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34.こんな時でも笑ってるのはリディアくらいだよねー

走り抜けた廊下の先で正気を取り戻した私は、声の主に心当たりがあったため元来た廊下を引き返す。元が城なだけあって廊下も無駄に長い。


「やっぱりルカスか。驚かせないでよ。」

「俺は別に何もしていない。声をかけただけだ。お前が勝手に驚いて、勝手に走っていったんだろうが。」

「……そうとも言う。」

「そうとしか言わないだろ。」

ぐうの音も出ない。


「しかし、同室のクラスメイトの顔も覚えていないとは……本当にお前の頭の中はどうなっているんだ。」

「ひ、人聞きの悪い事言わないでよ。ちょっと名前が出てこなかったからもしかして……なんて思っただけで。」

私は人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。前世から。大勢の人に会った事が無いからだと思う。毎日家族と、病院の担当の看護師さんと、テレビの中の人たちだけを見ていたから。

「人には得意不得意があるのよ。私は『少しだけ』人の顔と名前を覚えるのが下手なだけだわ。」

「少しだけ、ねえ。」

「うう……。」

神様ごめんなさい。私は今、嘘をつきました。本当は『物凄く』下手くそです。



「おーい。お前らの部屋も誰もいなくなってんのか?」

「君たちの部屋もか。」

「みんなどこにいっちゃったのかなー?」

「わたくしの部屋もですわ。」

四方の廊下の端からレオ、エリオット、セオ、クロエが歩いてくるのが見えた。十字になっている廊下の交差地点に私とルカスが立っている。何この建物、設計が無茶苦茶ね。



「いや、他の生徒たちがどこかに行ったのではなく、我々が異次元に閉じ込められているんだろう。」

四人の呼びかけを聞いて、ルカスがボソリと呟く。

「何でそんな事に……。」

「………さあ?」

「あら、ルカスでも分からない事ってあるのね。」


ピキッ。


「目星はついているが、トラップが分かったところでここから抜け出せるわけでもない。それを確かめるより先に、ここから抜け出す方法を考える方が先だ。」

キレてる。トラップって言ったし、自分が罠に嵌められている事にイライラしてるんだろうな。

「ったく、春季休暇に様子を見に来た時には別に何もなかったの……あ。」

「え?」

私は首を傾げてルカスを見ると、彼は気まずそうに顔を背けた。


「………。」

「春季休暇の間、ここまで下見に来てくれていたの?」

「まあ、意味はなかったけどな。リディに未来を教えるでも、お前が先回りして何かするでもなければ、ルール違反で死ぬ事にはならないだろうと思ったが…………。結局、その時にならないと特別な事は起こらないって事だな。面倒な世界だ。」

近づいてくる四人には聞こえない声でルカスが言う。まあ念の為、遮音の魔法もかけてるんだろうな。

「ふふっ、そっか。」

私は思わず笑ってしまった。何でもできるルカスが困っているのがちょっと可愛いと思ったのと、私のために貴重な春季休暇を使って下見に来てくれていた事が嬉しかった。



「何をニヤついてんだ。」

長い廊下の先からやってきたレオが、私の顔を見て眉を顰める。

「こんな時でも笑ってるのはリディアくらいだよねー。」

「そう言うセオドア様もにやけています!」

「さて、どうしたものか。ルカス、君はどう思う?」

エリオットはリディアと反対側のルカスの隣に並ぶ。


「ああ。さっきリディにも話していたが、俺たちは異次元に閉じ込められている可能性が高い。ただこの建物を壊すんじゃ、元の世界に戻るのは厳しいだろうな。」

「私たちを閉じ込めた犯人を倒すって事かな?」

「それが1番手っ取り早い。」

「と、いう事は犯人との追いかけっこって事ね。」

「まずはこの広い広いお城の中に隠れてる犯人を見つけだなさいとねー。」

「手分けした方が良さそうですね。」


チーム ルカス

ルカス

クロエ

セオドア


チーム エリオット

エリオット

リディア

レオ


「何でこうなる。」

「バランス?」

「どこでどうバランスを取ったらこうなるんだ。クロエとセオドアなんて最悪の組み合わせだろうが。」

静かにキレたルカスによって一瞬のうちにチーム替えが行われた。


チーム クロエ

クロエ

ルカス

セオドア


チーム リディア

リディア

エリオット

レオ


「誰がチーム名だけ変えろと言った。」

普通にブチギレられた。

「何でか分かんないけどこうなるんだもん。時間も勿体無いし、これで行きましょう。」

「では後ほど。」

駄々を捏ねるルカスを放置して、私とクロエは別の方向に続く廊下に分かれて出発した。


「この城、元の『宿泊施設』よりもかなり広がってる気がするが……。」

「気のせいじゃないだろうね。次元が歪んで大きくなってしまっているんだと思う。扉の向こうも、本来とは違う空間に繋がっている可能性もあるし。」

「とにかく片っ端から開けて確認してみましょう。私たちは出口を探してるんじゃなくて、犯人を探しているんだし。」

「そういえばそうだったね。無意識に元の世界へ戻る方法を探していた。探すのは犯人だね。」

「移動する者を追うのは面倒だな。一度見た場所も、次に居ないとは限らない。」

レオの言葉に私とエリオットは無言で頷き、一つ目の扉を開いたのだった。



廊下に隣接する扉を順番に開いてその部屋をくまなく探しているが、なかなか犯人を見つける事は出来ない。犯人の手がかりさえ掴む事も出来ず、時間だけが過ぎ去っていく。

「犯人さーん、どこですかー?」

最初は注意深く慎重に捜索していたが、集中力も切れてきてだんだんと捜索が雑になってきてしまっていた。

「おい、セオドア。真面目に探せ。」

主にセオドアが。


「そんなに大声で騒いでいると、犯人も逃げてしまいますわ! いい加減にしてくださいませ!」

「お前もな。」

「はっ、ルカス様! 申し訳ございません!」

「わあーーー、クロエがルカスに怒られてるー。」

「セオドア様!」

「………。だからこの二人と組むなんてハズレくじ、嫌だったんだ。」

ルカスはため息を吐きながら次の扉を開ける。


「リディアたちは見つけたかなー。」

「どうでしょう。それにしても、犯人は何のためにわたくしたちをこのように閉じ込めたのでしょうか?」

「確かにー。せっかく閉じ込めたのに、特別何もせずに放置してるなんておかしいよねー。何か特別な意図があるのかなー。」

「…………放置に意図。」


「ルカス様、どうかされましたか?」

「セオドア、お前のお手柄かもしれないな。」

「え、何?どういう事ー?」

「わたくしたちにも分かるように説明してくださいませ。」

「説明は後だ。先にリディたちと合流する。」

ルカスは開けた扉の先をほとんど確認する事なく、元来た道を急いで戻り始めたのだった。

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