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# 第四十六話 春風マンション、全国デビューする

# 第四十六話 春風マンション、全国デビューする


「開始五分で十万円入った」


その言葉で。


春風マンション全員が止まった。


滝のような水漏れ。


びしょ濡れの廊下。


流されかけたひまり。


そんな状況なのに。


全員、

スマホを見ていた。


「十万……?」


かなめが呟く。


怜司も信じられない顔だった。


「いや俺も意味わからん」


コメント欄はさらに加速していた。


【ニュースで見たい】


【頑張れ】


【猫元気?】


【地下どうなった?】


【管理人イケメン】


「最後誰だ」


俺が突っ込む。


ひまりがニヤニヤしていた。


「人気出てるじゃん管理人〜」


やめろ。


すると。


また通知。


ピコン。


支援額。


十五万。


二十万。


二十八万。


どんどん増える。


「怖い怖い怖い!」


かなめが叫ぶ。


怜司も震えていた。


「俺の人生で一番見られてる……」


その時。


黒崎が静かに言った。


「……本当に可能かもしれません」


全員が見る。


検査員の黒崎。


いつも冷静な男。


その黒崎が。


少しだけ笑っていた。


「修理費用さえ確保できれば」


「春風マンションは残せる」


その言葉で。


みんなの顔が変わった。


希望。


本当に。


少しだけ見えた。


その時だった。


ピコン。


また通知。


怜司が画面を見る。


そして。


固まる。


「……え?」


「今度は何?」


怜司の顔色がおかしい。


「支援額……」


「うん」


「百万円」


全員。


「はぁぁぁぁ!?」


沈黙。


完全に沈黙。


かなめが震える。


「一人で?」


怜司が頷く。


コメント欄には。


【匿名希望】


それだけ。


名前もない。


メッセージもない。


ただ。


百万円。


ひまりが叫ぶ。


「誰ぇぇぇ!?」


その時。


黒崎が目を細めた。


「……妙ですね」


「え?」


「普通ならありえません」


確かに。


いきなり百万円。


異常だった。


加賀谷も難しい顔になる。


「金持ちの物好きか……」


だが。


その時。


配信コメントに。


新しい文字が流れた。


【春風マンションは残さなきゃダメだ】


全員が見る。


そして。


続くコメント。


【約束だから】


空気が変わる。


加賀谷が固まる。


三枝さんも目を見開く。


「……まさか」


誰も意味がわからない。


だが。


二人だけは違った。


加賀谷は震える声で呟く。


「そんなはずねぇ……」


すると。


配信画面に。


さらにコメント。


【屋上のノート】


【まだ残ってたか】


全員凍りつく。


知っている。


あのノートを。


屋上を。


白石の椅子を。


知っている人間がいる。


その時。


コメントが最後に流れた。


【生きててよかった】


そして。


匿名アカウントは、

二度と発言しなかった。


静寂。


誰も喋れない。


すると。


加賀谷が空を見る。


朝日が差し込んでいた。


「……白石じゃない」


小さな声。


「でも」


「昔の住人だ」


その言葉で。


みんなが気づいた。


春風マンションを覚えている人は。


今住んでいる人だけじゃない。


ここを出ていった人たちも。


まだどこかで。


この場所を忘れていなかったんだ。


その瞬間。


怜司の配信画面が突然揺れた。


コメント欄が一気に流れる。


【テレビ来てるぞ】


【後ろ後ろ】


【外見ろ】


「え?」


全員が窓を見る。


マンション前の道路。


そこには。


テレビ局の中継車。


新聞記者。


カメラマン。


そして。


大量の人。


ひまりが絶叫した。


「全国デビューしてるぅぅぅ!!」


春風マンション再生計画。


予想もしなかった方向へ。


大きく動き始めた。


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