# 第三十八話 行方不明者
# 第三十八話 行方不明者
バァン!!
地下保管室の扉が、
勢いよく閉まった。
「っ!!」
かなめ悲鳴。
ひまりなんて、
完全にその場へ座り込んでいる。
「やだやだやだぁ!!」
俺も逃げたい。
本気で。
だが。
扉の前。
ボロボロの作業着の男は、
じっとこちらを見ていた。
泥だらけの手。
真っ黒な目。
青白い顔。
そして。
『……まだ』
かすれた声。
『誰も、見つけてくれない』
空気が重い。
怜司が震える声で呟く。
「……白石、さん?」
男はゆっくり首を傾けた。
まるで、
その名前を思い出そうとするみたいに。
その時。
加賀谷が前へ出る。
「……白石」
低い声だった。
「もう終わったんだ」
男の目が、
ゆっくり加賀谷を見る。
そして。
『……終わってない』
その瞬間。
保管室中の棚が、
ガタガタ揺れ始めた。
「うわっ!?」
書類が舞う。
古い写真。
契約書。
住人記録。
まるで、
地下全体が怒ってるみたいだった。
『忘れた』
男の声が響く。
『みんな、忘れた』
その言葉に、
三枝さんが苦しそうに目を閉じた。
加賀谷も、
悔しそうに拳を握る。
俺は気づく。
この人。
ずっと一人だったんだ。
見つけてもらえないまま。
忘れられたまま。
地下に残ってしまった。
その時。
結衣が、
ゆっくり前へ出た。
「朝倉さん!?」
止めようとする。
でも。
結衣は震えながらも、
白石を見ていた。
「……忘れてません」
小さな声。
だけど。
ちゃんと届く声だった。
白石が止まる。
結衣は続ける。
「今、みんな見てます」
「ここにいたって、
ちゃんと知りました」
「だから……」
涙を堪えながら言う。
「一人じゃないです」
静かな地下保管室。
白石は、
じっと結衣を見ていた。
その時。
かなめが、
小さく呟く。
「……私も」
みんなが見る。
かなめは怖そうだった。
でも。
ちゃんと前を見ていた。
「会社で消えそうになっても」
「誰も気づかない気がしてた」
「でも……」
春風マンションのみんなを見る。
「ここ、
気づいてくれるから」
怜司も、
ゆっくり立ち上がった。
「……俺も」
かすれた声。
「見て見ぬふり、
もうしたくねぇ」
ひまりは泣きながら叫ぶ。
「だからもう成仏してぇぇ!!」
台無しだった。
でも。
白石は、
少しだけ笑った気がした。
その瞬間。
ふわっ。
地下保管室に、
暖かい風が吹く。
舞っていた書類が、
ゆっくり床へ落ちていく。
白石の姿が、
少しずつ薄くなる。
『……そうか』
小さな声。
『まだ、ここに人がいたんだな』
加賀谷が、
静かに帽子を取った。
三枝さんは泣いていた。
そして。
白石は最後に、
俺たちを見回した。
『……頼む』
『ここを、
消さないでくれ』
その言葉を残して。
白石の姿は、
静かに消えた。
地下保管室に、
静寂だけが残る。
そして。
床へ、
古い鍵がひとつ落ちていた。
プレートには。
【屋上】




