# 第五十三話 地下二階へ
# 第五十三話 地下二階へ
601号室。
隠し扉の奥。
誰も知らなかった階段。
下へ。
下へ。
さらに下へ続いている。
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「絶対行きたくない」
ひまり即答。
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かなめも頷く。
「今回は本当に嫌です」
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怜司が懐中電灯を持つ。
「でも行くんだろ?」
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全員。
「行くんだろうなぁ……」
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春風マンション住人。
学習能力ゼロである。
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加賀谷が先頭へ立つ。
神崎も続く。
黒崎も。
俺たちも後ろからついていく。
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階段は古かった。
埃だらけ。
何十年も使われていない。
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ギシ。
ギシ。
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足音だけが響く。
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やがて。
階段の終わりが見えた。
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鉄の扉。
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そこに。
古い文字が書かれていた。
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【希望の部屋】
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全員。
「え?」
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神崎も固まる。
「そんな名前は知らない」
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つまり。
建てた本人も知らない。
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怖い。
もう慣れたけど怖い。
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加賀谷が扉を押す。
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ギィ……
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扉が開く。
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その瞬間。
全員が息を呑んだ。
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広い。
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地下二階は。
想像以上に広かった。
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そこには。
古い机。
椅子。
本棚。
炊事場。
布団。
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まるで。
小さな共同生活施設だった。
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「なんだここ……」
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俺は呆然とする。
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すると。
壁の文字が目に入った。
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【人生は何度でもやり直せる】
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かなめが立ち止まる。
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結衣も見つめる。
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白石の言葉に似ていた。
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その時。
神崎が震える声を出した。
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「……そうか」
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「ここだったのか」
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全員が見る。
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神崎は壁を撫でた。
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「春風マンションは」
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「最初はマンションじゃなかった」
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静寂。
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「え?」
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神崎はゆっくり言った。
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「ここは元々」
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「人生をやり直したい若者のための無料宿泊所だった」
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全員が固まる。
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「戦後すぐ」
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「家がない」
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「仕事がない」
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「家族を失った」
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「そんな若者たちを集めて」
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「寝る場所と食事を提供していた」
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ひまりが呟く。
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「シェルター……みたいな?」
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神崎は頷いた。
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「そして」
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「その最初の責任者が」
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神崎は部屋の奥を見る。
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そこには。
一枚の写真。
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若い男性が写っていた。
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優しそうな笑顔。
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その下に名前。
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【藤堂一真】
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「藤堂先生のお父さんだ」
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全員。
「ええええ!?」
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つまり。
春風マンションの歴史は。
藤堂先生より前から続いていた。
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だが。
本当の驚きはここからだった。
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写真の横。
古い住人名簿。
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一番最初のページ。
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【第一号入居者】
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そこに書かれていた名前。
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神崎総一郎。
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全員沈黙。
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神崎本人も固まった。
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「……嘘だろ」
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さらに。
その下。
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【第二号入居者】
加賀谷誠
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「は?」
加賀谷が固まる。
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【第三号入居者】
三枝和代
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「えぇぇ!?」
三枝さんまで叫ぶ。
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かなめが混乱する。
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「待って待って待って!」
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「みんな最初の住人だったの!?」
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そうだった。
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神崎。
加賀谷。
三枝。
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全員。
春風マンションに救われた側だった。
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そして。
名簿の最後に。
赤いペンで書かれた一文。
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【この場所を未来へ残せ】
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その文字を見た瞬間。
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神崎は静かに涙を流した。
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「……守れたな」
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加賀谷も笑う。
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三枝さんも泣いていた。
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長い長い物語。
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春風マンションは。
建物ではなかった。
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誰かが誰かを助ける。
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その想いが。
何十年も受け継がれてきた場所だった。
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そしてその時。
地下二階の奥から。
カタン。
と小さな音がした。
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全員振り向く。
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そこには。
まだ開いていない最後の扉があった。
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扉のプレート。
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【未来の部屋】
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ひまり。
「まだあるのぉぉぉ!?」
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春風マンションの秘密。
まだ終わっていなかった。




