15.原因不明の失踪が続いているらしい
運動会が終わると、学園には夏の月がやってきた。
「毎年思うけど、月が変わった瞬間に何でいきなり暑くなるのかな。」
「………夏、だからな。何を言っているんだ。」
「くっ……。」
前世でももちろん四季はあったが、徐々に季節が移っていくのであって、この世界のように月が変わった瞬間に一気に気候も変わるような事はなかった。ルカスにはもちろん全く伝わらず、馬鹿にされて終わってしまった。世界観のギャップが酷い。
「そう言えば最近、学園内で恐い噂が流れてるのよね。」
「恐い噂?」
「そう………この学園の生徒の、原因不明の失踪が続いているらしいの。その噂を証明するかのように、1-Eのクラスメイトたちが次々と姿を消しているわ。」
「…………。」
私はできうる限りの恐ろしい雰囲気を出して説明する。まあ実際には早めの夏季休暇に入ったとかそんな所だろう。入学式の日に私に声をかけた女子生徒たちも最近は姿を見ない。それにしてもルカスはすっかり黙り込んでしまった。怖がらせすぎただろうか。
「なんちゃ……」
「そりゃラミアが校舎内を彷徨いているからな。」
「へ?」
ネタバラシをしようとした私の言葉を遮り、ルカスがとんでも発言をぶっ込んできた。
「森のラミアは誰も討伐しなかったからな。あいつは野放しのままだ。」
「ちょっ……ルカス! いったい何の話?」
自分が始めた怖い話であるが、私は焦り始める。怖い話の真相は往々にして『何だ、そんな事か』であるべきなのだ。怖い現象を、更に怖い真相が上回るなんて事、あってはならない。そんなもの、重大なセオリー違反だ。
「…………ちなみに二年、三年にEクラスがない理由、お前は知ってるのか?」
今度はルカスがただならぬ雰囲気で怖い事を言い始める。確かにEクラスの競技に参加しているのは一年だけで上の学年の姿はなかった。
「ま、まさか……1-Eの生徒は、毎年全員が魔物のエサに………。」
私は自分の身体からサァーっと血の気が引いて行くのが分かる。
「そう……校舎に棲みついた魔物は1-Eの生徒を一人ずつ攫い、最後の一人まで食い尽くし、二年に上がる頃には誰も……。」
「嘘でしょ!」
想像を遥かに超える衝撃的な真相に、私は声を荒げる。
「ああ、嘘だよ。」
「え?」
「そんな訳あるはずがない。二年からはもともとEクラスはなくなるんだよ。」
「どういう意味?」
私はルカスの言葉にホッと胸を撫で下ろしながらも、またもや聞き覚えのない情報に首を傾げる。
「おいお前、ちゃんと先生の話は聞いてるのか? 説明されただろう。1-Eは魔力の量や技術に関わらず、学力が一定以下のものだけ集められたクラスだ。二年に上がる時までに、学力が一定レベルに達していなければ退学。まあ、それはほとんどないらしいが……気をつけろよ、お前は。普通の生徒たちは本来の魔法レベルに応じたAからDまでのクラスに振り分けられる。」
ルカスが物凄く丁寧に説明を始めたため、私は目を丸くする。
そういえばルカスはお助けキャラ的な存在なのだ。ゲームの中でもこうやって色々とリディアに説明をする役割なのかもしれない。
「もー、本当に! 驚かせないでよ。」
「はっ、お前が先に怖い話を持ち込んだんだからな。」
「校舎内に魔物がいるはずないわよね。そんなものがいたら、先生たちが放っておかないもの。」
私は困ったように笑う。自分の騙されやすさが信じられない。
「は?」
「何?」
「ラミアは本当にいるんだよ。」
「ええっ! ……ってそれもどうせ嘘なんでしょ。危うく引っかかるとこ……」
「湖のセイレーン、森のラミア、砂場のセンチピード。それらを討伐することが一年でのリディアのミッションだった。そして俺はセイレーンを、お前がセンチピードを討伐した。」
「それって…………じゃあ本当に?」
「ラミアは今も校舎内を這い回っているよ。」
「もしかしなくても、私が『ソレ』討伐しないといけないんじゃ……。」
「Cクラス・Dクラスにいた場合はな。お前はEクラスでセンチピード倒したんだから問題ねえよ。まあ、Eクラスの課題がそんなに難易度低いとは思わなかったけどな。」
「何で先生たちは気が付かないの?」
「巧妙に姿を隠している。俺でさえ正確な居場所は分からないからな。」
ルカスは小首を傾げながらそう言う。
「何で教えてくれなかったの?」
「何故教える必要がある。お前はミッションをクリアしたんだ。ラミアにまで関わる事ないだろ。お前はルール違反とミッション以外で死ぬ事はないんだから。」
「え?」
「あ、やば。」
「今の言わない方が………?」
「……まあ、大丈夫だろ。」
「しょーもない失言で私を殺さないでよね!」
「そうだな、本当にすまない。これからは気をつける。」
あのルカスが素直に謝っているところをみると、この世界は本当にルールに厳しいのだと痛感する。いや、ルカスのルール違反には今のところ寛容なため、『リディアに厳しい世界』なだけかもしれない、という疑惑が浮上している。
「でも、ミッション以外で魔物を討伐しちゃいけないっていうルールはないわよね?」
私は座っていたソファから立ち上がる。
「あー、何か余計な火をつけてしまったな。」
否定しないところを見ると大丈夫なようだ。
「行くわよ!」
「こんな時間に何処へ?」
今日はもう既に授業が終わり、下校時間をとっくに過ぎている。
「何処って、ラミア討伐に決まってるじゃない。」
私は何の根拠もない不敵な笑みを浮かべ、全く乗り気ではない従者スタイルのルカスを引き摺りながら寮の部屋を後にした。




