# 第五十一話 601号室の管理人
# 第五十一話 601号室の管理人
「……修司?」
俺は固まった。
601号室。
夕日が差し込む部屋。
壁一面の記録。
歴代住人の写真。
日記。
メモ。
そして。
一番新しいノートの最後に書かれていた名前。
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【修司】
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「なんで俺の名前があるんだよ」
背筋が寒くなる。
かなめも青ざめた。
「まだ住み始めて半年ですよね?」
「そうだよ!」
怖い。
普通に怖い。
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結衣がノートを開く。
そこには。
綺麗な字で文章が書かれていた。
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【新しい管理人が来る】
【人の話を最後まで聞く男】
【お節介】
【自分では気づいていないが優しい】
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ひまり。
「当たってる」
「やめろ」
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怜司も覗き込む。
「これ誰が書いたんだ?」
誰も答えられない。
その時。
加賀谷が部屋の奥を見る。
そして。
小さく呟いた。
「……いたな」
「え?」
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加賀谷は懐かしそうに笑った。
「昔の管理人だ」
全員が見る。
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「神崎より前」
「春風マンション最初の管理人」
「住人全員の話を聞いてた変人だ」
また変人。
このマンション、
まともな人いない。
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神崎が静かに言った。
「藤堂先生か……」
先生?
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加賀谷は頷く。
「元教師だった」
「学校を辞めたあと」
「ここで管理人になった」
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部屋を見渡す。
写真。
ノート。
メモ。
全部。
住人の人生だった。
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【就職おめでとう】
【今日は元気なかったな】
【ちゃんと寝ろ】
【焦るな】
【大丈夫】
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たくさんの文字。
たくさんの人生。
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かなめが涙ぐむ。
「全部読んでたんだ……」
加賀谷が頷く。
「誰にも見せなかったけどな」
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その時。
結衣が棚の奥を見つけた。
「これ……」
古い木箱。
鍵付き。
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神崎の顔色が変わる。
「まさか」
加賀谷も驚いていた。
「残ってたのか」
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木箱を開ける。
中には。
一冊の分厚いノート。
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表紙。
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【未来の管理人へ】
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全員。
「おお……」
急に重要アイテム。
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俺は恐る恐る開いた。
最初のページ。
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【もし君がこれを読んでいるなら】
【春風マンションはまだ生きている】
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静寂。
部屋に夕日が差し込む。
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【嬉しい】
【本当に嬉しい】
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なぜか。
その文字だけで胸が熱くなった。
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【この場所は建物じゃない】
【人だ】
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結衣が静かに読む。
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【住人が笑えば生きる】
【住人が諦めれば死ぬ】
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怜司が黙る。
かなめも。
ひまりも。
誰も喋らない。
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【だから管理人へ】
【部屋を守るな】
【人を守れ】
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風が吹く。
ページがめくれる。
そして。
最後のページ。
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そこには。
たった一行。
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【次の管理人も、きっと大丈夫だ】
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その下に。
古い写真が挟まっていた。
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若い頃の加賀谷。
三枝さん。
神崎。
黒崎。
白石。
そして。
中央で笑う一人の老人。
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写真の裏には。
こう書かれていた。
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【春風マンション家族写真】
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誰も言葉を失った。
長い沈黙。
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その時。
ひまりが鼻をすすった。
「……反則だよ」
かなめも泣いていた。
結衣も涙を拭いている。
怜司は顔を隠していた。
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俺は窓の外を見る。
夕焼けだった。
ボロボロのマンション。
変な住人たち。
問題だらけの建物。
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でも。
確かに思った。
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ここは。
帰ってきたくなる場所だ。
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そして。
その瞬間。
601号室の机の引き出しから。
一通の封筒が滑り落ちた。
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表紙には。
たった一言。
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【まだ終わっていない】
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加賀谷の顔色が変わる。
神崎も固まった。
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「……それを見つけたのか」
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部屋の空気が、
再び変わった。




