39. 私にもまだチャンスはある
「聖夜祭って美味しいものをたらふく食べるお祭りじゃなかったのね………。変だと思ったわ。」
私は目の前に広がる光景に度肝を抜かれている。
「…………。」
ルカスは言葉を失い、ため息を吐いて首を横に振る。
「リディアは本当に色気がないよねー。」
「去年は食べ過ぎて保健室に運ばれていたな。」
「そういうところがリディア嬢らしくて私は好きだけどね。」
「ふふっ、確かにそうですわね。」
私たちはお決まりのメンバーで聖夜祭の会場に入っている。
講堂がパーティー会場のように飾り付けられており、まるで小さな社交場のように変貌している。昨年は料理を食べ過ぎて翌日から胃腸炎になった記憶があるのだが、聖夜祭当日の記憶があまりない。もしかすると本当に料理しか見ていなかったのかもしれない。大丈夫か、一年前の自分。
出席者が全員揃ったところで、生徒会長が挨拶を行った。聖夜祭は生徒会主催で行うイベントのため、基本的に先生は関与しないそうだ。
「という事は、去年はアーサー殿下がご挨拶されていたってことよね。」
「まさかリディア様、それすら覚えていらっしゃらないのですか?」
「うわー、兄上に言いつけてやろうー。あんなにリディアの事気にかけてくれてたのにー。」
「絶対にやめて。絶対に思い出してみせるから。」
私はこめかみに手を当てて目を瞑る。
考えているふりをしているが、びっくりするくらい何も思い出せない。もしかすると挨拶していた時から料理を食べていたのかもしれない。
「どうせ食いもんの事でも考えて聞いてなかったんだろ。」
レオが鋭い指摘をして来た。しかし絶対に頷いてはいけない。
「それにしてもアーサー殿下にまで心配をかけるリディア嬢って本当にすごいね。何をしたの?」
エリオットは笑顔でとんでもない話題を拾い上げてくる。しかし話題が変わるのは好都合だ。
「入学前の新年の祝賀会でお兄様がアーサー殿下に紹介してくれたのよ。よろしく頼むって。」
「兄上はそれを律儀に守って、僕にリディアの様子を報告するように頼んできたんだー。」
「そういえばリディア様のお兄様は、アーサー殿下の一つ前の生徒会長でしたわね。」
なるほど、お兄様とアーサー殿下が親しげだった謎が解けた。学年が違うと殆ど交流がないため、不思議に思っていたのだ。
「………過保護な兄だな。」
黙って聞いていたルカスがつまらなさそうに吐き捨てる。
「妹想いの優しい兄、の間違いよ。」
「同じだろ。」
「全然違うわ!」
「おいおい、ここで痴話喧嘩はやめろよ。」
ヒートアップ仕掛けている私たちの間にレオが割って入る。
「「違う!!」」
思ったよりも大きな声が出てしまったが、ちょうどダンスタイムが始まりオーケストラの演奏が始まり私たちの声は上手い具合に紛れてくれた。
「リディア嬢、もし良ければ一緒に踊ろう。」
ルカスと睨み合っていた私の手を取り、エリオットが自分の方に引き寄せた。
「ええ、もちろん。」
にこりと微笑むエリオットに、私も頬が緩む。
最初に小さな社交場と称したが、今日は生徒たちは皆学園の制服ではなくドレスとタキシードを着用している。いつもの制服でもめちゃくちゃイケメンのエリオットだが、タキシードなど着てみた日にはもう本当に……あれ?
「ふふっ、こんな格好をしていると出会った日のことを思い出しますね。」
「あー、私はあまり思い出したくないかも。」
エリオットは困ったように眉を下げて笑う。あの時よりも更に色気が増して、カッコ良さにも磨きがかかっている。
「あの日、エリオット様に出会えたから私は今日ここまでやってこれました。エリオット様がいなければ、私は入学さえ出来ていなかったかもしれません。」
「そうなの?」
「はい。あの日まで私は入学したくないとずっと言っていましたから。エリオット様にもう一度会うために入学したようなものなんです。」
「それは……嬉しいな。」
エリオットの頬にやや赤みがさした。
「私にもまだチャンスはある、という事かな。」
「チャンス、ですか?」
ふふっと笑うエリオットは私は首傾げる。
「そう、私がリディア嬢のこい……おっと。」
「きゃっ!」
エリオットの言葉の途中で、私は身体のバランスを崩した。何故ならば……。
「ルカス、私とリディア嬢はまだダンスと会話の途中だよ。それを邪魔するのはルール違反じゃないかな。」
エリオットが珍しく怒っている。そりゃそうだ。ルカスが彼の言葉の途中で私の手を奪い取り、自分の腕の中に後ろから抱き寄せたのだ。
「ルカス!エリオット様に失礼よ。何のつもり?」
私はくるりと首を回して真上にあるルカスの顔を見上げる。
「………そろそろ交代しろ。リディと踊りたいやつは山ほど待ってるんだからな。」
ルカスは私とは視線を合わせる事なく、エリオットを睨みつけている。
「今日のこれは完全なる宣戦布告と見做すよ。」
「勝手にしろ。」
ルカスそういうと、私の身体を反転させて腰を抱き寄せる。
「えっ! ルカス踊れるの?」
美しいステップを踏み始めたルカスに驚き、目を丸くする。
「リディは俺の事をずっと何だと思ってるんだ……。」
「…………傍若無人の性格最悪、俺様魔法使い。」
ブチッ。
その後ブチ切れたルカスにより、破茶滅茶に振り回された私は、生まれて初めてのダンス酔いを起こし、あえなく撃沈。山ほどいるはずの私と踊りたい人たちとは誰一人ダンスを踊れず、会場を後にしたのだった。




