27.考えてる事が全部口に出る呪い
「まあ、その時の魔物はすでに討伐されているだろうし、多分大丈夫。」
「で、ですよね!」
「……と思うよ。」
穏やかに微笑んでいるエリオットを見て違和感を感じ始める。
「………もしかしなくても、私を揶揄って楽しんでませんか?」
「はははっ、バレちゃった。」
破顔したエリオットに不覚にもキュンとしてしまった。
「エリオット様、そろそろ。」
後ろに控えていた従者がエリオットに耳打ちする。
「あ、そろそろ時間だね。また明日、リディア嬢。」
「はい!教科書とノート、ありがとうございました。また明日!」
いつも通りの笑顔で手を振るエリオットに、私もにこりと微笑んで手を振った。
そして始まった新学期。
「では次………リディア・ヴェルディこの問題を解いてみて。」
「……はい。」
いきなり解答者に当てられてしまった。前に出てチョークで黒板に解を示していく。
「この公式を当てはめて……計算自体は難しくない。それで……。」
でも、こんな事考えながら魔法を放っていては、先に魔物にやっつけられるか、自滅してしまうんじゃないかしら。
「リディア・ヴェルディ!」
ビクッ。
「あれ、間違っていますか?」
完璧にできたと思ったのだが、先生の名前の呼び方は完全に褒められる時の口調ではない。
「……いえ、答えは合っています。しかし、考えている事が全て口に出ていますね。」
「えっ?」
振り返って見ると、席に座っている生徒たちは笑いを堪えているか、呆れた目でこちらを見ている。もちろんエリオットは前者で、ルカスは後者だ。
「す、すみません。」
「考えなくても、正確に魔法を発動できるようになるための勉強ですからね。」
そう言われても、この勉強が実践で役立つとは到底思えないのだから仕方がない。まあ、必要だというならやりますけど………。
「………まあ、いいでしょう。席に戻りなさい。」
頬を引き攣らせている先生。
「はい!」
私は元気よく笑顔で返事をして席に向かう。
その途中でちょんちょんっと制服の裾を引っ張られたので、何事かと犯人に目配せする。
「怒られた後も、ずっと考えが口に出てたよー。」
セオドアが小声でとんでもない事を言い出した。そんなわけないだろう。
「考えてる事が全部口に出る呪いでもかけられているんじゃないか?」
セオドアの後ろの席のレオがため息混じりに呟く。マジか……。また、セオドアがふざけているだけだと思った。
「まあお前には一生無理だろうよ。感性の魔法使いだからな。」
席に座ったところで、私の前の席に座るルカスが後ろを振り向くことも無くそう言った。
「それにしてもすごいね。勉強もちゃんとついていけてるよ。」
唯一褒めてくれたのは隣の席に座るエリオットだ。
「ふふっ、ありがとうございます。エリオット様のノートと教科書のおかげです。」
「それだけできちんと理解してくるのは大変だよ。リディア嬢の努力の賜物だ。」
手放しで褒めてくれているところで申し訳ないのだが、私は何も理解などしていない。エリオットから借りた教科書とノートを丸暗記しただけなのだ。私は一度目にしたものは忘れない。それは勉強も例外ではないようで、『何ページのこの辺に書いてあった公式だな』というような感じで、頭の中で教科書をめくっているだけなのだ。
「この魔法陣の効果は何かしら?………では、リディア・ヴェルディ。」
先生が手に持つボードに魔法陣が描かれている。
「はい、『解毒』です。」
「正解です。次は、応用ですよ。」
別のボードを前に出す先生。
「『防御力4倍アップ』です。」
「………正解です。」
魔法陣の暗記など一番の得意分野だ。考えることも無い。
「よく見ててください。」
ゴオーーー。
「これが炎魔法と風魔法を融合させた技ですね。魔力量が上がり、技術も安定すればこのような合わせ技も使えるようになります。」
ゴオオオオオオーーーーー。
「これで合ってますか?」
「………お見事です。でも校舎や木々を燃やさないようにコントロールや威力調節もできるようになりましょう。」
「はい、分かりました!」
危ないところだった。校舎を半壊したら魔力制御装置を付けられるのだった。そんな事をされれば、ミッションをクリアしなければならない私にとっては自ら死に近づくようなものだ。絶対に気をつけようと、かなり大きく頷いた。
「先生よりも威力が強かったけど、先生は調節してたってことか。」
誰かがボソリと呟いた。
「あ、当たり前でしょ!」
先生はかなり大きめの声で同意した。その生徒はかなりいい仕事をしたようだ。先生の矜持が見事に保たれた。
今日最後の授業は魔法付与。
「次はリディアの最も得意分野じゃないのー?」
教室の移動中、セオドアはご機嫌で私に走り寄ってきた。
「あー、やっぱりそう思うわよね。」
私は苦笑いでセオドアに応える。ここまでいい感じに乗り越えてきたAクラスの授業。最後の最後で大コケしそうな予感に、ははは……と乾いた笑いを漏らしながら教室の扉を開いたのだった。




