54. ヤキモチ妬かないの
ここは地獄だ。肉体が腐ったような匂い。耳をつんざく奇声。そして一番許せないのは、この世のものとは思えないグロテスクな魔物たちの見た目である。
「今の時代、いくら敵でもファンができるくらい美しくなければいけないのよ!」
私はこのゲームを作ったクリエイターにブチギレながら魔物の群れに魔法を打ち込む。もしくはキャラデザをしたイラストレーター、この魔物の見た目でGOを出したプロデューサー。
「リディ………お前、何にキレながら戦っているんだ……。」
ルカスは呆れ顔をしながらも、確実に魔物を消し去っていく。
彼が使っているのは攻撃魔法ではない。魔物の存在そのものを消し去っている何やらすごい魔法だ。やだ、怖い。急に頭が冷えてきた。
「その魔法、人間に当たったらどうなるのかしら………。」
ルカスは本当にチートな魔法使いだ。なにせ本物の大魔法使い様なのだ。彼にボスを消し去ってもらっていたならば、過去のリディアは死ぬ事はなかっただろう。しかし、そうではなかった。ルカスが手を出せる範囲には制限があるのだろう。ルカスにお願いできるのは、魔物もしくは人の居場所を教えてもらう事。
一年目の私は、ルカスに教えてもらう事もなく、目の前にセンチビートが現れ、しかも不意を突かれても危なくないような魔物だったため『お願い』を使う必要もなかった。
二年目、本来は捉えられた生徒の居場所を教えてもらう必要があった。しかしながら、同じく閉じ込められていたルカスには私と一緒に脱出方法を探す権利があり、生徒を見つける権利があった。結果として『お願い』を使う事なくルカスがクロエを見つけて、ボスであるファントムは私が討伐した。
そして三年目、最終学年での収穫祭ではおそらくボスの場所を教えてもらうのが『お願い』の正解だった。ボスを討伐しなければ国中が魔物に占領され、私だけでなく多くの国民が危険に晒されていたに違いない。しかし今の私には、魔物探知レーザーが搭載されている。ルカスが言った通り『お願い』を発動する必要がない。そして前年までと同じようにボスは私が討伐した。
「ザコキャラはルカスが倒しても問題ないのね。」
「………ちょっと何を言っているか分からないが、まあそうなんだろう。」
私とルカスは背中合わせになって少しだけ休憩を取る。魔物のレベルとしてはデスロードの方が何十倍も上なのだが、山の中で大きな魔法を打ち込むわけにもいかず、数も多いため単純に疲労が溜まり、精神力も削がれてきている。空を飛んでとりあえず野営陣まで戻るという手もあるが、そうすると魔物たちが他の場所に拡散してしまう可能性がある。他のクラスの生徒や、全く関係のない人々を危険に晒すよりも、今は3-Aのクラスメイトの実力を信じて後ろから挟み込む方がいいと思っている。寝込みを襲われていなければ、彼らがこの程度の魔物に負けるはずもない。
キューーーーーーーー。
その時、上空から愛しのキューちゃんの声がした。
「キューちゃん!」
私は3-Aの野営陣で何かあったのかと一瞬だけ慌ててしまった。
「リディア!」
その背中に乗る人影を見るまでは。
「エリオット?!」
愛しのキューちゃんの背中に乗っていたのは、何と愛しのエリオットであった。何それ、何その最強コンビ。そのままアクスタ発売されないかしら。
「お前たちはいつから呼び捨てで呼び合う仲になったんだ。」
半眼でエリオットとキューちゃんを見上げるルカスからボソリとクレームが入る。
「こら、ルカス。そんな事でヤキモチ妬かないの。」
「はあ?」
「あら、違ったかしら?」
私はにやりと笑い、横目でルカスに視線を送る。これまで揶揄われてきた意趣返しだ。
「違っ…………わない。」
え、何それ。可愛いな、ルカスのくせに。
「戦闘中は敬称なしで呼び合おうって事になったんだよね。収穫祭の前に。普段、敬称をつけて呼び合ってる人たちの中で。」
エリオットはふふっと笑いながら、キューちゃんの背中から飛び降りる。
「ルカスは当然誰にでも呼び捨てだから、話にも入っていなかったわ。」
私は肩をすくめながらエリオットとキューちゃんとの距離を縮める。
「………なるほどな。」
三人の姿だけを切り取ると悠長に話をしているように見えるが、実際には押し寄せてくる魔物に魔法をバンバン打ち込みながら会話をしている。お互いに背中を預けながら。
「野営陣はどんな様子なの? エリオットがいなくて平気かしら?」
「大丈夫、レオが水を得た魚のように生き生きと戦っているよ。流石、現役魔導士団長の息子だよね。」
「え?」
「セオドアとクロエも息ぴったりだし、他の皆んなもいいチームワークで動けている。問題ないよ。リディアの炎魔法じゃ、ここでは戦いにくいだろうから行ってやれって。レオがね。」
「レオ………。」
好きだ、我がマブダチよ。そして、魔道師団長のご子息である事を初めて知った。ごめん、我がマブダチ。
「あー、余計な事言わなきゃよかったな。ライバル増やしちゃったか。」
エリオットは苦笑いをしながら、目の前の敵の群れを凍らせて粉々に砕く。
「お前わざとじゃないだろうな。自分が選ばれないと思って俺の邪魔を……。」
「ルカスは自分が選ばれる確信があるの? 私は諦めていないからね。ふふっ、最後までよろしく。」
「はあ?」
笑顔のエリオットに対してルカスは不機嫌さを隠そうともしない。
「ちょっと二人とも! 意味のわからない事ばっかり言ってないで、前に進むわよ。」
「「リディ(ア)にだけは言われたくない(かな)。」」
ルカスとエリオットの声がピタリと揃った。
「わー、息ぴったり……。って言ってる場合じゃないのよ、行くわよ!」
キューーーー。
呆れた顔でため息をつくルカスと、あははは……と笑うエリオットの代わりに、キューちゃんが元気よく返事をしてくれたのだった。あ、もちろんキューちゃん、戦えます。魔物ですから。




