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46.緊張してるのね……

「さあ、今年の運動会も残すところあと一種目となりました。トップバッターは3-Aリディア・ヴェルディ!」

大歓声と共に演舞の指定エリアに入ると、この国で有名な音楽が流れ始める。同時にエリア全体を暗転させる。魔法で。


魔法演舞の種目では、音楽の選定からダンスの振り付け、舞台上の演出(魔法の使い方)、全てを生徒個人が考えて行う事になっている。怪我をする危険性や命のかかった演目ではない分、かなりの技術とセンスと練習が必要だ。


去年レオの演舞を観て、私は衝撃を受けた。私が前世で元気をもらっていたアイドルというエンターテイメントの世界を、この『魔法演舞』という競技の中に感じたのだ。「私もやってみたい……。」と、そう呟いたのがちょうど四ヶ月(この世界の一年)前。それからすぐに選曲を始め、魔法の構成を考え、毎日ダンスの練習をして今に至る。


緊張はしているが、不安はない。これだけやったのだ。失敗する訳がない。三小節目の終わりに無数の小さな白い火玉をエリア全体に出現させ、蛍のように瞬かせる。私のシルエットだけが浮かび上がる。そしてもう一度暗転。もちろん魔法で。


次に白い火玉を私の後ろで徐々に大きくしていき、私の姿が観客から見えるようになり踊り始める。前世のアイドルのようにヒップホップやジャズなどもやってみたかったのだが、この世界の音楽や魔法との融合性を高めるためモダンバレエのようなスタイルで挑む事にした。


習ったことあるのかって?そんなものある訳ない。だって前世はずっと寝たきりだったのだ。しかし、アイドルにハマる前はテレビでバレエの舞台やフィギュアスケートの試合などを観る事もあった。そう言う舞台やパフォーマンス、エンターテイメント全般を私は好きだったのかもしれない。


ダンス自体は拙いかもしれない。けれど魔法はまあまあ得意だ。想像したものを想像した通りに出せる。右手を挙げれば火柱が上がり、左手を挙げれば雷が空に駆け上る。私が回れば雨が降り、止まって両手を掲げれば虹が出る。地面に手をつけば、先ほどの白い蛍の火玉たちがエリア全体の地面に現れ、規則的に動き始める。その動きに合わせて私も跳ねたり走ったり。


演出はクライマックスに向けて徐々に盛り上がっていく……と思ったところで、ぷつりと音楽が途絶えた。私も一瞬だけ動きを止めてしまう。しかし次の瞬間には地面を蹴って中に浮く。音楽は自分で歌い、拡声の魔法をかける。足元で色とりどりの炎球を爆発させ、花火の階段を駆け上がる。気がつけば、音楽のない代わりに観客が手拍子をしてくれているのが分かる。


エリアを縦横無尽に飛び回った私は最後に中央に浮かび、自分の前で大量の炎球を花火大会のフィナーレの如く連発する。そして自分の姿がかき消された瞬間に地面に降りて、エリアの後方に下がる。最後は後方だけ暗転。すると、観客からは私の姿が消えたように見える。


「終わった………。」

拡声を切って私は呟く。次の瞬間、割れんばかりの拍手が観客席から聞こえてきた。

「途中音楽が切れて焦ったけど、ひとまず成功かしら。」

私はホッと息を吐き出す。


私とすれ違いで指定エリアに向かった生徒は顔が真っ青だった。

「大丈夫かしら、緊張してるのね……。」

「そんな訳ないだろ。リディアの後に踊りたくないってだけだ。」

「あの子かわいそー。」

呆れたように首を振るレオと、いつも通りのセオドアだ。


「二人とも観ててくれたの? ありがとう!」

「誰が学園の運動会であのレベルの演舞を披露するんだよ。」

「お金払って観に来たんだっけ?ってなったよねー。」

「さすがリディア様! 今年もぶっちぎりの優勝ですね。」

後ろから追いかけてきたクロエはかなりの興奮状態だ。

「えへへ、そうかな。」


しかし私は簡単には優勝させてもらえなかった。

「音楽が途切れたからやり直し、ですか?」

「そんなのおかしいって抗議したんだけどね。」

エリオットは眉を下げて申し訳なさそうに現れた。クラス委員である彼は運動会実行委員でもあって運営の手伝いをしている。ああ、もちろん私たち生徒会も運動会実行委員を務めているが、今その話は割愛しよう。


「もう一度踊っていいんですか? 音と一緒に演舞も止まってしまったのでめちゃくちゃ心残りだったんです! すぐにスタンバイに向かいます!」

「待て、落ち着け、座れ。お前は大トリだ。リディにとっては痛くも痒くもないだろうが、普通はあれだけの魔法の数をもう一度披露しろなど正気の沙汰ではない。鬼の所業だ。今はとにかく休め。」

ルカスに肩を掴まれて、強制的に待機場の椅子に座らされた。


「心配してくれてるの?」

険しい顔で私の肩を掴むルカスを見上げる。

「リディにそんな心配、意味ないけどな。」

ルカスは少しだけ身を見開いて、そっぽを向いてしまった。素直じゃないな、君は本当に。

「確かに、我らがリディア嬢だからね。心配よりも、もう一度あの演舞が見られる事の方が嬉しいかも。」

ふわりと微笑むエリオットに癒される。

「エリオット様、ありがとうございます。そう言ってもらえると、とても嬉しいです。ますます期待に応えないとね。」

胸の前でぎゅっと両の手を握り、大きく頷く私。

「ほどほどにな……。」

そんな私を見て大きくため息を吐くルカスの姿が視界の隅に入った。


今年の運動会は例年よりもさらに大きな拍手に包まれて幕を閉じることになった。浮き足立つ身体を必死に椅子に縛りつけて身体を休め、そして最後の最後、私は大トリで先ほどよりもさらに完璧な演技を披露したのだ。結果はどうなったかって? ありがたい事に優勝させて頂きましたよ、ふふふ。

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