45. それは興味深いね
三年の滑り出しはとても順調だった。見知った仲間やクラスメイトたち。二年で順調に積み重ねてきた知識と魔法で学ぶ授業。魔法付与のクラスだけは一向に上達しなかったが、私は魔法付与師になりたい訳ではない。商会の手伝いをするだけであれば、きっと何とかなるだろう。
「今年は何の種目にするんだ?」
「去年のグリフォン騎乗競走は見事だったよね。」
「リディア様は今年もグリフォン競技に?」
「うーん、でもせっかくだし何か別の種目も挑戦してみようかしら?」
学年が変わるとクラスの話題は運動会の出場競技で持ちきりとなる。
「リディはどうせ魔法演舞にするんだろ。」
興味なさげに聞いていたルカスが突然話に入り込んできた。
「何で分かったの?」
ルカスは時々私の心の中を読めているんじゃないかと思う事がある。
「去年、レオの演舞に釘付けだったからな。」
「そ、そうなのか。」
レオが珍しく照れている。可愛い。
「うん! めちゃくちゃカッコよかったよ! 私もあんな風に魔法をうまく操れるようになりたいって思ったもの。」
レオの演舞は本当にすごかった。迫力のある応援団風のダンスに美しい魔法のショーが重なり、かなりエンターテイメント力の高さを感じた。
「リディア嬢の演舞楽しみだな。絶対見られるように、今年は宝探し種目に出場しようかな。」
毎年プログラムの構成には若干の違いがあるが、オープニングは『宝探し』、エンディングが『魔法演舞』である事は毎年変わらない。ソピアグノーシス学園、運動会の風物詩だそうだ。
「ふん。それならば、俺との一騎打ちだな。」
ルカスはにやりと笑いながらエリオットを見上げる。態度が大きすぎて忘れがちだが、生徒スタイルであればルカスの方が小さいのだ。
「ちょっと! 宝探しは生徒同士は戦わないのよ! 危ない事はしちゃダメよ!」
二人が衝突したとして、ルカスは別に痛くも痒くもないだろうが、エリオットが危なすぎる。
「もちろん分かっている。宝探しの順位の話だ。」
「本当かしら……。」
ふんっと鼻を鳴らすルカスを、私はジト目で睨め付ける。
「それじゃあ私にもリディアにいい所を見せるチャンスがあるって事かな。」
エリオットはふふっと笑いながら私の方を見た。
「えっ。」
エリオットの顔面にはだいぶ慣れてきたはずだったのだが、不意打ちでものすごく素敵な笑顔を向けられたため、思わず顔が赤くなってしまう。
「そんなチャンスはない。俺が圧勝だ。」
しかし、エリオットの笑顔はすぐにルカスの頭で隠されてしまう。私とエリオットの間にルカスが立ちはだかったからだ。
「ちょっ、ルカス?」
私はルカスの背中越しにエリオットの表情を確認しようと覗き込む。
「直接戦うなら勝てる気がしないけど、宝探しだからね。」
エリオットは尚も笑顔でルカスに顔を近づけてきた。王子風のメンチの切り方だろうか。
「一千年早いんだよ。」
「私の寿命はそんなに長くないんだ。千年も待てないよ。」
「じゃあ諦めるんだな。」
「ちょっと二人とも!」
顔と顔が引っ付きそうな距離で言い合う二人に、顔を赤くしながら止める私。
「白熱しすぎじゃないかしら。」
私には少し刺激が強すぎる。いや、そんなことを言っている場合ではない。私は赤い顔を背けながら二人の間を引き離そうとぎゅうぎゅうと間に割り込む。
「仲良しだねー。」
「ふふっ本当ですね。」
「アレ、二人ともわざとやってるんじゃないだろうな。」
「そうなんじゃないー?」
「真っ赤な顔のリディア様、すごく可愛いんですもの。」
場外で無責任なことを言っている仲間の声がする。そんなわけないだろう。教室内で二人の喧嘩が始まればとんでもないことになるのだ。
「ちょっと三人も、笑ってないで止めるの手伝って!」
私はエリオットとルカスの間に入り、二人の胸元を必死で押しながら声を上げる。
「へいへい。」
こういう時、一番先に動いてくれるのは必ずレオだ。入学してから彼はずっと優しい。Eクラスで総無視を喰らった私に、一番初めに話しかけてくれたのも彼だった。今では彼を怖いと思うことなど皆無だ。
「しょうがないなー。」
セオドアも渋々動いてルカスとエリオットを引き離してくれた。
「ちなみにリディア様はルカス様とエリオット様、どちらがお好みなんですか?」
ルカスとエリオットの間から救出された私を捕まえて、クロエが耳元で囁いた。
「えっ!」
「どうしたのリディア嬢?」
「何だ?」
私が大きな声を出してエリオットとルカスを見たため、二人からの注目を集めてしまった。
「えっと、あの、その………ク、クロエ様!」
真っ赤な顔でクロエに助けを求める。
「ふふっ、ごめんなさい。可愛くてつい……。」
「リディアはルカスとエリオットどっちが好きなのかでも聞いたんじゃないのー。」
「セオ!」
セオドア、クロエは元々仲が良かったが、婚約を発表してからというもの、その連携が半端ない。完全に爆弾夫婦だ。セオドアはともかく、クロエは常識人だとおもっていたのに……。
「それは興味深いね。」
「で、お前はどっちを選ぶんだ?」
「ひっ。」
せっかく教室破壊のピンチを脱したと思ったのに、今度は私自身がピンチに立たされる。二人にじりじりと壁際に追い詰められた。
「さあ、どうする?」
「リディア嬢?」
イケメンの笑顔の圧が凄い。
「どどどどどどっちも好きだけど、どっちもそういうのじゃないわ!」
バンッと二人の間を通って自分の席に座った。
背中にめちゃくちゃ視線を感じながらも、絶対に振り返る事はしない。
「早く先生来て……早く先生来て……。」
私は両手を額の前に組み、必死に先生の召喚を試みるのであった。私の手にはもう負えない。




