# 第二十二話 403号室の引っ越し地獄
# 第二十二話 403号室の引っ越し地獄
「……今日から住みます」
朝焼けの廊下。
大量の段ボールに埋もれながら、
女性はそう言った。
スーツはヨレヨレ。
髪ボサボサ。
目の下にはクマ。
完全に“限界社会人”だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は慌てて駆け寄る。
「すみません……寝てなくて……」
女性はふらふらしながら立ち上がった。
その瞬間。
ガサッ。
段ボールの底が抜けた。
「わぁっ!?」
中身が全部散らばる。
ノートPC。
資料。
大量のエナジードリンク。
そして。
「……カップ麺多いな」
榊がぼそっと言う。
女性は顔を真っ赤にした。
「み、見ないでください……!」
ひまりが小声で言った。
「社畜の匂いがする……」
わかる。
めちゃくちゃわかる。
すると。
女性は慌てて名刺を差し出した。
「えっと……403号室に入居予定の、
西園寺かなめです……」
名前は強そう。
でも本人は今にも倒れそう。
麗華が名刺を見る。
「IT企業勤務?」
「は、はい……在宅多めで……」
紗雪がぼそっと呟く。
「……夜型仲間」
「嬉しくない共通点ですね……」
かなめは苦笑した。
その時。
ぐらっ。
「あっ」
かなめの身体が揺れる。
俺は慌てて支えた。
軽い。
というか。
「ちゃんと食べてます!?」
「昨日……ゼリー飲料一本で……」
「終わってる!!」
ひまりが叫ぶ。
三枝さん、
即座におにぎり追加。
「はい、食べなさい」
「えっ」
「春風マンションは空腹禁止よぉ」
いつのルールだ。
でも。
かなめは、
受け取ったおにぎりを見て、
少しだけ目を潤ませた。
「……あったかい」
小さく呟く。
結衣が、
そんなかなめを心配そうに見ていた。
たぶん。
どこか自分と重なるんだろう。
すると。
かなめは403の鍵を見ながら、
少し困った顔をした。
「……実は」
「ん?」
「不動産屋さんに、“少し変わったマンションです”って言われて……」
全員、
静かに目を逸らす。
「え、なんで黙るんですか?」
「いやぁ……」
説明しづらい。
地下とか。
天井裏とか。
幽霊っぽい人とか。
プリンとか。
情報量が多い。
その時。
にゃー。
白猫たちが、
かなめの足元へ集まってきた。
「あっ……猫」
かなめの顔が、
少しだけ柔らかくなる。
そして。
そっと一匹を抱き上げた。
猫は安心したように喉を鳴らす。
「……かわいい」
その笑顔を見て、
ひまりがニヤニヤした。
「お、笑った」
「え?」
「かなめさん、今めっちゃ疲れた顔してたから」
「うっ……」
刺さった。
すると。
紗雪が静かに立ち上がる。
「……403、掃除終わってない」
「えっ」
俺も固まる。
忘れてた。
昨日305と303で全部吹き飛んでた。
「……終わった」
俺が呟く。
管理人失格である。
しかし。
かなめはなぜか笑った。
「……なんか」
「本当に変なマンションですね」
その言葉に、
みんな少し笑う。
春風マンション。
また新しい住人が増えた。
訳ありで。
疲れてて。
どこか居場所を探してる人。
そして。
そんな彼女を迎えるように、
403号室の扉がゆっくり開いた。
ギィ……
その瞬間。
部屋の奥から、
女性の叫び声が響いた。
「ぎゃああああああっ!!」
全員固まる。
かなめが青ざめる。
「えっ、な、なに!?」
俺たちは慌てて403号室へ駆け込んだ。
そして。
部屋の中央を見て、
全員沈黙した。
そこには――
大量の白猫が、
綺麗に一列で座っていた。




