35.魔物の名は……
「犯人が分かったのですか? 見つけた、ではなくて?」
歩いてきた廊下を戻りながらクロエがルカスに問いかける。
「ああ。犯人は最初から俺たちの中にいたんだ。」
「ちょっと待ってよ、歩くの早すぎるよー。」
セオドアがモタモタと後を追いかける。
「わたくしたちの中に?」
「そうだ。だからいくら探しても見つけられなかったんだ。」
「でも、何で急に?」
クロエは訝しげな表情を浮かべる。
「待ってってばー。」
「あいつを見て思い出した。俺が今まで何をしてきたのか。」
「全く意味が分からないわ。」
「お前はあいつを見て何も思わないのか? あいつは本来あんなに怠け者ではない。こんな状況、楽しむくらいの奴だ。」
「では、セオドア様が?」
クロエは声のトーンを落として後ろにいるセオドアを振り返る。
「いや、そうじゃない。いた、あいつらもそうだ。」
「………。」
ルカスが顎で示した先にいたのはリディアたちだった。彼らも、二組に分かれて出発した最初のスタート位置まで戻って来ていた。
「おっ、ルカスたちも諦めて戻ってきたのか。」
「犯人なんて本当にいたのかどうかも分からないね。」
「こんな調子で全然動いてくれないのよ。」
座り込むレオとエリオットをリディアが引っ張り上げようとしていた。何ともシュールな絵面だ。そして、リディアは何とか犯人を探したい気持ちは残っているが、単純な力で二人を引っ張り上げる事など出来ない、という正常な判断が出来ていない。
「しっかりしろリディ。このままじゃ、魔力をどんどん吸い取られて精神魔法が強くなる一方だ。」
「精神魔法?」
「そうだ。」
「………異次元の城に閉じ込めて魔力を吸い取り、人の精神を操る。それが今回の犯人って事かしら?」
「そうだ。魔物の名はファントム。」
「…………となると。」
そう言いながらリディアは真っ直ぐにクロエを見据える。
「思い当たるのは、一人だけね。」
「リディア様? どうされたのですか?」
クロエは笑っているが、目の奥がどんよりとくすんでいる。
「クロエ様。貴方だけはいつも通り過ぎるわ。そして、いつもと違うクラスメイトの様子に違和感を感じてもいない。それが答えね、ルカス。」
「正解。ヒントを与えすぎた気もするが、今回は俺も巻き込まれてるんだ。一緒に解決しても文句はないだろう。」
「さっきから、何をごちゃごちゃと!!!」
突然クロエが大きな声を出し、魔力を爆発させた。それにより、元々意識の混濁していたレオたち三人は意識を失う。
「ルカス! レオたちが!!!」
「大丈夫、気を失っているだけだ。こいつを倒せば元に戻る。」
「いいのかなあ? 私を倒して元に戻っても、本物のこいつは元の世界には戻れない。見つけ出さなければ、あいつは一生この城の中に閉じ込められるんだ。」
突然声も話し方が変わったクロエを見て、リディアの顔色が悪くなる。
「そんな………かなりの部屋を見て回ったけど本物のクロエはどこにも……。」
「今までのリディアの中で三年まで生き残った奴が数人だけいる。そいつらが二年で俺に望んだ願い事は……。」
「願い事は?」
「『一番仲のいい同性のクラスメイトの居場所を教えろ』というものだった。」
「それって………。」
「答えは常に『リディアの足元』だった。つまり……。」
ルカスがリディアの隣に立ち、地面に向かって手をかざす。
「やめろおおお!」
視界の端に必死の形相で駆け込んでくるクロエが見える。すぐにリディアが彼女に向けて魔法を飛ばしたのが見えたので、ルカスは無視して足元に円を描き、床を消す。クロエはリディアの魔法で膝下が凍って動けなくなったようだ。言葉にならない叫び声をあげているが自業自得だ。
浮遊の魔法でゆっくりと地下に降りると、そこには意識を失っているクロエが拘束されていた。拘束具を氷の刃の魔法で外して、再び地上まで浮遊魔法で移動する。一つ目の魔法はリディアが、二つ目の魔法はルカスが使ったものだ。
「いつの間にそんなに氷魔法が使えるようになったんだ。」
「炎魔法だけじゃ生き残れないと悟って死に物狂いで練習したわ。褒めてくれてもいいのよ。」
炎魔法ほどの威力やコントロールはないが、他の人に気を取られている魔物の足止めくらいは出来るようになっている。
「ああ、時間の使い方がものすごく上手いな。どこにそんな時間があったんだ。」
「………思ってた褒め方じゃないけど、まあ良いわ。早く皆んなの元に戻りましょう。」
「ああ、そうだな。」
ルカスは意識のない本物のクロエを抱えて、元いた廊下まで戻ってきた。
「皆んな、無事ね。」
そう言いながら意識のないレオとエリオット、セオドア、そしてクロエを一箇所に集めて壁にもたれ掛からせた。
ふとファントムに視線を移すと、膝下を凍らせていた魔法が徐々に上まで上がって来ている。すでに胸元まで凍っていて、息をするのも苦しそうだ。クロエに見えていた姿も仮面をつけた長身の魔物のソレに変わっている。意味不明の奇声も徐々に力のない音に変わりはじめた。
「私のお友達を害するなんて、趣味の悪い事するから。そんなに苦しみながら死ぬ事になるのよ。」
本当はリディアの下手くそな氷魔法のせいで、徐々に効果が発現しているだけなのだが、そういう事にしておこう。エリオットの氷魔法であれば、痛みを感じる暇もなく霧散しているはずだ。
「………趣味が悪いのはお前もだ。」
ピキピキピキッと音を立てながらゆっくりと頭の先まで凍ったファントムは、音もなくサラサラと砕け散った。
途端、目の前が暗転する。そして次の瞬間には元の『宿泊施設』のロビーに転移していた。周りには数人の生徒と先生がいて、突然現れたリディアたちに驚き、悲鳴を上げられた。朝起きて姿を消した我々を捜索していたらしい。何はともあれ、無事に全員揃って元の世界に帰ってくる事ができた。
因みに、多大なるご心配をかけた先生方に一瞬だけ怒られそうな気配であったが、ルカスが異次元空間でファントムと対峙していたことを説明して何とか一命を取り留めた。
「何でルカスが話すと信じてくれるのかしら。」
「それは日頃の行いがい……」
「「「「「絶対に違う!」」」」」
総ツッコミを受けたルカスであった。
「………今回は俺、結構頑張ったんだが。」
2ndミッション
ファントム討伐 クリア




