36.リディア様はいつでも一生懸命ですわ
「夏の余韻も、夏の終わりの切なさも感じる事なく秋がやって来るのよね。」
「……リディは時間の感じ方が他の人と違い過ぎる。」
小さく呟いた独り言にルカスがツッコミを入れる。そうなのだ。この世界の人々はこの時間の流れ方に何の違和感も感じていないのだ。よって、私の感覚がおかしい事になってしまう。
幻の夏休みは過ぎ去り、学園はすでに秋の月に入っている。秋といえばもちろん、恒例のあのイベントが待っている。
「今年も収穫祭の時期が近づいてきたね。出し物について話し合いたいんだけと、何か案がある人は手をあげて。」
エリオットは例によって教壇の前に立ち、クラス会の指揮をとっている。一生懸命なその姿、素敵過ぎる。
「去年と同じ、石の物販でいいんじゃない? あんなに楽で二位だったんだし。」
「今年は真似して来るクラスもあるかもしれないわ。」
「同じ手が二度も通用するかな。」
「別に上位狙わなくても……。」
「やるからには一位を狙いたいわ。」
さすがAクラス。色々な意見が飛び交っている。昨年のEクラスは夏休みのラミア被害の後だったため、生徒がすでに半減しており、活気もなく、私の独断と偏見でクレープの模擬店が決まってしまった。せっかくなので、今年も何か提案してみようと思う。
「物販と模擬店のいいとこ取りで、『フルーツ飴』というのはどうかしら?」
「フルーツ飴?」
「生のフルーツの周りに飴をコーティングしたものよ。ある程度の数を用意すれば、当日はずっと調理している必要もないし、それでいて石の物販よりは華やかだと思うわ。それから、昨年好評だったコスプレ……じゃなくて何か素敵な衣装でで店番をすれば今年は一位間違いないわ!」
見事に採用された。私のプレゼン力、なかなかのものではないかしら。
「私の実家の領地がフルーツの栽培が盛んなのよ。安く手配できないか確認してみるわ。」
「衣装は何が良いかな。」
「フルーツ飴だろ……難しいな。」
「全然関係ない衣装でも良いんじゃないかしら。例えば……メイドと執事とか、異国の服装とか。」
「いいね。色々案を出して投票にしようか。」
投票の結果、選ばれたのは大陸の東の端にある国の民族衣装……胸元で襟を合わせて、腰に帯を巻く……つまり前世でいうところの着物スタイルが採用された。誰の案かって? もちろん私。だってフルーツ飴といえばお祭りやお正月などに寺社の境内に並ぶ屋台。となれば衣装は浴衣か着物で決まりだ。
「去年も思っていたが………リディは何故そこまで収穫祭に命をかけているんだ。」
「リディア様はいつでも一生懸命ですわ。」
「とにかくクレープ屋じゃなくて俺はほっとしてる。」
「クレープだったとしても去年よりはシフトに余裕があると思うよ。」
「あれはあれで楽しかったけどねー。」
「セオだってだいぶ文句を言っていたんじゃなかったかしら。でも楽しいわよね、収穫祭。」
前世では一切体験できなかった学園生活。その全てが新鮮で楽しいのだが、特に大きな憧れを抱いていた『文化祭』。ソピアグノーシス学園のソレにあたる『収穫祭』は私にとって特別なイベントなのだ。特に二年まではお楽しみ会でしかない。
ちなみに衣装は男子生徒が浴衣と羽織。女子生徒は着なれぬ浴衣ではだけててはいけないからと、着物風ワンピースに変更となった。胸元で襟を合わせて帯も結ぶが、腰から下はスカートにしてもらったのだ。民族衣装感と動きやすさを兼ね備えた、素敵な衣装になる事だろう。そして一番の楽しみはエリオット様の浴衣姿。
「痛いっ!」
エリオットの浴衣姿を想像してニヤニヤしていたところ、突然前の席のルカスが振り返ってデコピンを喰らわせてきた。
「何するのよ、ルカス!」
私は涙目でおでこをさする。
「お前の口は魔物か。頭の中で考えてる事がダダ漏れなんだよ。」
「えっ?」
「ふふっ。私もリディア嬢の衣装姿、楽しみにしてるね。」
いつの間にか隣の席へと戻っていたエリオットが、物凄く綺麗な顔で微笑んでいる。
「私は何を……。」
私は真っ赤な顔で口を押さえる。
「お前、刺繍得意だっただろ。その災いの口を縫い付けておいたらどうだ。」
確かに。一度見たステッチは二度と忘れない。そしてそのまま再現できる。よって刺繍は私の特技と言っても過言ではない。でも口は縫い付けられないよ、私。本当ひどいな。今日のルカスは機嫌が悪いらしい。
「リディア嬢は刺繍が得意なんだね。今度何かに刺繍してもらおうかな。」
「はい、そんな事でよければぜひ。ノートと教科書のお礼もかねて、何かプレゼントさせてもらいますね。」
可愛い提案をしてきたエリオットににこりと微笑んで答える。
「え! 本当に! 嬉しいな。楽しみにしてるね。」
「え、ええ。」
軽い気持ちで言った提案だったが、エリオットの反応が思ったよりも大きくて少し戸惑ってしまう。
「お前はバカか。未婚の女性が異性に刺繍のプレゼントをする、その意味を分かっているのか?」
ルカスはため息を吐きながら首を横に張っている。
「ううん。何か特別な意味があるの?」
「『私の心を貴方に』………つまり告白を意味するのです。素敵ですわ、リディア様。」
エリオットの逆隣に座っているクロエが両手を合わせて嬉しそうに教えてくれた。
「な、何ですとーーーーーー!」
衝撃の事実に私は目から鱗がこぼれ落ちる。
「もう約束したらたね。取り消しはなしだよ。」
そして物凄くイイ顔で私を見つめるエリオットに、普通に見惚れてしまうのであった。
「痛っ! だからデコピンやめてってば!」




