第二話 管理人の初仕事は、美人住人たちの胃袋を救うことでした
第二話 管理人の初仕事は、美人住人たちの胃袋を救うことでした
「共用部の電球切れてんだけど。管理人の仕事サボってんの?」
金髪美女――九条麗華は、
鋭い目で俺を睨んでいた。
怖い。
圧がすごい。
なんかもう“怒られ慣れてる上司”の空気。
「いや、だから今日来たばっかで――」
「言い訳?」
「違いますすみません」
反射で謝ってしまった。
社畜の悲しい習性である。
「……ふぅ」
麗華は呆れたようにため息をつく。
「まあいいわ。新人なら仕方ないものね」
助かった。
と思った次の瞬間。
「じゃあ今から直して」
「今から!?」
外は大雨。
時刻は夜十一時半。
普通に帰りたい。
帰る部屋ないけど。
すると、
後ろからひまりがひょこっと顔を出した。
「れーかさん、初日にそれはかわいそうだよ〜」
「甘やかすとダメになるの」
「ブラック企業の考え方!」
「うるさい」
仲良いのか悪いのかわからん。
すると、
ずっと黙っていた紗雪がぼそっと言った。
「……お腹すいた」
全員が止まる。
「え?」
「ご飯」
紗雪は眠そうな顔のまま続けた。
「管理人さん、何か作れる?」
「いや急に」
「ひまりのカレー、昨日のだから危険」
「ちょっ!? まだいけるよ!?」
「前回、お腹壊した」
「たまたまだもん!」
怖ぇよ。
麗華までこめかみを押さえる。
「……確かに、ひまりの料理は兵器ね」
「なんでみんなひどいの!?」
わちゃわちゃ騒ぐ三人。
俺は、なんとなくその光景を見ていた。
――なんだこれ。
昨日まで。
俺の周りには誰もいなかった。
会社辞めて。
連絡くる友達も減って。
安アパートで一人。
コンビニ飯食って寝るだけ。
そんな生活だった。
なのに今。
美人三人が、
目の前で言い争ってる。
状況だけ見るとラブコメだ。
中身はカオスだけど。
「……簡単なのでいいなら作りますけど」
気づけば、そう言っていた。
「!」
ひまりの目が輝く。
「え、作れるの!?」
「まあ、一人暮らし長かったんで」
「神じゃん」
「大げさだろ」
すると麗華が疑うように目を細めた。
「どうせインスタントでしょ」
「失礼だな」
「じゃあ何作れるのよ」
「……チャーハンくらいなら」
沈黙。
なぜか全員がこちらを見る。
「……食べたい」
紗雪が小さく呟いた。
その一言で決定した。
三十分後。
管理人室。
古いキッチン。
狭い。
でも最低限はある。
ジュウウウウ……
フライパンの音が響く。
卵。
ネギ。
ベーコン。
冷蔵庫の余り物。
でも。
腹減ってる時のチャーハンは強い。
「……いい匂い」
後ろから声。
振り向くと、
紗雪がすぐ近くに立っていた。
近い。
めちゃくちゃ近い。
「うおっ」
「びっくりした?」
「するだろ」
「ふふ」
初めて笑った。
ちょっとだけ。
でも、
その笑顔は思ったより柔らかかった。
「管理人さんって、意外とちゃんとしてるんだ」
「どういう意味だ」
「もっとダメ人間かと思ってた」
「失礼すぎる」
その時。
「できたぁぁ!?」
ひまりが突撃してきた。
さらに後ろから麗華。
狭い。
管理人室が女子で埋まってる。
なんだこの状況。
数分後。
四人で小さなテーブルを囲んでいた。
「……おいしい」
紗雪が静かに呟く。
「うまっ!? なにこれ店!?」
ひまり大騒ぎ。
麗華も驚いた顔をしていた。
「……普通に美味しいわね」
「どうも」
すると。
ぽつり、と紗雪が言った。
「ここで、みんなでご飯食べるの……久しぶりかも」
空気が少し静かになる。
ひまりも笑顔を弱めた。
麗華は黙る。
その瞬間、
なんとなくわかった。
みんな。
何かを抱えて、
ここに来たんだ。
古くてボロい、
この春風マンションに。
雨の音が静かに響く。
その時だった。
――ピンポーン。
突然、
管理人室のインターホンが鳴った。
全員が顔を上げる。
「……こんな時間に?」
時計は深夜零時過ぎ。
俺が立ち上がる。
ガチャ。
扉を開けると――
ずぶ濡れの女の子が立っていた。
制服姿。
小さなスーツケース。
泣きそうな顔。
「あの……」
震える声。
「ここ、まだ……空いてますか……?」




