37. よく似合っているよ
「やあ、リディ頑張っているね。」
そして迎えた収穫祭当日。私は嬉しい嬉しい再会を果たしている。
「お兄様! 遊びに来てくれたんですね!」
「ああ、屋敷でいくら待っていてもリディは帰ってこないからね。私から会いに来てしまったよ。」
ふふっと眉を下げて笑うお兄様。
「それには深い事情が……。でも、とっても嬉しです!」
一年半ぶりに会うお兄様は変わらず輝いている。いや、更に輝きを増していると言っても過言ではない。
「昨年はなぜか招待状が届かなかったからね。私も久しぶりに会えて嬉しい。」
和かに微笑むお兄様に会えて、私の幸福度はMAXを振り切った。招待状が届かなかった件については、お察しいただきたい。
「その衣装もとっても素敵だね。よく似合っているよ。」
「ありがとうございます! 皆んなで一生懸命デザインしたんですよ。」
そう言ってくるりと回って衣装を見せる。本当に本当に可愛く仕上がった。衣装担当のセオドアが専属のお針子に注文したらしいが、私たちが書いた絵の百倍は可愛く出来上がっている。さすが王族専属のお針子だ。
「あれは……リディア嬢のお兄様? 私のライバルはルカス、君だと思っていたけど違ったみたいだね。」
エリオットはリディアとリオンの様子を見て目を丸くしている。
「どういう意味だ。」
ルカスは露骨に不機嫌そうな顔をする。
「リディア嬢は私の事を好きだと思うんだけど、友だち以上には踏み込んできてくれないから……。君の存在が大きいんだと思っていたんだ。」
苦笑いのエリオット。
「……リディのお前への思いは友愛だよ。それ以上にはなり得ない。」
ルカスはふいっと顔を背ける。
「何でそう言い切れるの? まだ結論を出すのは早いんじゃない?」
エリオットは珍しくムッとした表情でルカスの顔を覗き込む。
「そう思うなら勝手にすればいいだろう。ちょ、付いてくるな。」
ルカスはエリオットから距離を取ろうと早足で逃げる。
「言われなくてもそうするよ。でも、何で逃げるのかな?」
いつも通りの笑顔に戻ったエリオットは逃げるルカスを追いかけ始めた。
「あれ? ルカス様とエリオット卿はあんなに仲が良かったかな?」
お兄様はふと顔を上げてルカスの方に顔を向けた。
「え? あ、本当だ。追いかけっこしてますね。」
ルカスとエリオットの様子を微笑ましく見守る私とお兄様。
「どこをどう見たら仲良く見えるんだ!」
めちゃくちゃルカスに怒られた。取り敢えず、何故か笑顔でルカスを追いかけ回しているエリオットを止めて店番へと戻す。浴衣姿のイケメン同士の追いかけっこ。もう少し見ていたい気もしたが、そんなことをすればルカスにもお客さんにも怒られてしまうだろう。
「一年前は逆の立場でルカスは助けてくれなかったけど?」
エリオットを殺到する女性客の生贄にして、お兄様とルカスの元へと戻ってきた。推しはファン皆んなで愛でるものである。ルカスといえども独り占めはダメ、絶対。そして、ルカスに一年前の苦情を入れる事にした。かの有名な血みどろ推し活事件である。
「あの時はまだ、リディの事もよく分かっていなかったからな。………今までのリディアだったら喜んで着いて行ってたんだよ。悪かった。」
ルカスは髪をわしゃわしゃと弄りながら謝る。
「ルカス様が………謝った……。」
お兄様は私が初めてルカスの謝罪を聞いた時と同じ反応をしている。
「あー、最初の頃のルカスはかなり性格悪そうだったもんね。」
「リディは純粋過ぎるからね。毒気も抜かれたんじゃない?」
お兄様はふっと頬を緩めてルカスを見つめる。
「良かったね。」
私はルカスの顔を覗き込んでにーっと笑う。
「………うるさい。」
ルカスは一瞬だけ目を見開いてから、そっぽを向いてしまった。
「本当に、リディが楽しそうで良かった。ルカス様とも仲良くやっているようだね。」
「お兄様?」
私はお兄様の顔を見て、目を瞬かせた。お兄様の目に涙が浮かんでいたからだ。今のやり取りに涙ぐむようなシーンはあっただろうか。
「学園に入る前はあんなに嫌がっていたし、ルカス様と会っていろんな事を聞いたと思うから心配で。今回のリディは多分、自分の事を知らなかったよね。」
「ーーーっ!」
あの日、お兄様がルカスのことも回帰の事も知っているとは聞いていた。しかし思い返してみれば、それを知った後にお兄様に会う機会がなかったのだ。私は衝撃の事実を聞いた翌日に学園へと出発し、お兄様は仕事のために屋敷を空けていたのだ。
「お兄様がそんなに心配してくれているとは思わず……。もっと頻繁にお手紙を書けば良かったですね。」
私は自分の事でいっぱいいっぱいで、家族の気持ちまで考えていなかった。私がお兄様に出した手紙といえば、二年の初めに送った、あの余計心配をかけるような一通だけ。
「いや、いいんだよ。元気で………無事でいてくれたんだから。」
そう言ってぽんぽんと頭を撫でてくれた。
その後、いちご飴を1つ買って、満足そうに帰って行ったお兄様。
「残りの一年ちょっと、頑張ってね。ヴェルディ邸で待ってるから。」
私は自分のためにも、ルカスのためにも、家で待つ家族のためにも、絶対に生き残って学園を卒業しようと心に誓ったのだった。




