38. 今年も大盛況だったねー
「いやー、今年も大盛況だったねー。」
セオがヘラヘラと笑いながら模擬店の看板を運んできた。
「まさか収穫祭の途中でフルーツを収穫しに行く事になるとは思わなかったな。」
模擬店のテントを片付けているレオ。思った以上の売れ行きに、売り物のフルーツが一日目でなくなってしまい、手が空いている人たちだけでフルーツの収穫に向かったのだ。
「これぞまさしく収穫祭! 何ちゃって。」
文化祭とフルーツ狩りの遠足を同時に体験できたようなものだ。私は調理器具を片付けながらふふっと笑う。
「リディはいつでも能天気だな。」
ため息を吐きながら撤収した用具の入った箱を持ち上げるルカス。
「えへへ……。」
褒められたと思った私は照れ笑いを浮かべる。
「…………。」
「え、褒めてたのー? てっきりルカスが『褒めてない』って突っ込むんだと思ったー。」
セオはテントを畳みながら目を丸くしている。もうお気づきかと思うが、レオもセオドアもかなりの働き者だ。
「普通は褒め言葉じゃ無いんだけど、私に限っては褒め言葉なんだよね。」
何とも言えない表情を浮かべて私の横を通り過ぎたルカス。それを見た私はふふふ、と笑いをこぼす。
「売上の集計に行ってきたよ。生徒会の先輩たちがギョッとした顔で何度も数え直していたから、きっと今年は一番じゃないかな。」
生徒会まで売り上げを持って行っていたエリオットとクロエが戻って来た。
「さすがヴェルディ伯爵家のご令嬢が発案した模擬店です。商会もびっくりの売り上げが出ているはずですわ。」
クロエは興奮した様子でリディアの手を取る。
「あ、ありがとうございます。」
今年の収穫祭は昨年の1ーAの真似をしてコスプレ物販が急増していた。となると模擬店1店舗ずつの売り上げは自ずと上がる。そしてフルーツが特産の領地から提供された美味しい果物を使ったフルーツ飴。美味しく無いわけがない。そして売れないわけがない。さらにこの世界の元になったゲームの登場人物たちによる和装コスプレはかなりのインパクトを放っていた。多分ここは天国だ……と何度も昇天(流血)しかけたが、売り物のフルーツ飴を血まみれにするわけにはいかないため、ギリギリのところで何とか持ち堪えた。(リディは何と戦っているんだ byルカス)
当然、2ーAは学年トップの売り上げであることが発表された。体感的にはニ学年全部を合わせても一位だったと思う。
「これでリディは来年の収穫祭、最大のアドバンテージを持って挑むことができると。」
「収穫祭でいい評価をもらう必要はないんだろうけど、持ってて不利になることはないわよね。」
寮の私室に帰ってきた私は、当たり前のように執事スタイルでそこにいるルカスと対話している。彼は食事の用意を整えて椅子に腰を掛けるところだ。実は分身の術が使えたりするのだろうか。さっき寮のロビーで別れたところなのだが……。
「…………リディは本当に何も知らないんだな。」
「え、何?」
私も椅子に腰掛けながら聞き返す。あ、今日のデザートはフルーツ飴だわ。私が食べたがっていたの、気がついていたのかしら。
「………まあ、この学園自体のルールだから教えても問題ないだろう。収穫祭での成績が下位だった者たちは、その時点での留年が決まるんだ。」
「それはつまり………。」
「この学園生活がもう一年伸びるってことだ。実際に留年したリディアもいる。」
そして留年した後、卒業はできなかったと。幻の四年でのミッションに失敗したのだろう。
「これだけのアドバンテージを持っていたら、さすがに下位になることは………。」
「ないだろうな。泣いても笑ってもリディと一緒に過ごすのはあと一年ってことだ。」
ルカスは肩をすくめる。
「それが聞けただけで安心したわ。もう少し頑張れば……って思っていて、収穫祭後に突然『もう一年あります』って言われたら、心折れそうだもの。」
私はホッと息を吐いた。あまりよく分かっていなかったが、この二年間収穫祭に全力で向き合っておいて本当に良かったと思う。
「リディなら、『あと一年学園生活できる』って喜びそうだと思ったけどな。」
「皆んな一緒ならそう思うかもしれないけど…………レオやセオ、エリオット様にクロエ様、皆んながいなくなった学園に私一人だけ取り残されるのは、ちょっと辛いかな。」
そもそもこの学園生活の心の支えはエリオットだったのだ。彼を推すためだけにここに来る事を決意したのだ。まあ、今となってはそれどころではなくなってしまったが。
「俺はそこに入らないのか?」
食事をしながら何でもない事のように聞いてきたルカス。
「私が卒業できなかったら、ルカスだって居残りでしょう?」
「ああ、確かに。」
「逆に卒業してしまったらルカスとはお別れよね。他のみんなとは社交場とか商会の仕事で会うだろうし。」
出会ってからたった一年半だが、ずっと一緒にいるルカス。今はいなくなってしまう想像がつかない。
「まあ、そうだな。会う必要はなくなるが…………リディが望むなら会いにきてやってもいい。」
ルカスはニヤリと笑ってそう言った。多分揶揄うつもりだったのだと思う。
「本当?! 絶対に会いにきてね。卒業できたとして唯一残念なのはルカスと会えなくなることだったから、嬉しい。」
言質取ったりとばかりに私は喜ぶ。これだけ喜んでおけば絶対に会いにきてくれる、一年半一緒に過ごしてきたルカスはそういう人だ。ルカスと二度と会えないなんて寂しすぎる。
「…………リディは本当に能天気だな。」
「ふふっ、ありがとう。」
目の前の苦虫を噛み潰したような顔を見た私は、ルカスとは卒業してもきっとまた会えるんだと確信を持つのだった。




