# 第二部 第十四話 五回目の世界
# 第二部 第十四話 五回目の世界
夜。
春風マンション前。
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誰も喋れなかった。
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男の言葉。
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「五回目だ」
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「俺は十年を五回やり直している」
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常識なら信じない。
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だが。
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ここにはルナがいる。
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未来の写真がある。
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未来の部屋がある。
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今さら否定できなかった。
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修司が聞く。
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「お前は誰だ」
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男は静かに答えた。
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「黒瀬悠真」
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初めて名前を名乗った。
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「未来の春風マンションの住人だ」
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全員。
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「未来の……?」
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悠真は頷く。
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「十年後」
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「俺はここに住んでいた」
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「そして火事の日」
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言葉が止まる。
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苦しそうだった。
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「俺は逃げた」
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静寂。
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風だけが吹く。
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「みんなを置いて」
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ひまりが顔を上げる。
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悠真は笑った。
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自分を嫌うような笑顔。
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「助けられたのに」
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「怖くなった」
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「逃げた」
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拳が震えている。
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「その結果」
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「結衣さんが――」
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そこで言葉が止まった。
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結衣も息を呑む。
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言いたくない。
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でも。
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言わなければならない。
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悠真は目を閉じる。
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そして。
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「結衣さんが最初の犠牲者だった」
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静寂。
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かなめが涙ぐむ。
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ひまりも俯く。
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修司は黙ったまま。
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結衣だけが不思議そうに笑った。
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「そうなんですね」
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みんな驚く。
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結衣は震えていた。
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怖くないわけがない。
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それでも。
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笑った。
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「だったら」
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修司を見る。
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「変えましょう」
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静かな声。
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「未来を」
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その言葉に。
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ルナが泣きそうになる。
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未来の結衣は。
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最後まで誰かを心配していた。
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今も同じだった。
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その時。
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未来の部屋のノートが光る。
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ページが開く。
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新しい文章。
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【最終条件】
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全員が見る。
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文字が浮かぶ。
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【失敗した未来を見ろ】
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静寂。
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次の瞬間。
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部屋全体が光に包まれた。
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眩しい。
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何も見えない。
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そして。
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目を開ける。
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そこは。
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春風マンションだった。
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だが。
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壊れていた。
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壁は焦げている。
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窓は割れている。
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静かだった。
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あまりにも。
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静かすぎた。
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「ここ……」
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かなめが震える。
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ルナが呟く。
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「十年後」
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誰もいない廊下。
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誰も笑わない食堂。
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灯りの消えた管理人室。
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そして。
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壁に掛けられた一枚の写真。
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そこには。
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若くない修司。
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結衣。
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かなめ。
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ひまり。
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怜司。
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みんなが写っていた。
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だが。
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一人だけ。
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写真から切り取られている人物がいた。
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全員が凍る。
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修司が近づく。
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写真の裏。
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そこには。
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赤い文字。
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【この人を救え】
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そして。
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切り取られた跡の下に残っていた名前。
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【相沢 蓮】
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ルナが息を呑む。
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悠真も青ざめる。
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「そんなはずない……」
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蓮。
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未来で消えた男。
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火事の日に姿を消した男。
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その人物こそが。
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未来を壊した最大の鍵だった。
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## 次回
### 第十五話
**「消えた住人」**
未来で消えた相沢蓮。
切り取られた写真。
そして――
失敗した未来の春風マンションで、
修司たちは蓮が残した最後の日記を見つける。
その最初の一文は、
**「ごめんなさい。全部、僕が始めました」**。




