# 第三十五話 地下の奥 深夜一時。
# 第三十五話 地下の奥
深夜一時。
春風マンション地下入口。
俺たちは、
またここへ戻ってきていた。
「絶対嫌だ……」
ひまりが震えている。
完全に小鹿。
かなめも顔色が悪い。
「今からでもやめません……?」
「俺もそうしたい」
だが。
加賀谷は真顔だった。
「検査前に片付けるなら今しかない」
正論が重い。
地下への階段を降りる。
ギシ……
古い音。
冷たい空気。
前よりずっと暗く感じた。
結衣が、
そっと俺の袖を掴む。
「……怖いですね」
「……だな」
でも。
その手は震えていた。
たぶん、
俺も同じだった。
地下倉庫へ着く。
以前来た時と変わらない。
工具。
古い棚。
湿った空気。
だが。
加賀谷は奥を見ていた。
「……こっちだ」
懐中電灯を向ける。
地下の一番奥。
以前は壁だと思っていた場所。
そこに、
古い鉄扉があった。
錆びている。
半分、
コンクリで塞がれていた。
「こんなのあったの!?」
俺が驚く。
紗雪が小さく頷く。
「……前は閉まってた」
加賀谷は低く言った。
「事故のあと封鎖した」
空気が重い。
ひまり、
もう限界。
「帰りたいぃ……」
すると。
カタン。
鉄扉の向こうから、
小さな音がした。
全員停止。
「…………」
静寂。
かなめが涙目で呟く。
「絶対なんかいますよね?」
その時。
加賀谷が振り返る。
「覚えとけ」
低い声。
「何が聞こえても、
名前呼ばれても、
返事するな」
ぞわりと背筋が冷える。
そして。
ギギギ……
加賀谷が鉄扉を押した。
長い音を立て、
扉がゆっくり開いていく。
中は真っ暗だった。
冷気だけが流れてくる。
懐中電灯を向ける。
細い通路。
古い配管。
その奥へ、
ずっと続いている。
「……行くぞ」
加賀谷が先へ進む。
俺たちも続いた。
足音だけが響く。
コツ。
コツ。
やがて。
通路の先に、
小さな部屋が見えてきた。
古いプレート。
【保管室】
加賀谷が扉へ手をかける。
だが。
その瞬間。
後ろから、
はっきり声が聞こえた。
『……修司くん』
俺の名前だった。
全身が凍る。
結衣でもない。
ひまりでもない。
知らない女の声。
すぐ後ろから。
『……助けて』
反射で振り向きそうになる。
だが。
加賀谷が叫んだ。
「振り向くな!!」
空気が震えた。
その瞬間。
地下通路の電気が、
全部一斉に消えた。




