53. 初めましてデスロード そしてさようなら
「どこまで下ればいいのかしら。魔物も出てこないようだし、もう出尽くしたということなのかしら………。」
壊れかけた建造物の中にあったのは、地下に下りる階段一つだけ。私たちは迷うことなくその階段を下り始め、今はそこから続く大きな螺旋状の階段を下っている。山の中に大きめの塔が入っているような構造だ。一体どうやって建てたのだろうか。
「ここから放たれていた魔物はアンデット、デスナイト、スペンサー。ここに祀られているデスロードであれば無限に生み出せるはずだ。俺たちの存在を認識して、地下におびき寄せいていると考えるのが無難だろう。」
「…………。」
「何だ、どうした?」
何でもないことのようにルカスは首を傾げている。
「今の一言の中に聞きたい事が山ほどあるわ。………まさかあの暗闇の中、魔物を目視できたわけでは………。」
「そんなわけないだろう。気配と魔力で大概の判別ができる。」
「気配と魔力………。」
私の探知魔法で分かるのは、その存在の方角と距離、あと魔力の大きさ程度だ。まざまざとその実力差を感じさせられる。………悔しくはない。ずっと側にいるためすぐに忘れかけてしまうが、ルカスは大魔法使い様なのだ。
「じゃあこの先に待っているのがデスロードだっていうのも………。」
「気配と魔力だな。まあリディは経験不足なだけで、魔物との対峙数を増やせばすぐに俺くらいの判別能力はつくだろう。」
「嬉しいような………嬉しくないような………。」
私の目標はこの学園を生きて帰ることだ。そして、無事に卒業できたならばヴェルディ商会を手伝うのが私の夢だ。大魔法使い様と肩を並べる必要はこれぽっちもない。
「ああ、おしゃべりはこれくらいにしておかないといけないらしい。」
「ええ、そうね。」
私に分かるのは魔物のいる方角、位置、そしてその強さ。
「私にだって、あなたの居場所と能力ぐらい分かるのよ! なめないで欲しいわ!」
グワアアアァァァァーーーーー!
私が何もないはずの場所に炎魔法を打ち込むと、ものすごく低音の悲鳴と共にかなりグロテスクな見た目の魔物が姿を表した。これが|
デスロード《死霊王》で間違いないだろう。大群で行進していた魔物たちとはその強さが桁違いだ。
『何故俺の居場所がわかったぁぁぁーーーー?!』
魔物はギリギリ聞き取れるような低音で怒号を吐く。これ以上音域が下がれば、ただの振動としてしか捉えられないだろう。
「そんなに強い魔力をたれ流しにしていたら誰でも分かるんじゃないかしら?」
私は眉を顰めながらその問いに答える。
実は私、きちんとボス級の魔物と対峙するのは初めてである。ラミアは目視する前に焼き殺してしまったし、ファントムは姿を表した瞬間にとどめをさしてしまった。私はイケメンが好きだ。美しいものが大好きだ。それ故に、魔物特有の醜く悍ましい姿を視界に入れるのはかなり辛い。
「手加減はできないかもしれないわ。一瞬でも早く消してしまいたい。」
私はボソリとルカスにだけ聞こえるように呟く。その間にデスロードはジャブのような魔法を数十発打ち込んできたが、私たちの身体に届く前に全て消えてなくなった。大魔法使い様、凄すぎる。
「ああ、問題ない。」
ルカスは小さく頷き、挨拶でも返すようないつも通りの声で答える。デスロードは再び先ほどよりも大きな魔法を放ち始めるが、これもきっと私たちに届く事はないだろう。
「思い切りやれ、鎮火は任せろ。」
私はその言葉を聞いて、頭の中で魔法を組み立て始める。今は何かしらの建物の中に入っているが、ここは間違いなく山の中だ。得意な炎魔法はデスロードにも有効であるが、巨大な山火事を起こしてしまう可能性が高い。
「後の事はよろしくね。」
そう言いながら自分の身体に防御系の魔法を展開する。
「初めましてデスロード。そしてさようなら。」
言い切る前に私が使える最大級の炎魔法を、最大スピードで放った。
『なっ……』
デスロードは何かを言いかけていたが、その声はただの雑音として消えていく。その姿とともに。
「脱出するぞ!」
ルカスが間髪入れずに叫ぶ。建物内は私の放った炎で埋め尽くされている。防御魔法のおかげで今のところは無事だが、この建物がいつまでもつかも分からない。生き埋めにされたらかなり厄介だ。私は無言で頷き、元来た道を駆け出す。足の軽さに驚き、一瞬だけルカスを見たが、彼は何も言わずに前を向いて走っている。私よりも半歩だけ下がって。
ガラガララガラ、ドッシャーーーーーン。
私たちが建物の入り口を出た瞬間、それは跡形もなく崩れ落ちた。何かしらの保護魔法がかかっていたと思わざるを得ない。
「……危なかったな。」
ルカスは特に何も言わないため、私も気づかないフリをすることにする。
「デスロードの魔力も消えているわね。」
「一瞬だな。野営陣を守るか、ここに出向くか悩んでいる時間の方が長かった。」
「それは…………。」
確かに。
「まあリディらしいがな。」
私が魔法を発動した付近、山の八号目あたりで山火事が起こっていたため、ルカスが広範囲の水魔法で一気に鎮火させた。そのまま手当たり次第魔物を倒しながら小走りで山を下山する。モブクラスの敵であれば小さな炎魔法で対処できるため、山火事を起こすリスクも少ない。二年間、学園の森で火事を起こさないように炎魔法の特訓をし続けた私には朝飯前だ。
「さあ、この調子で野営陣まで押し込みましょう!」
「ああ、行くぞ。」
再び押し寄せてくる魔物たちを前に、私とルカスは魔法を繰り出す構えを取るのだった。




