# 第三十六話 返事をするな バチン!!
# 第三十六話 返事をするな
バチン!!
地下通路の電気が、
一瞬で全部消えた。
「きゃあっ!!」
かなめの悲鳴。
ひまりなんて、
完全に俺へ抱きついている。
「無理無理無理ぃ!!」
真っ暗だった。
本当に何も見えない。
湿った空気だけが、
肌にまとわりつく。
そして。
『……修司くん』
また聞こえた。
すぐ後ろ。
女の声。
近い。
近すぎる。
心臓が跳ねる。
だが。
加賀谷の声が飛ぶ。
「返事するな!!」
俺は必死に口を押さえた。
反応したらダメだ。
そう思うほど、
声が耳へ入ってくる。
『……寒いよ』
『ひとりにしないで』
結衣が震えているのがわかる。
かなめも息が荒い。
怜司が低く言った。
「……誰だよ」
その瞬間。
通路の奥で、
カツン、と音がした。
誰か歩いてる。
暗闇の中。
ゆっくり。
こちらへ。
カツン。
カツン。
近づいてくる。
ひまり、
完全に涙声。
「やだぁ……!」
すると。
パッ。
懐中電灯が点いた。
加賀谷だった。
薄い光が、
地下通路を照らす。
だが。
誰もいない。
通路は空っぽ。
なのに。
足音だけが、
まだ聞こえていた。
カツン。
カツン。
「っ……」
俺は背筋が凍る。
見えない。
でも。
“いる”。
そんな感じがした。
その時。
紗雪がぽつり。
「……前」
懐中電灯を向ける。
通路の先。
保管室の前。
そこに、
誰か立っていた。
白い服。
長い髪。
俯いている。
ひまり、
無言で崩れ落ちる。
かなめも半泣き。
「で、出たぁ……!」
だが。
加賀谷は目を細めた。
「……宮坂か?」
その瞬間。
女がゆっくり顔を上げた。
青白い顔。
でも。
優しく笑っていた。
そして。
静かに口を動かす。
『早く』
声は聞こえない。
なのに、
なぜかわかった。
次の瞬間。
ドォン!!
地下全体が揺れた。
「っ!?」
天井から埃が落ちる。
古い配管が軋む。
加賀谷が叫ぶ。
「急げ!」
俺たちは慌てて保管室へ走った。
ギィ!!
加賀谷が扉を開ける。
中には、
大量の古い段ボール。
書類棚。
ファイル。
そして。
壁一面の住人記録。
「これ全部……」
かなめが呆然と呟く。
加賀谷は急いで棚を探す。
「検査で見つかったら終わる……!」
だが。
その時。
保管室の奥。
暗闇のさらに奥から。
ガリ……
何かを引きずる音がした。
全員止まる。
ガリ……
ゆっくり。
近づいてくる。
結衣が俺の袖を強く掴む。
「……修司さん」
震える声。
「奥に、誰かいます」
懐中電灯を向ける。
暗闇。
古い棚。
そして――
床に、
無数の“手形”が残っていた。
まるで。
誰かが、
這いずって進んだみたいに。




