51.俺たちはただ目の前の魔物を倒すだけだ
「今日のところは問題なく討伐できたんじゃないでしょうか。」
「討伐難易度の高い魔物が出ることもなかったし、今の所は例年通りの展開かな。」
クロエとエリオットは顔を見合わせて微笑む。
「この調子で明日も無事に終えれるといいんだが。」
「大丈夫じゃない? 皆んな一緒なんだしー。」
レオとセオドアも落ち着いた様子で話をしている。
「俺たちはただ目の前の魔物を倒すだけだ。」
ルカスもボソリと小さな声で会話に加わった。
一日目の討伐を終えて、私たちは視界の開けた場所で野営をしている。この二日間は生徒たちだけで生き残らなければならないのだ。野営の道具自体は強力な保護魔法の掛けられたものを貸与されてはいるが、その設営や食事の準備なども自分たちで行う。ちなみに保護魔法付きの野営道具は学園がヴェルディ商会から仕入れたものである。今後ともご贔屓に。
野営の仕方や調理実習などはひと通り学園の授業で行っていたため、真面目に授業を受けていた生徒であれば問題なく過ごせるはずなのだ。まさに卒業試験にふさわしいイベントである。他のクラスはどうか分からないが、3-Aはもちろん完璧に行っている。さらに全員で固まってテントを張っているため、小さな村くらいの灯りが集まっており、レベルの低い魔物であれば近づこうともしない筈だ。
「…………。」
「何故黙っている。こういう時はお前が締めるのがお決まりだろ。」
「えっ?」
ルカスに顔を覗き込まれて私は覚醒する。意識が全く別のところに行っていた。
「あ、ごめんなさい。で、何だったかしら?」
私は慌てて話に加わろうとするが、何の話題が上がっていたのかすら分からない。
「リディア様、大丈夫ですか?」
クロエが心配そうに声をかけてくれた。優しい。
「クロエ様、ありがとうございます。私は大丈夫よ。」
私はにこりと笑って返事を返す。
「誰よりも魔物を討伐していたから、疲れたんじゃないかな? 今日はゆっくり休んでね。」
隣に座っているエリオットが頭を撫でてくれた。
「ありがとうございます、エリオット様!」
「現金な奴……。」
一瞬で元気を取り戻した私を見て、ルカスが呆れた顔をしている。
「えへへ。」
二年前には目の前に立つだけで鼻血を噴き出して意識を失ってしまったエリオット。友人となった今ではこの距離感で触れられてもただ嬉しいだけだ。
エリオットもセオドアもレオもクロエも入学当初はこんなに仲良くなれるとは思っていなかった。今では大切な友人であり、文字通り背中を預けられる本当に信頼できる仲間たちだ。
「皆んなと出会えて本当に良かった。」
私はふと、頭に浮かんだ文字をそのまま声に出した。
「何故今、そんな事を言い出すんだ。」
「タイミング良くないよねー、何か縁起悪ーい。」
レオのしかめ面とセオドアのヘラヘラした顔も。
「セオドア様、やめて下さい! もうすぐ卒業だから、とかきっとそういう感じですわ。」
クロエのセオドアにも臆せずものを言うところも。
「私もリディア嬢と出会えて本当に幸せだよ。」
「リディは『皆んなと』と言ったんだ。お前と出会えて、などとはひと言も言っていない。」
エリオットとルカスの正反対コンビによる言い合いも。全てが愛おしい。
「皆んなと過ごした時間は全部、私の宝物よ。だから、明日も無事に乗り切って学園に戻りましょう。」
私はにこりと微笑み、皆んなの顔を見る。
「それは最低限の目標だよねー。」
「俺たちが目指すのはもちろん優勝だ。」
「だから………チーム戦じゃないってば。」
団結力が強すぎる。私はあはは、と笑いながらツッコミを入れる。
「全員一位っていうのはあり得るんじゃない?」
「それは名案ですわ。」
エリオットの粋な提案にクロエが明るい声で同意する。
「ちょっとエリオット。さっきからクロエの心掴むのやめてくれないかなー。」
セオドアはニコニコしながらエリオットに圧をかけている。さすが王族。表情管理が素晴らしい。
「そろそろ休むか。」
食事の後片付けも終わり、会話がひと段落したところでレオが皆んなに声をかける。
「そうだね、明日も早い。」
「明るくなったら直ぐに片付けてポイントを稼ぎましょう。」
野営の後片付け自体も、実は採点の基準に入る。きちんと片付けて野営道具を返却しなければ、大幅なポイント減点になるのだ。よく考えられているシステムだと思う。
「明日も頑張ろー。」
「お休みなさい。」
私たちは一人一つずつの個人用テントにそれぞれ入って行く。『収穫祭』は個人戦のため、団体で行動する事は想定されていない。しかし、団体で行動してはいけないというルールはないため、この状況も別に問題ない筈だ。
……………………。
外に人がいなくなっても、魔物避けの火は焚かれたままのため、夜だというのにこの周辺だけ明るい。
「何だか変な感じ………。」
「それは今のリディの行動を指す言葉で合っているか?」
「ルカス?!」
全員がテントに入ったのを見届けた筈なのに、何故だかルカスは私の後ろから現れた。そういえばルカスは転移魔法が使えるんだったっけ。
「リディはこんな所で何をしている。」
私は3-Aの野営陣を見渡せる少し高い位置に立っている。
……………いや、かなり高い位置に浮いている。真夜中に、一人で。
自分の異常行動を緩和させようと、ちょっとだけ嘘をついてしまった。心の中での嘘なので、多分命までは取られないだろう。
「リディには………何が見えている。」
ルカスは眉を寄せて私の言葉を待っている。もちろん私に聞かずとも、ルカスには全部見えているはずだ。これはただの確認だろう。
「あっちに気味の悪い魔力を感じるわ。何か厄介な魔物よね。そこから無数の魔物が生み出されているのが分かる。こっちに向かって来るわ。このままだと夜明け前までにここに到着するのよ。」
私はそこまで説明してルカスの顔を見た。すると、彼の顔は見たこともないような驚愕の表情を浮かべていた。




