# 第二部 第十五話 消えた住人 失敗した未来。
# 第二部 第十五話 消えた住人
失敗した未来。
十年後の春風マンション。
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静かだった。
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あまりにも静かだった。
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誰も笑わない。
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誰も帰ってこない。
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まるで。
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時間が止まったみたいに。
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修司たちは廊下を歩く。
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未来の春風マンション。
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ルナの顔色は悪い。
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「知ってるよ……」
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小さな声。
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「でもここまで酷いのは知らなかった」
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かなめが拳を握る。
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「それ絶対おかしいです」
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ひまりも珍しく笑わない。
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「なんか嫌だ」
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怜司も黙っている。
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その時。
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管理人室の扉が見えた。
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十年後の管理人室。
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修司はゆっくり開ける。
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ギィ……
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中は荒れていた。
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机。
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本棚。
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散乱した書類。
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だが。
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机の上だけ綺麗だった。
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まるで。
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誰かが最後に整理したみたいに。
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そして。
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一冊のノート。
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表紙。
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【相沢蓮】
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静寂。
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全員が固まる。
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未来で消えた男。
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その日記だった。
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修司が開く。
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最初のページ。
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【ごめんなさい】
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【全部、僕が始めました】
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空気が重くなる。
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ページをめくる。
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【火事は事故じゃない】
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全員。
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「!?」
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かなめ。
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「それ絶対重要です!」
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修司は続きを読む。
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【僕は未来を知っていた】
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【でも誰にも言えなかった】
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【言えば壊れると思った】
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静寂。
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ルナが震える。
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「私と同じ……」
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蓮も未来を知っていた。
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だが。
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その先の文章で。
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全員が息を呑んだ。
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【ルナを信じなかった】
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【それが最初の失敗だった】
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ルナの目が見開かれる。
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ページをめくる。
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【結衣さんを守れなかった】
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【修司さんを止められなかった】
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【そして】
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最後の行。
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【俺が火をつけた】
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静寂。
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誰も呼吸を忘れた。
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「……嘘だろ」
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修司が呟く。
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だが。
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その時。
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後ろから声。
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『嘘じゃない』
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全員振り向く。
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そこにいた。
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相沢蓮。
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未来の蓮だった。
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全員凍る。
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今の蓮より少し大人びている。
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疲れた顔。
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何日も眠っていないような目。
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だが。
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確かに蓮だった。
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未来の蓮は苦笑する。
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「やっと来たんですね」
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修司が一歩前へ出る。
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「お前が火をつけたのか」
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未来の蓮は答えない。
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代わりに。
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窓の外を見る。
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焦げた春風マンション。
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そして。
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静かに言った。
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「違います」
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全員。
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「え?」
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未来の蓮は笑った。
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悲しそうに。
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「火をつけたのは俺じゃない」
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「でも」
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「俺が真実を隠した」
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風が吹く。
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未来の蓮は修司を見る。
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「だから同罪です」
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静寂。
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そして。
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未来の蓮はポケットから鍵を取り出した。
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古い鍵。
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見覚えがある。
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601号室の鍵だった。
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「本当の答えはここじゃない」
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「最後の秘密は」
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「まだ開いていない」
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修司が鍵を受け取る。
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未来の蓮は少しだけ笑った。
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昔の優しい笑顔だった。
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「今回は」
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「間に合ってください」
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その瞬間。
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世界が揺れる。
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未来の春風マンションが崩れ始める。
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ルナが叫ぶ。
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「戻るよ!」
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光が溢れる。
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視界が白くなる。
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そして――
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気がつくと。
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修司たちは現在の601号室に戻っていた。
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だが。
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机の上には。
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未来の蓮から渡された鍵が残っていた。
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そして。
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鍵には小さなプレート。
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そこに刻まれた文字を見て。
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全員が息を呑む。
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【702号室】
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静寂。
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ひまり。
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「六階の次は七階ぃぃぃ!?」
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かなめ。
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「それ絶対おかしいです!!」
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春風マンション。
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まだ誰も知らない最後の秘密が、
静かに待っていた。
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## 次回
### 第十六話
**「存在しない702号室」**
601号室のさらに先。
誰も知らない七階。
そして――
そこに残されていたのは、
春風マンションを作った人物の最後の願いだった。




