# 第三部 第二話 ## 月夜荘から来た少女
# 第三部 第二話
## 月夜荘から来た少女
その日の午後。
春風マンションは穏やかな空気に包まれていた。
午前中の騒ぎも落ち着き、住人たちはそれぞれの時間を過ごしている。
食堂では三枝さんが夕食の仕込みをしていた。
かなめは大学のレポート。
ひまりは昼寝。
怜司はソファで読書。
結衣は花壇の手入れ。
そして修司は管理人室で、例の手紙を眺めていた。
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【月夜荘】
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聞いたこともない名前だった。
だが。
春風マンションを作った人物からの手紙だ。
無視できるはずがない。
修司がため息を吐いた時だった。
コンコン。
管理人室の扉が鳴る。
「どうぞ」
返事をする。
だが。
扉は開かない。
しばらく沈黙。
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コンコン。
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もう一度。
少し弱々しいノック。
修司は首を傾げながら立ち上がった。
「開いてるぞ?」
扉を開ける。
すると。
そこに立っていたのは一人の少女だった。
年齢は十七歳くらい。
肩まで伸びた黒髪。
雨に濡れた制服。
小さな旅行鞄。
そして。
今にも泣き出しそうな瞳。
修司は思わず言葉を失った。
少女は何かを言おうとしている。
だが。
声にならない。
唇だけが震えている。
「大丈夫か?」
修司が尋ねる。
すると少女は深く頭を下げた。
その勢いで雨粒が床に落ちる。
そして。
震える声で言った。
「お願いです」
一度言葉が詰まる。
それでも必死に続けた。
「私の家を助けてください」
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静寂。
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修司の胸がざわついた。
手紙。
月夜荘。
そして。
目の前の少女。
全部が繋がった気がした。
「名前は?」
少女は少し迷った後で答える。
「白石 美月です」
そう言って顔を上げた。
大きな瞳。
どこか結衣に似た優しい雰囲気。
だが。
その奥には深い不安が見えた。
「落ち着いて話そう」
修司が椅子を勧める。
その時。
背後から声。
「面白そう!」
ひまりだった。
いつの間にかいる。
「盗み聞きしてたな」
「してない!」
「してただろ」
「九割くらい!」
正直だった。
その後ろからかなめも現れる。
「残り一割は何なんですか」
「お菓子食べてた」
「最低です!」
管理人室がいつもの空気になる。
その様子を見て。
美月は少しだけ目を丸くした。
そして。
小さく笑った。
本当に小さく。
でも。
確かに笑った。
結衣が温かいお茶を持ってくる。
「どうぞ」
美月はカップを受け取った。
その手はまだ震えていた。
「ありがとうございます」
結衣は優しく微笑む。
「大丈夫ですよ」
その言葉。
美月は少しだけ俯いた。
そして。
ぽつりと呟く。
「その言葉」
「久しぶりに聞きました」
静寂。
結衣の表情が変わる。
美月はカップを見つめながら続けた。
「月夜荘には今、誰もそんなこと言ってくれないんです」
「みんな余裕がなくて」
「みんな疲れていて」
「もう終わりだって言っていて」
声が震える。
涙をこらえている。
「でも私は」
そこで顔を上げた。
真っ直ぐ修司を見る。
「帰る場所をなくしたくないんです」
修司の胸に刺さる言葉だった。
帰る場所。
それは春風マンションの住人なら誰より理解できる。
だから。
修司は答えた。
迷わず。
「わかった」
美月が目を見開く。
修司は笑った。
いつものように。
「放っとけないだろ」
その瞬間。
美月の瞳から涙がこぼれ落ちた。
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こうして。
春風マンションの新しい物語が始まる。
それは未来を救う戦いではない。
帰る場所を守るための物語。
そして。
修司たちが出会う新たな仲間との物語だった。
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### 次回
**第三話「月夜荘」**
修司たちは美月と共に月夜荘へ向かう。
そこで待っていたのは、
住人同士が口もきかなくなった古いアパートだった。
そして美月は静かに言う。
「昔は……ここも笑っていたんです」――。




