42. 俺から物を盗むなんて自殺行為もいいところだ
「あれ? ルカスも生徒会だったの?」
翌日、生徒会の引き継ぎのため呼び出されていた教室に向かっていると、その途中でルカスに出くわした。
「ああ。俺は経理に指名された。魔法で演算すれば早いし、お金を預けても安心だと言っていた。」
ルカスが歩くスピードを落としてくれたので、隣に並んで歩き始める。
「まあそうね。ルカスなら持ち逃げする心配もないし、カツアゲにあう心配もなさそうだわ。」
私はコクコクと頷き、生徒会の判断に同意する。
「カツアゲとは何だ。」
どうやら、この世界にはない言葉のようだ。
「取られたり盗まれたりって事よ。」
「それはそうだな。俺から物を盗むなんて自殺行為もいいところだ。」
何やら学園には似つかわしくない不穏なワードが出てきてしまった。
「お金を取られても、生徒の命は取っちゃダメよ。捕まえて更生させないと。未成年の窃盗なら更生の対象でしょう?」
「………手加減が上手くいけばいいが。」
マジか、怖いな。学園で殺人事件が起こるかも知れないよ、今年。
「あ、リディア様。せっかくの冬季休暇ですのに申し訳ございません。」
生徒会室の入り口ではクロエが私たちの到着を待っていてくれた。
「春季休暇、夏季休暇に続いて冬季休暇まで学園に縛り付けられるとわねー。」
ヘラヘラと笑いながら教室の奥から出てきたセオドア。春季休暇の補習と夏季休暇の林間合宿に対してかなり恨みを持っているようだ。
普段頑張っている分、休みの日はしっかり休みたい人なんだと思う。この軟派そうな見た目と喋り方で、逆に騙されがちだがセオドアはめちゃくちゃ頑張り屋さんである。
「君が書記のリディア嬢だね。聖夜祭の時は挨拶できなかったから、これからよろしくね。」
近づいてきたのは三年の現生徒会長オスカーだ。ちなみにセオドアの従兄弟にあたり、王弟の息子である。この学園の生徒会長は歴代王族、もしくは準王族の方々が就くことが多く、卒業後の政務の予行練習を兼ねていると言われているらしい。え、お兄様って一体何者?
「分からない事があったら何でも聞いてちょうだいね。」
「でもまあ、分からないままやっても何とかなるもんだよ。たった一年間だしね。」
先輩方が次々と声をかけてくれる。生徒会のメンバーも主にAクラスから選抜されることが多く、これまた卒業後に王城や中央部での仕事に就くものが多いため、ここで経験を積んでいくらしい。
「私とルカスはそんな貴重な経験積ませて頂かなくても……。」
「一緒に頑張りましょう、リディア様!」
クロエに両手を取られ、キラキラと輝く瞳で見つめられた私は、完全に逃げ場を失った。
「よし、やるからには全力で議事録作ります!」
ちなみに私には、もちろん生徒会の経験はない。ワクワクしないわけ、ないのだ。ただ、ちょっと………恐縮しているだけだ。
「でもどうしてエリオット様はメンバーじゃないのかしら?」
私は首を傾げてメンバーを見回す。何でもできて、成績優秀でクラス委員でもあるエリオットがいないのには違和感がある。
「あー、リディアとルカスが一緒だと平和に過ごせる気がしない、って断られたんだー。」
セオドアは苦笑いで舌を出す。
「えっ、私のせいってこと?」
私は血の気が引くのを感じた。何か気に触ることでもしてしまっただろうか?
「そうじゃないわ。ルカスとリディアの取り合いになって揉めるってことでしょう?」
「何それ、そんなわけな……えっ?」
かぶせ気味に全否定しようとしたが、生徒会の新旧合わせた全メンバーがクロエの言葉に大きく頷いていた。
「そんな子どもみたいな事で、エリオット様がルカスと揉めるわけないじゃない。ルカスじゃあるまいし。」
「どの辺が子どもみたいだったかは分からないけど、エリオットはルカスに対してライバル意識は持っていると思うよー。」
セオドアは肩をすくめてルカスに視線を送る。
「俺だったらありえるみたいな言い方も納得いっていないからな。」
「聖夜祭のダンスパートナーを奪っていらっしゃいましたし、全く説得力はありませんわ。」
「ふん。」
ルカスはクロエの指摘を鼻で笑い飛ばす。
「リディは俺のものだ。誰にもやらない。」
「へ?」
ルカスの口からとんでもない発言が飛び出したため、私は目玉が飛び出るほど驚いている。
「は?」
ルカスは怪訝な顔で私を見下ろす。
「それはどういう意味かしら?」
先ほどの意味も、その表情の理由も分からず、私か思ったままに聞き返してみる。
「そのままの意味だ。昨日、来年の聖夜祭は俺とだけ踊ると言っていただろうが。」
「そうね。お願いされたから。」
「………。」
ルカスは機嫌の悪そうな顔でそっぽを向いてしまった。こんな顔は久しぶりに見た気がする。
「リディア様、流石にそれは可哀想ですわ。勘違いしてしまいます。」
クロエは気の毒そうにルカスを見た後、首を横に振っている。
「聖夜祭で決まったパートナーと踊るのは特別な意味があるんだよねー。僕たちは婚約を公表しているから、まあどちらでも良かったんだけどー。」
「婚約者のいない生徒が特定の異性とのみダンスを踊った場合、その人が私の生涯のパートナー………つまり未来の婚約者であると示すことになるんだ。」
セオドアとオスカーが私にも分かるように丁寧に説明をしてくれた。
「そんな馬鹿な。」
「馬鹿なのはお前の頭だけだ。少し考えれば、だいたい見当がつくだろう。」
「いや、ただ単に弟のわがままを聞いてあげるお姉さんのような気持ちだったから………いきなりそんなことを言われても。」
私は頭を抱えて机に突っ伏した。恥ずかしさと困惑と信じられない気持ちで頭の中がごちゃごちゃになってしまったからだ。
そしてその後、初の新旧生徒会メンバーの顔合わせは荒れに荒れた。機嫌の悪いルカスと、突然叫び出す私。そして巻き込まれる他のメンバーたち。
「あーーーーー、全て私の不徳の致すところであります!」
「…………リディの言うことは何も信じられない。」
その日の生徒会は早々に解散することになった。




