# 第五十二話 まだ終わっていない
# 第五十二話 まだ終わっていない
601号室。
夕焼けに染まる部屋。
机の引き出しから落ちた一通の封筒。
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【まだ終わっていない】
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その文字を見た瞬間。
加賀谷と神崎の表情が変わった。
さっきまでの懐かしさではない。
明らかな緊張だった。
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「……それ」
神崎の声が掠れる。
「まだ残っていたのか」
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俺は封筒を持ち上げる。
かなり古い。
黄ばんでいる。
封は切られていない。
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「何なんですか?」
誰も答えない。
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加賀谷が静かに言った。
「藤堂先生の遺言だ」
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全員。
「え?」
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601号室が静まり返る。
かなめが小さく聞く。
「遺言……?」
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神崎は目を閉じた。
「先生は亡くなる前に言った」
『もし春風マンションが残っていたら』
『その時に開けろ』
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怜司が固まる。
ひまりも固まる。
俺も固まる。
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「待って」
かなめが言う。
「じゃあ誰も読んでないの?」
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神崎が頷く。
「四十年以上」
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長すぎる。
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夕日が差し込む。
部屋が赤く染まる。
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俺は封筒を見る。
なぜか。
少しだけ手が震えた。
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結衣が小さく言う。
「……開けましょう」
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みんな頷く。
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ゆっくり封を切る。
中には。
何枚かの紙。
そして。
一枚の地図。
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「地図?」
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広げる。
春風マンションの見取り図だった。
だが。
見たことがない場所が描かれている。
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地下。
さらにその下。
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【B2】
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全員。
「え?」
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かなめ。
「地下二階!?」
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ひまり。
「まだあるの!?」
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もう驚かない方がおかしい。
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加賀谷ですら青ざめていた。
「知らんぞ……」
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神崎も首を振る。
「私も初めて見る」
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つまり。
建てた本人も知らない。
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怖い。
普通に怖い。
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その時。
紙が一枚落ちる。
藤堂先生の字だった。
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【未来の住人たちへ】
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全員が息を呑む。
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【もしここまで来たなら】
【春風マンションは救われたのだろう】
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静かな声が聞こえるようだった。
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【だが一つだけ】
【まだ誰も知らないことがある】
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風が吹く。
ページが揺れる。
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【地下二階に】
【春風マンションが生まれた理由が残っている】
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沈黙。
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怜司が呟く。
「生まれた理由……?」
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次の文章。
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【白石も】
【神崎も】
【加賀谷も】
【本当の始まりは知らない】
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全員が凍りつく。
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そして。
最後の一文。
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【春風マンション最初の住人を見つけてほしい】
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静寂。
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「最初の住人……?」
俺が呟く。
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その瞬間。
601号室の壁が。
ゴトン。
と音を立てた。
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全員が振り向く。
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壁の一部が少しだけ開いていた。
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隠し扉だった。
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ひまり。
「このマンション秘密多すぎぃぃぃ!!」
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完全同意だった。
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扉の奥には。
下へ続く、
誰も知らない階段が現れていた。
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## 次回
### 第五十三話
**「地下二階へ」**
春風マンション最大の秘密。
藤堂先生が隠した真実。
そして――
地下二階で待っていたのは、
住人たちが想像もしなかった
「最初の管理人の物語」だった。




