな声で叫んだため、少しだけ距離のあった私には、ルカスとエリオットのやり取りの内容を聞き取ることが出来なかった。
「キューちゃんまで酷いな…………。でもまあ、恋は多少の障害がある方が上手くいくっていうからね。」
「………お前の鋼のメンタルは評価する。」
ルカスとエリオットは余裕で魔物を退治しながら会話をしている。しかし針に糸を通すような集中力で魔法をコントロールし続けて来た私は、急に頭が回らなくなって来た。足元が少しだけふらつく。
「ちょっと、やばいかも…………。」
そう呟いた瞬間、私の周りにキラキラとした光が現れた。
「えっ!?」
「リディは少しだけペースを落とせ。魔物を殲滅する前にお前が死ぬぞ。」
「ありがとう、ルカス!」
ルカスによってかけられた何らかの魔法により、元気と集中力を取り戻した私は、背筋を伸ばして両手を構え直す。
ルカスって魔王みたいな見た目なのに、使う魔法も綺麗だし、回復魔法も得意なのよね。
「…………ご期待通り、あらゆるものを消し去ってやろうか。」
全く目の笑っていない笑顔で脅される。またもや頭で考えていた事が口に出てしまっていたようだ。
「あははは、魔王か。いいね。じゃあ私たちは魔王の手下というわけだ。」
エリオットが笑い飛ばしてくれたので、私もその流れに乗る。
「ふふふ……目に映るもの全て焼き尽くしてあげるわ。」
私とエリオットは全く必要のない大袈裟なポーズを取って魔法を繰り出した。
「ほんと、いつでも楽しそうだねー、君たちはー。」
「セオ!」
いつの間にか野営陣まで戻って来たらしく、目の前に突然セオドアの姿が現れて驚いた。
「真面目にやれよ! 気合い抜いたら死ぬぞ、普通に。撃ち合うなよ!」
レオが大声で指示を飛ばして来た。
「確かに………。」
ここまで来れば魔物たちの攻撃で大怪我をする事は無さそうだが、お互いの魔法を受けてしまえば死ぬ可能性もある。レオの声でその場の空気がピリっと締まるのが分かる。
「あと一息です! 最後まで手を抜かずに殲滅しましょう!」
「行くよー。」
クロエとセオドアの華麗な連携。
「リディア、囲い込もう。」
「任せて!」
エリオットとリディアによる包囲網。
「俺は上空から逃げる個体を監視してくる。魔法に巻き込まれるなよ。」
ルカスによる遠隔攻撃により逃亡も許さない。
キューーーーーー。
キューちゃんも3-Aの包囲網から抜け出そうとする魔物を咥えて陣内に戻してくれる。
「魔物たち、ちょっとだけ不憫だよな。」
「ああ。上位の魔物に操られてだけだとしたら最悪だな。」
後方から補助魔法でサポートしているクラスメイトたちは、真っ青な顔でその地獄の様子を眺めているのだった。




