# 第三話 「月夜荘」
# 第三話 「月夜荘」
夕暮れ。
オレンジ色の空が少しずつ藍色へと変わっていく。
修司、美月、そして結衣は駅前から少し離れた坂道を歩いていた。
目的地は――
**月夜荘。**
築四十年以上。
古びた二階建てアパート。
昔は学生や若い夫婦で賑わった場所らしい。
だが今は。
「……思ったより古いな」
修司が呟く。
鉄の階段は少し錆びている。
外壁も色褪せていた。
それでも不思議と汚い感じはない。
誰かが大事に守ってきた空気が残っていた。
美月は懐かしそうに見上げた。
「ここが月夜荘です」
その声は少しだけ震えていた。
結衣が聞く。
「美月さん、ここに住んでたんですか?」
「はい」
美月は微笑む。
「小さい頃からずっと」
修司は驚いた。
「そうだったのか」
美月は静かに頷く。
「昔は賑やかだったんです」
「毎日誰かが笑っていて」
「子供たちは走り回っていて」
「夕飯になるとどこからかカレーの匂いがして」
「みんな家族みたいでした」
そう語る美月の瞳は優しかった。
だが。
次の瞬間。
その表情が少し曇る。
「でも今は……」
三人は中庭を見る。
そこには誰もいない。
洗濯物もない。
話し声もない。
静かだった。
静かすぎるほどに。
修司は違和感を覚える。
「確かに妙だな」
その時。
一階の窓が開いた。
中年の女性が顔を出す。
しかし。
隣の住人と目が合った瞬間。
無言で窓を閉めた。
バタン。
結衣が小声で言う。
「なんか怖い……」
さらに奥から老人が出てくる。
だが誰とも挨拶をしない。
視線すら合わせない。
ただ通り過ぎるだけ。
修司は眉をひそめた。
「どうなってるんだ?」
美月は悲しそうに答える。
「五年前です」
「ある出来事があってから……みんな変わりました」
「誰も話さなくなったんです」
風が吹く。
古い風鈴がチリンと鳴った。
どこか寂しい音だった。
修司は尋ねる。
「何があった?」
美月は首を横に振る。
「まだ分かりません」
「でも……」
彼女はアパートの奥を見る。
そこには一室だけ。
ずっとカーテンが閉じた部屋があった。
「原因はあの部屋にあると思います」
修司と結衣も視線を向ける。
201号室。
誰も住んでいないはずの部屋。
なのに。
どこか視線を感じる。
修司は思わず息を呑んだ。
「……気のせいか?」
その瞬間。
カーテンが僅かに揺れた。
誰かがいたような気がした。
結衣が修司の袖を掴む。
「修司さん」
「なに?」
「今……見られてた気がする」
修司も同じことを思っていた。
だが口には出さない。
美月は静かに言う。
「大丈夫です」
「今日は皆さんに会ってもらいます」
「このアパートをもう一度笑顔にしたいんです」
夕日が沈む。
空には月が浮かび始めていた。
その月の光が。
古びた月夜荘を静かに照らしていた。
しかし。
誰もまだ知らない。
五年前の出来事が、
修司たちの運命を大きく変えることになることを――。
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### 次回
# 第四話
## 「閉ざされた201号室」
月夜荘の住人たちは何故心を閉ざしたのか。
修司は五年前の出来事を調べ始める。
そして夜。
誰もいないはずの201号室から聞こえてくる足音――。
「……誰かいるのか?」
月夜荘最大の秘密が、少しずつ姿を現す。




