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# 第三十九話 春風マンションの屋上

# 第三十九話 春風マンションの屋上


【屋上】


地下保管室へ落ちた、

古い鍵。


静まり返る地下。


誰もすぐには動けなかった。


白石の最後の言葉が、

まだ耳に残っている。


『ここを、消さないでくれ』


結衣が、

そっと鍵を拾い上げた。


小さく震えている。


でも。


その手は、

ちゃんと前を向いていた。


「……屋上って」


かなめが不安そうに聞く。


「普通、閉鎖されてますよね」


「うちのマンションは普通じゃない」


俺が即答した。


否定できる人がいない。


ひまりは涙目で叫ぶ。


「もう地下で終わりでよくない!?」


「俺もそう思う」


だが。


加賀谷は鍵を見つめていた。


「……屋上か」


険しい顔。


三枝さんも、

少しだけ顔色を変える。


「加賀谷さん?」


俺が聞くと、

加賀谷は小さく息を吐いた。


「昔、

屋上も閉鎖した」


「なんで?」


数秒沈黙。


そして。


「飛び降り防止だ」


空気が止まる。


かなめが息を呑む。


怜司は俯いた。


結衣も言葉を失う。


加賀谷は静かに続ける。


「春風マンションはな」


「“もう無理だ”って奴が、

最後に流れ着く場所だった」


「だから、

屋上は危なかった」


その言葉が、

妙に重かった。


俺は思い出す。


このマンションに来た人たち。


みんな、

どこか壊れかけてた。


でも。


ここで少しずつ、

息をしていた。


その時。


紗雪がぼそっと呟く。


「……屋上、星見える」


全員が見る。


紗雪は眠そうな顔のまま続けた。


「昔、一回だけ行った」


「綺麗だった」


その言葉で、

空気が少し変わる。


かなめが小さく笑う。


「なんか、

普通の青春みたいですね」


「今の状況で言う?」


地下帰りである。


だが。


不思議と、

少しだけ気持ちは軽かった。


すると。


加賀谷がゆっくり立ち上がる。


「……行くぞ」


「今から!?」


ひまり絶叫。


「朝になるぞ」


加賀谷が言う。


確かに。


外は少し白み始めていた。


長い夜だった。


俺たちは地下を出て、

静かな階段を上っていく。


一階。


二階。


三階。


そして。


さらに上。


普段は鎖で閉ざされている、

最上階の扉。


そこに、

古い南京錠が付いていた。


結衣が、

屋上の鍵を差し込む。


カチッ。


静かな音。


そして。


ギィ……


扉がゆっくり開いた。


冷たい朝の風が吹き込む。


屋上だった。


広い空。


古いフェンス。


朝焼け。


そして。


屋上の中央に、

一脚だけ古い椅子が置かれていた。


まるで。


誰かが、

ずっとそこに座っていたみたいに。


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