50. 今年もてっぺんとるぞ
あれから一ヶ月、魔物討伐のために考えた自主トレーニングを積み重ね、収穫祭当日を迎えている。
「あれだけやったんだから絶対に僕たちが一番だよねー。」
「セオドア様、今年はチーム戦ではありませんわ。でも我々の中の誰かが優勝で間違いありません。」
「収穫祭はずっと俺たちが一位だったんだ。今年もてっぺんとるぞ。」
「ふふっ、君たちと一緒だと本当に楽しいよ。今日もよろしく。」
「何でこんな事になっているんだ。意味が分からない。」
「私だって分からないわよ。」
二年までの収穫祭とは違い、三年の『収穫祭』は個人競技である。腕につけている魔道具により、討伐した魔物の種類と数が記録され、そこから計算されたポイントによって順位がつけられる。あ、もちろんその魔道具はヴィルディ商会の商品ですわ。毎度あり。
しかしながら、私の周りにはいつもお馴染みの仲間以外にも、3-Aの生徒全員が集まっている。そして、こうやって皆んなが集まるのは今日が初めてではない。私が始めたトレーニングに、「またおもしろそーな事やってるー。」とセオドアとクロエが加わり、「お前たちだけ抜け駆けか!」とレオが加わり、「私だけ仲間はずれなんて悲しいな。」とエリオットが加わり、その後は雪だるま式に参加者が増え、とうとう3-A全員が参加する巨大なサークル活動となってしまった。
「皆んなで固まっていたらポイント稼ぎには不利じゃないかしら?」
至極真っ当なことを私は言ったつもりだった。
「何が起こるか分からないから、仲間は多い方がいいんだろ。」
「え?」
レオが何処かで聞いたことのある台詞を発する。
「リディアが言ったんだよー。覚えてないのー?」
セオドアはニヤニヤと笑いながらレオの隣に並ぶ。
「何かが起こるかもしれないから、あんなに毎日トレーニングされていたんですよね。」
「魔法実技優等生のリディア嬢があんなに必死になってたのだから、皆んな何となく気がついているよ。」
セオドアの隣にクロエとエリオットも並ぶ。
「あっ、えっと……。」
絶対にネタバラシはしてはいけないだろうし、私にも何が起こるかも分からない。万に一つくらいは何も起こらないかもしれない。何と答えていいか分からず、私は眉を下げて隣に立つルカスの顔を見る。
「これはお前が今まで積み上げてきたものの結果だ。イカサマでもルール違反でもない。皆んなと力を合わせればいい。」
ルカスはいつも通りの無表情で私に声をかける。
「ルカス…………。」
その言葉に背中を押された私は、一歩前に出て右手を高く上げる。
「皆んなで頑張るぞー!」
「「「「「「おー!!!!」」」」」
私の掛け声に合わせて皆んなが声を上げ、その声と共に『収穫祭』開始の花火が空に上げられた。
「二、三人でチームを組んで動こう。緊急時は空に向かって白色の魔法をあげる事!」
エリオットがクラス全体に指示を送る。さすがクラス委員だ。いつ何時でも頼りになる。
「じゃあ、お先にー。」
「皆さんもお気をつけて!」
セオドアとクロエが先陣を切った。
「私たちも行こうか。」
「おうよ。」
エリオットとレオもその後に続く。
「おい、リディ。収穫祭はこれからだ。」
「わ、分かってるわよ。」
私は慌てて目元をゴシゴシと拳で拭う。
「じゃあ目に浮かんでいるソレ、今はしまえ。前が見えなくなる。明後日、全てが終わった後に思う存分泣けばいい。」
私は既に感極まって涙目になっていた。これが青春だと胸が熱くなっている。しかし泣いている場合ではない事も事実だ。
「そうね。明後日、私は一日中泣いている予定だから、ルカスが私のお世話を全部やるのよ。」
私はルカスの胸にぽんと手を置き、すぐに走り出す。
「まあ、いつもの事だな。」
「行こう!」
既に涙は引っ込んでいる。ルカスが信じてくれている明後日という日、を皆んなで一緒に迎えなければならない。
「本当、泣いてる場合じゃないわね。」
私は早速出てきた魔物たちに向かって両腕を伸ばした。
「さて……何を仕掛けてくるんだ、創造主さま。」
リディアの背中を追いかけながらルカスはボソリと呟く。リディアの影響なのか、今回は周りの生徒の状況もまるで違う。今までのリディアであれば中のいい男子生徒一人と共に動く程度だったが、今のあいつにはこれほど多くの仲間がいる。そして、仲間一人一人のレベルもこれまでよりも格段に上がっている。
「全部あいつがやった事なのに、あいつが頑張ったおかげなのに………何故かラッキーな奴だ、としか思えないのが不思議だ。」
早速出会したブルースライムに電気魔法を打ち込むリディア。横から飛んできたアルミラージには炎魔法を打ち込んだ。
今の所、魔物の強さも数も例年と変わりない。だが、リディアの魔法の成長が凄すぎる。簡単な魔法であれば詠唱なしで発動できるのも凄いのだが、魔法の発動速度が早すぎる。今の魔物との対峙間隔であれば、ブルースライムには魔法を打ち込み、アルミラージは剣で対処するのが一般的だろう。
収穫祭は討伐大会である。魔物の討伐目的で出向く場合は、王宮所属の魔法使いでも長剣を携えているものだ。もちろんリディアも身につけているし、学園の授業でも習っている。
「その調子でいけ。剣はやめといた方がいい。怪我をする。」
リディアは剣の腕はからきしであった。
「そう言うわけにもいかないわ!」
そう言いながら、反対側から襲いかかってきたグリズリーの足元にに氷魔法を打ち込んで動きを止める。その後に剣で一突きして心臓を貫いた。確かに、剣技のみで魔物を倒すには技術が足りないが、そういう使い方もあるのだとルカスは気付かされる。
「ほう。」
ルカスはリディアの動きを目を細めて眺めるのだった。
「ルカスもちょっとは参加しなさいよ!」
普通に怒られたので、ルカスも戦闘モードに頭を切り替えるのだった。




