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# 第三十七話 地下保管室の手形

# 第三十七話 地下保管室の手形


まるで。


誰かが、

床を這って進んだみたいだった。


無数の手形。


埃の上に、

はっきり残っている。


保管室の空気が凍った。


「…………」


誰も動けない。


ひまりなんて、

完全に泣いていた。


「もう無理ぃ……!」


かなめも青ざめる。


「なんで地下に毎回いるんですかぁ……!」


俺も知りたい。


加賀谷だけが、

険しい顔で奥を見ていた。


ガリ……


また音。


暗闇の奥から。


何かを引きずる音。


ゆっくり。


近づいてくる。


怜司が低く呟く。


「……人、なのか?」


返事はない。


その時。


懐中電灯が、

一瞬だけ奥を照らした。


見えた。


白い指。


棚の向こうへ、

スッと消える。


「っ!!」


かなめ悲鳴。


結衣まで顔が真っ青だった。


だが。


紗雪が静かに言う。


「……逃げてない」


「え?」


「こっち見てる」


ぞわりとした。


見えてるのか。


暗闇の奥から。


“何か”が。


その時。


加賀谷が棚を漁りながら叫ぶ。


「305! 405! 古い記録探せ!」


「えぇ!?」


今その状況!?


だが、

やるしかない。


俺たちは慌てて古いファイルを探す。


大量の書類。


古い住人名簿。


契約書。


滲んだ写真。


そこには、

春風マンションで暮らしていた人たちの記録が残っていた。


結衣が小さく呟く。


「……こんなに人いたんだ」


そこには、

今と同じだった。


夢を追ってた人。


仕事を辞めた人。


家族と離れた人。


居場所をなくした人。


全部、

ここへ流れ着いていた。


その時。


怜司が一冊のファイルを見つける。


「……これ」


表紙。


【地下事故記録】


空気が変わる。


加賀谷が振り向いた。


「開くな」


だが。


遅かった。


怜司は、

もうページを開いていた。


そこには、

古い白黒写真。


地下通路。


そして。


若い男の写真。


説明欄にはこう書かれていた。


【行方不明者

 白石 恒一(23)】


かなめが息を呑む。


「……行方不明?」


ページをめくる。


事故当時の記録。


【地下設備点検中、消息不明】


【数日後、地下通路封鎖】


【捜索打ち切り】


その時。


ガリ……


すぐ後ろで音がした。


全員硬直。


振り向く。


保管室入口。


そこに、

誰か立っていた。


ボロボロの作業着。


青白い顔。


泥だらけの手。


俯いた男。


そして。


顔を上げた瞬間、

怜司が息を呑む。


「……カイト?」


違う。


でも。


どこか似ていた。


その男は、

かすれた声で呟く。


『……まだ』


ゆっくり顔を上げる。


真っ黒な目。


『誰も、見つけてくれない』


その瞬間。


地下保管室の扉が、

バァン!!と閉まった。


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