# 第五十四話 未来の部屋 【未来の部屋】
# 第五十四話 未来の部屋
【未来の部屋】
地下二階の最奥。
最後の扉。
その前で。
全員が立ち尽くしていた。
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「もう終わりじゃなかったの?」
ひまりが半泣きで言う。
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「俺もそう思ってた」
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かなめがため息をつく。
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「春風マンションって秘密何個あるんですか……」
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誰にもわからない。
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加賀谷が静かに扉を見る。
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神崎も黙ったまま。
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藤堂先生の父。
最初の住人。
希望の部屋。
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全部知らなかった。
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その先。
未来の部屋。
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加賀谷がゆっくり手を伸ばす。
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ガチャ。
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鍵は掛かっていなかった。
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ギィ……
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扉が開く。
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その瞬間。
全員が固まった。
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「……え?」
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暗い部屋を想像していた。
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違った。
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窓があった。
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地下なのに。
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光が差し込んでいる。
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部屋の中央。
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丸いテーブル。
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椅子。
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そして壁一面に。
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何百枚もの手紙。
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「なんだこれ……」
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結衣が近づく。
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一枚取る。
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封筒。
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表紙には。
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【五年後の自分へ】
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かなめも取る。
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【夢を諦めなかった自分へ】
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怜司。
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【人気配信者になった俺へ】
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「誰だこれ書いたの」
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日付を見る。
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三十年前。
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二十五年前。
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十五年前。
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十年前。
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全部違う。
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歴代住人だった。
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神崎が震える声で言う。
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「そういうことか……」
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全員が見る。
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神崎は笑った。
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「ここは未来に手紙を書く部屋だったんだ」
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静寂。
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「辛い時」
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「何も見えない時」
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「未来の自分へ手紙を書く」
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「そして」
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「数年後に開ける」
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かなめが小さく息を呑む。
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壁を見る。
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そこには。
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【未来は必ず来る】
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そう書かれていた。
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結衣の目が潤む。
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怜司も黙る。
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ひまりも珍しく静かだった。
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その時。
テーブルの上に。
一冊のノートが置かれているのを見つけた。
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表紙。
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【次の住人たちへ】
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俺は開く。
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最初のページ。
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藤堂先生の字だった。
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【人は弱い】
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【何度も立ち止まる】
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ページをめくる。
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【だから一人で頑張るな】
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さらに。
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【助けてもらえ】
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【そして誰かを助けろ】
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静かな部屋。
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みんな黙って読んでいる。
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最後のページ。
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そこには。
たった一行。
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【春風マンションの物語は終わらない】
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その下。
空白。
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真っ白だった。
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「……終わってない」
結衣が呟く。
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加賀谷が笑う。
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「当たり前だ」
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神崎も頷く。
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「これからはお前たちの番だ」
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その時。
タマが机へ飛び乗った。
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にゃあ。
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そして。
真っ白な最後のページの上に。
ちょこんと座る。
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ひまりが吹き出した。
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「書けってことじゃん」
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みんな笑う。
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長い沈黙のあと。
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俺はペンを取った。
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真っ白なページ。
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そこへ。
ゆっくり書く。
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【春風マンション管理人 修司】
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すると。
結衣が隣に書く。
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【住人 朝倉結衣】
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かなめ。
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【住人 佐伯かなめ】
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怜司。
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【未来の人気配信者】
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「まだ早い」
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全員笑う。
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ひまり。
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【かわいい住人】
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「自分で書くな」
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笑い声が響く。
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地下二階。
未来の部屋。
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そこは。
過去を振り返る場所じゃなかった。
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未来を信じる場所だった。
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春風マンション。
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ボロボロで。
騒がしくて。
問題だらけで。
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でも。
誰かが帰ってこられる場所。
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そして。
物語はまだ続く。
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## 第一部 完
### 『訳あり美人住人ばかりのマンション管理人になった俺、毎日が修羅場です』
**― 第二部「春風マンションの未来」へ続く ―**




