47. じゃあ夢じゃないな
「結局、あの音源エラーの原因は分かったのか?」
無事に運動会が終わり、いつものメンバーで寮に向かって帰っている所だ。前を歩くレオが、振り返って尋ねる。
「いや、先生方からは何も。」
「ついてないねって笑ってたねー。」
『魔法演舞』で実行委員会の仕事をしていたエリオットとセオドアが苦笑いで答える。
「本当に酷いです。リディア様じゃないとあんな強行できませんわ。」
「まあ大体の目星はついているがな。」
クロエとルカスは自分の事のように物凄く怒ってくれている。
「ありがとう、皆んな。でも、あんなに大歓声に包まれて、二回も演舞を披露できて、結果優勝ですもの。ついてないどころか、私はめちゃくちゃラッキーよ。」
当の私は二回も演舞を披露できた事に大変満足している。あんなに練習したのに、本番が一回しかないのは少しだけ寂しいと思っていたのだ。
「リディア様はいつでもポジティブで素敵ですわ。」
「ポジティブだし、努力の鬼。」
「でもいつでも楽しそうだよね。」
「そして意外と何でもできるよねー。」
「そ、そうかな。」
皆んなから絶賛の嵐をもらい私は照れる。しかし、先ほどの演舞自体をもう少し褒めてくれてもいいのだが。
「自己管理が甘い事以外は文句のつけようがないな。演舞も素晴らしかった。」
「は?」
「へ?」
「え?」
「まあ。」
ルカスが人を褒めた………。
あの天上天下唯我独尊男が………。
ルカスが謝る姿はこれまで何度か目撃しているが、人を褒めるのは初めて聞いた。しかもその相手が私。皆んなも驚き固まっている。
「何だ、なぜそんな変な顔をしている。」
「もしかして今日の出来事は全部夢なんじゃないかって疑ってるところよ。」
魔法演舞は練習通り完璧に出来たし、狙っていた優勝ももらえた。しかし、先生たちがあんな初歩的なミスをするのかとかなり疑問に思っている。そして、音楽を流す魔道具もかなり精密なものであり、実行委員会の生徒と付き添いの先生がついているため、壊れたりイタズラされたりする事もないはずだ。何でそんな事知ってるのかって? だって私、実行委員会ですもの。
でもまあ、そのおかげで二回も演舞を披露できて、優勝して、ルカスにまで褒められた。もうこれは夢で間違いないだろう。
「痛い。」
「じゃあ夢じゃないな。」
ルカスが思い切り私の頬を引っ張った。自分でやろうと思っていたのに、人にやられたら更に痛い。
「ふふっ。でもまあ、今年もそれぞれ好成績を収められて良かったよね。」
エリオットはにこりと微笑んで頷く。最終学年のAクラス。その中でも優秀な仲間たちは今年も運動会で大活躍であった。
レオはピクシーファントムの捕獲競争に出場。大きなマジックミラーの箱に彼らを閉じ込めると、お互いがお互いに幻夢を掛け合い、箱の中は大惨事となっていた。まあ、生け捕りには間違いないためぶっちぎりの優勝。
セオドアとクロエはグリフォン騎乗レースに参加し、仲良くワンツートップでゴールしていた。「仲良しだなー。」なんてほのぼの見ていたところ、他の生徒たちがなかなか現れなかったため、おそらく二人はとんでもないスピードで空を飛んでいたに違いない。さすが今年の生徒会長と服生徒会長だ。去年一緒にレースに出ていたならば、おそらく私は優勝していなかっただろう。まあ、運も実力のうちだ。
エリオットは結局グリフォン騎乗射的に出場して、昨年とは違う魅力を大爆発させていた。きっと今年も多くのファンを獲得したに違いない。ルカスと共に湖宝探しに出るか最後まで迷っていたが、競技順を聞いた後、すぐにこちらに変えていた。
「逃げたな。」
「私はリディア嬢の演舞が観られればそれでいいんだよ。探知魔法は私の得意分野ではないしね。」
エリオットはルカスの挑発に乗る事なく穏やかな笑顔を浮かべている。最近はルカスと言い争う場面が多かったため少しホッとする。
「エリオット様はリディア様のことになると譲りませんが、ご自分の事には寛容ですわね。」
クロエが平和な場内に巨大な爆弾を投下した。
「エリオットはリディアのこと以外興味ないもんねー。」
私はこの二人を『爆弾夫婦』呼ぶことに決めた。まだ結婚はしていないが、これ以上ない最適な二つ名であると思う。
恐る恐るエリオットの方を振り返ったが、彼はふふふっと穏やかに微笑んでいる。が、微笑んでいる場合ではない。私と彼自身のためにも、きちんと否定してほしいのだが……。
そしてルカス。彼は今年も湖宝探しに出場し、ぶっちぎりの優勝を勝ち取っていた。もはやこの種目において、彼の右に出るものはいない。
「湖宝探しのプロにでもなるつもり?」
「そんな職業あるわけないだろ。」
「…………知ってるわよ、流石に。でも学園の運動会は卒業後の進路のアピールの場でもあるのよ。三年間同じ種目に出る生徒はそうそういないわ。」
「俺に進路のアピールなんて必要だと思うか。」
「………そうね。」
言った私が馬鹿だった。ルカスは元々大魔法使い様なのだ。閉じ込められていなければ、きっと何かしらの役目があったに違いない。
「お前こそ、アレを職にするつもりか?」
「アレって?」
ルカスの言葉に私は大きく首を傾げる。
「今日の演舞のことだよ。お金払って観に行くレベルのショーだったよね。」
エリオットが目を輝かせてこちらを観ている。その姿も愛おしいのだが、それでは立場が反対だ。
「外交官にでもなれそうだな。外国語の勉強、頑張っておけよ。」
「ガイコウカン?」
レオの言葉にも私は大きく首を傾げる。私は前世で子どもだった。今世もヴェルディ邸に立て籠ってお兄様を愛でる生活をしていたため、外の世界の事をあまりよく分かっていない。まあ、端的に言うと世間知らずだ。何ですか、ガイコウカンって。
「外交官は外国からの客人をもてなしたり、外国に出向いて国の事をアピールする人たちだよ。外務大臣のお手伝いをする仕事かな。」
エリオットはにこりと笑って説明してくれる。優しい。
「この国の事をアピールする人……『親善大使』みたいな事かしら。」
前世で芸能人たちが日本各地の親善大使となり、アピール合戦をしていた番組を思い出す。
「『親善大使』がどういう仕事か分からないが、まあ、多分合っているだろう。」
ルカス以外の全員の頭の上に『はてなマーク』が浮かんでいたため、ルカスはため息を吐きながら私の問いかけに答えてくれた。ルカスも意外と優しいのだ。




