31.チームルカス
「えええええええええーーーーーーー!」
鼓膜が破れそうなほど大きな声で不満を爆発させているのはセオドアだ。
「Eクラスの補習で春季休暇もなかったのに、今年は夏季休暇もないなんて酷すぎるよーーーーー!林間合宿って何なんだよーーーー!」
セオドアが言葉の中で全て説明してくれていたが、その通りである。
ソピアグノーシス学園二年の生徒たちに夏季休暇は、ない。その期間は学年全体で林間合宿に出かけるのだ。来年の今頃は進路のことなどもあり、泊まりがけのお楽しみ行事は用意されていないらしい。林間合宿が事実上の修学旅行のようなものだろう。それをそんなにも全力で嫌がるセオドア。
「セオは夏季休暇、何をするつもりだったの?」
「え? そんなの決まってるじゃん。涼しい部屋から一歩も出ず、ゴロゴロして過ごすんだよー。」
王族の中にかなりの怠け者が混ざっている事が発覚した。
「ああ、Eクラスは全員二年に上がらない予定だったから何も説明されていなかったのか。さすが、生贄クラ……ふがっ」
慌てて後ろから口を塞いだが、ルカスはほぼ言い切ってしまっていた。大丈夫だろうかと周りの様子を伺うが、ルカスの声は小さかったので、セオドアの大声に慣らされた2-Aのクラスメイトたちの耳には届かなかったようだ。
「何をする。」
ルカスは私の手をベリっと剥がし取り、軽く払い除けられた。
「それはこっちのセリフよ。いきなり何を言い出すの。」
「本当の事だ。そうでなければ、二年の予定は一年の終わりに知らされていたはずだ。」
「どうしたの、ルカス。なんか変じゃない?」
「………別に、いつも通りだろ。」
その言葉とは裏腹に、いつもよりも更に平坦なトーンで話すルカスに違和感を感じる。
「あっ、分かった。今日は機嫌が悪い。」
「………………そういうお前は今日は機嫌がいいな。」
眉を顰めて振り返ったルカス。今日初めて目が合ったかもしれない。
「そう? いつも割と機嫌がいい方だと思うけど。」
春季休暇の間はかなり気分が落ちていたが、普段はかなりご機嫌ガールだと自負している。
「……………そうだな。何かの勘違いかもしれない。」
「でも、せっかくみんなでお泊まり会だっていうのにセオは楽しみじゃないのかしら。」
「そういうリディ……は楽しみなのか?」
「うん、もちろん。そういうのは(前世も含めて)今まで参加できた事が無いもの。」
学校に行っていなかった事もあるが、そもそも10歳で死んでしまったため通学できていたとしても修学旅行までは生きていなかった。
「ふっ………林間合宿を楽しみだなんて言うリディアはリディ、お前が初めてだ。」
「ふふっ、そうでしょうね。この世界の事を知らない私でも、林間合宿がヤバいイベントだって事だけは分かるよ。」
林間合宿は二年にしかないイベントだ。こんなにもミッションにうってつけの行事はない。
「……とてもヤバいと思っているヤツの顔ではないがな。」
ルカスは呆れた顔で教壇の方に向き直った。
「はい、皆さん。そろそろ落ち着いてください。林間合宿の班分けと部屋割りを決めたいと思います。」
「仲間はずれが出ないようにくじ引きとなってますので、順番に引いてください。」
クラス委員のエリオットとクロエが教壇の前で大きな声を出している。二人は胸の前に箱を持っており、その中にクジが入っているのだろう。
くじ引きの結果、我々チームルカスはなんと、みんなバラバラの班になってしまった。
「チームルカスか。いいね。」
クラス委員の役目を終えたエリオットは自分の席に戻って来た。
「人の名前を勝手に使うな。」
またも心の声が勝手に口に出てしまっていたようだ。
「それにしても本当にみんなバラバラね。」
「リディアは女の子だから別になるとしても、不思議だよねー。」
落ち着きを取り戻したセオドアは班分けの表を見ながら首を傾げる。班分けと言っても、部屋割りも兼ねているため同性5人ずつの班に分けられる。なので、私が皆んなと別になるのは当然として、他のみんなも全員バラバラというのは少し違和感がある。
「くじ引きだからな。まあ、大概そんなもんだろ。」
レオは特に気にしていない様子だ。正直、引きこもり令嬢をしていた私と違って、皆んなは入学前から普通に顔見知りだったようだし、チームルカス以外のメンバーとも仲良く過ごしている。このメンバーに特別な感情があるのは私だけなのかもしれない。
簡単にまとめると、
ルカスチーム
エリオットチーム
セオドアチーム
レオチーム
リディアチーム
クロエチーム
それぞれ5人ずつの班だ。
しかしながらこんなに上手く別れるものか…………と一緒思ったが、そういえば林間合宿はゲームの重要ミッションであった。何らかの強制力が働いているというのが正解だろう。そして当然何かしらの意味があるはずだ。
「ふふっ、楽しみね。」
多少の警戒はしつつも、普通に本音はコレだ。
「本当だね。」
エリオットも笑顔で同意してくれている。
「まだ言ってるのか。まあ……………それでこそリディ、だな。」
そう言って大きなため息をついたルカス。能天気な私がそのため息の意味を知るのはもう少し先の話。林間合宿二日目の事である。




