# 第三十四話 地下へ行くな 【地下へ行くな】
# 第三十四話 地下へ行くな
【地下へ行くな】
405号室。
真っ黒なPC画面に、
白い文字が浮かび上がる。
全員が凍りついた。
「っ……!」
ひまりはもう悲鳴も出ない。
かなめなんて、
その場で膝から崩れ落ちていた。
「む、無理です……私もう地下行きません……」
正常な判断である。
だが。
誰も目を逸らせなかった。
怜司が、
ゆっくりPCへ近づく。
「……これ」
震える声。
「カイト、なのか?」
返事はない。
でも。
画面の文字が、
ゆっくり滲む。
【危ない】
その瞬間。
ブツッ。
PCの電源が落ちた。
部屋が静まり返る。
加賀谷だけが、
静かに目を閉じていた。
「……間に合わなかったか」
「え?」
俺が聞き返す。
加賀谷はゆっくり言った。
「昔の地下は、
もっと広かった」
「もっと広い?」
「今は封鎖されてる通路がある」
空気が重くなる。
ひまり、
完全に涙目。
「増やさないでよぉ!」
加賀谷は構わず続ける。
「事故が起きたあと、
閉じられた」
「その先に、
記録保管庫がある」
結衣が小さく呟く。
「……じゃあ」
「そこに、
昔の住人記録も?」
加賀谷は頷いた。
「全部残ってる」
かなめが青ざめる。
「いやいやいや、
完全にホラー施設じゃないですか……!」
否定できない。
その時。
三枝さんがぽつりと呟く。
「……でもねぇ」
みんなが見る。
三枝さんは、
少し悲しそうに笑った。
「地下が怖かったんじゃないの」
「え?」
「みんな、
“忘れられる”のが怖かったのよぉ」
静かな声だった。
「ここにいたこと」
「苦しかったこと」
「頑張ったこと」
「誰にも知られないまま、
消えるのが怖かったの」
その言葉で、
405号室が静まり返る。
怜司が俯く。
かなめも何も言えない。
結衣は、
そっと拳を握っていた。
すると。
加賀谷が俺を見る。
「坊主」
「はい」
「地下行くなら、
今夜だ」
「えぇ!?」
即嫌。
加賀谷は真顔だった。
「検査前に、
隠すもん隠さなきゃ終わる」
現実的すぎる。
だが。
確かにその通りだ。
春風マンションを守るなら、
地下を避けて通れない。
その時。
ひまりが、
恐る恐る手を上げた。
「……質問」
「なんだ?」
「なんで毎回、
夜に行く流れになるの?」
全員、
少し黙る。
そして。
俺が答えた。
「昼はみんな寝てるから……?」
「終わってる住人しかいない!!」
そのツッコミで、
少しだけ空気が緩んだ。
すると。
結衣が静かに立ち上がる。
「……行きましょう」
「朝倉さん?」
結衣は少し怖そうだった。
でも。
ちゃんと前を見ていた。
「ここ、
なくしたくないです」
シンプルな言葉。
でも。
それだけで十分だった。
かなめも、
小さく深呼吸する。
「……私も行きます」
「えっ」
「一人で部屋いる方が怖いです」
それもわかる。
怜司が立ち上がる。
「……俺も」
紗雪は眠そうに言った。
「……地下寒いから上着いる」
行く前提だった。
ひまりだけが、
本気で震えている。
「みんな正気なのぉ!?」
すると。
タマが、
ひまりの足元へ近づいた。
にゃー。
ひまりは猫を見る。
数秒後。
「……行くよぉ」
半泣きだった。
その時。
加賀谷が静かに呟く。
「……地下の奥には、
絶対一人で行くな」
全員が止まる。
加賀谷は、
ゆっくり続けた。
「“呼ばれても”、
返事するな」




