49. 今できる事を全力でやる
「で、さっきのあの不可解な行動の理由はいったい何なのかしら?」
私は寮に戻るなりルカスを捕まえて部屋に引き摺り込んだ。従者スタイルのため全く問題ない。……多分ね。
「……………まあ、何が起こっているのか俺にも分からないんだ。別に言ったところで問題はないだろう。」
ルカスはそれまで重く閉ざしていた口を開く。
「どう言う意味?」
「今までの何十回と繰り返されてきた回帰で、収穫祭の場所は一度も変わらなかった。リディアが三年まで生き残った時は毎回、インテンス火山だったんだ。もちろん噴火も起こらなかった。」
「え?」
ルカスの言葉に私はぱちくりと目を瞬かせる。結局のところ………どういう事だ?
「それが何故か今回だけ場所が変わってしまった。まさかアナベルが毎回討伐場所を決めていたとはな。そしてそれが今回はスティーブ渓谷に変わってしまった。」
「それっていい事なの? 悪い事なの?」
「前例がない以上、どちらとも言えない。いつもより簡単なのかもしれないが、いつもより難しいのかもしれない。もしくは結局いつも通りという可能性も。」
「つまり………………今は何も分からないって事だけは分かったわ。」
「そう言う事だ。」
ルカスは口元に片手をあてて、難しい顔をしている。いつも何を考えているのか分からないルカスであるが、何をしていても余裕綽々の顔をしているため、こんな事は珍しい。
「まあでも、やる事は今までと同じなのよね。魔物を討伐して間引く。そして生き残る。」
「言葉にするとえらく簡単そうだな。」
ルカスはため息を吐いて私を視界に入れる。
「私のスタンスはいつもと変わらないわ。何が起こるか分からない事にウジウジ悩まない。今を楽しむ。そして、今できる事を全力でやる。」
『収穫祭』とは前述の通り、三年の生徒が魔物を討伐して間引くという行事だ。討伐した魔物の強さや数によってポイントが与えられ、そのポイントの多さで順位がつけられる。サボったり怠けたりする生徒が出ないように、ポイントが著しく低い生徒には『留年』という重すぎるペナルティが課せられる、学園の行事の中でもかなりやばいイベントである。卒業試験だと思えば、そういうものなのかもしれない。そして運動会と同様に各方面へのアピールの場となる事は必至であり、腕に自信のあるものたちは魔物の山を築いてポイントを稼ぎまくるそうだ。
「お前は二年までに稼いだアドバンテージがあるんだ。無理に魔物を討伐してポイントを稼ぐ必要はないだろ。」
ルカスは優しい。半分は自分が本の中に戻されないためだとしても、私の事もちゃんと心配してくれている。私自身が消えてなくなったとしても、自分は本の中に戻って再びやり直す事ができるのだから。
しかし、ルカスの今の言葉には同意できかねる。
「ねえルカス。私はあまり詳しくないんだけど、こういうゲームって防戦になればなるほど不利なんじゃない?」
「は?」
「魔物を倒せば敵も危険も減る、そうじゃないかしら。」
「………。」
ルカスの口数が減ってきた。私は確信を突き始めている証拠だ。だが、うっかりルカスの口を開いて死亡フラグを立てないよう、私はこれ以上余計な事を言うのはやめた。
「じゃあ、また明日ね。ルカス。」
「おい、ちょっと待て。俺を置いてどこに行く。」
ここは私の部屋である。
「あ、鍵閉めて勝手に帰っていいからね。」
そう言ったのだが、ルカスは私の後をついてた部屋を出てきてしまった。
「こんな時間からどこに行くつもりだ。」
生徒会の活動を終えて寮に戻ってきているため、今は夕方である。ルカスはおそらくこのまま夕食の用意をしようとしていたに違いない。ごめん。
「私、収穫祭までに魔物の討伐トレーニングを始めるわ!」
私は先を急ぎながらルカスの問いに答える。ここまできたら、ひと時も無駄にしたくはない。
「………具体的に何をするんだ?」
「私がこれまで何の対策も考えてなかったと思うの?」
半眼で後をつけてくるルカスに、私は自信ありげに答えてみせる。
「そうだな………お前は大抵何も考えていない。結果として何かいい方向に向かっているだけで、何も計画的ではないな。」
何かとんでもなく失礼な事を言われたが、心当たりがあり過ぎて思わず「ぎゃふん。」と古き良き時代の漫画のようなセリフを吐いてしまった。
しかし私はいつまでもおバカで子どものリディアではない。だった八ヶ月ほどしか経っていないが、ルカスと出会ってからの二年半でかなり成長したはずだ。
「この辺でいいかしら。」
私がやってきたのは学園内にある森の中である。運動会でC・Dクラスの宝探しの会場となっているあの森だ。ここには低ランクの魔物が生息しており、本来は魔物討伐の実戦練習の授業を行う場所となっている。
「まずは魔物の探知魔法の精度を上げるわ。」
「何を……。」
私の言葉に目を見開き驚いたルカスであったが、私が呪文を唱え始めたので静かに見守るモードに表情を変える。
すでに日が落ちて目視で魔物を捉えられなくなった森で、私はひたすら魔物を捕える練習を始めた。ここに生息する魔物程度であれば、殺さずとも生捕りにする事くらい容易い。落ちこぼれ1-E出身ではあるが、伊達に3-Aの看板は背負っていない。そして、授業の教材である低ランクの魔物たちを一掃してしまっては、実習の先生方から大目玉を喰らう事だろう。
魔物たち 生かして避けよう 大目玉




